甘酸っぱい日々

面白くても何ともならない世界で 何とかしようとする人達のために

神保町花月本公演「宇宙でクロール・令」 (19/10/5)

2019-10-06 23:30:00 | 神保町花月
***
『宇宙でクロール・令』
19/10/5 14:00~ @神保町花月

脚本:冨田雄大
演出:成島秀和

出演:
石田隼
金成公信(ギンナナ)
ピクニック
光永
松本勇馬(スカイサーキット)
小名木健
天龍
川端武志(コロウカン)
久川みみ子
福永成一郎
ミカちん
倉田あみ
***




本日は神保町花月で、「宇宙でクロール・令」を観てきました。
2009年に、ライス主演で上演されたこの舞台。
今回、オコチャさんが令和の時代に合うよう脚本を書き換えていたのだけれども、大切なエッセンスは全てそのまま残しておいてくれた。
そしてそれに真正面から応える演者の皆さんの熱量が嬉しく、涙が止まりませんでした。

人生に終わりがなく虚無感に包まれたまま生きている「不老不死」と、
心臓の鼓動が一定の回数に達すると、ある日突然時限爆弾のように人生の終わりを迎えてしまう、余命半年と宣告された「半年」。
関町さんが演じた「不老不死」は俳優の石田隼さん、田所さんが演じた「半年」はギンナナ金成さん。
キャストも一新して、演出も全然違って、設定もかなり変えていて、
それなのに、オコチャさんが、「半年」と「不老不死」の2人の掛け合い部分はほとんど変えずに脚本書いてくれたんです。
キャラクターひとりひとりが全力で生きていて、それを見ているのが愛しくて、
クライマックスの全員が思いを爆発させてぶつけ合うところで涙が止まらなくなって、
終演してもすぐに立ち上がれないくらい泣いてしまいました。
話自体が好きだし、オコチャさんが紡ぎ出すセリフが好きだし、それに加えて思い出加点が強すぎて、もう何に泣いてるのかもよくわからなかった。
でもその時間が、本当に心地よかった。

正直に言って、宇宙でクロールを再演すると初めて聞いた時、すごく興味はあったのですが、見に行くかどうかとても迷いました。
それは私の中で、やっぱりあのライスでの半年と不老不死が、とても大切なキャラクターだし、とても大切な関係性だったから。
でも今回見に行って、ライスの時とは二人とも大幅にキャラクターを変えていたので、完全に別物として見られました。
石田さんと金成さんも、自分のキャラクターに合わせた、自分なりの「半年」と「不老不死」を作り上げていらっしゃったというのが伝わってきたから。
自分の大切な思い出が書き換わってしまうのではないか、などというような心配は無用でした。
まあそもそも……関町さんと石田さん……全然ビジュアルが違うし…ね…(笑)(わざわざ言わなくてもいいですね・笑)

10年前の作品だから、ストーリーは正直、あまり思い出せなくて。
半年と不老不死の印象に残るかけあいだったりとか、不老不死が半年の言葉にフッと笑う時の表情とか、
半年が彼女の腕を引っ張って、ギュッと抱きしめるところとか、そういう細かいことしか覚えてなくて。
そもそも私自身、10年前にこの作品の感想を書こうと頑張ったのに、結局まとまらなくて書けず仕舞いだったので、
もはやこの舞台が「とても好きだった」ということしか覚えていませんでした(笑)
でも見ていくうちに、思い出していくんですよね。
そうだった、私このシーンが好きだった。この不老不死のセリフが好きだった、この半年のセリフが好きだったって。
石田さんと金成さんの演技を見つつ、その後ろにどこかライスの面影を感じるときもあったりして、
それでまた胸が熱くなってしまいました。

石田さんと金成さんの演技を生で見れたからこそ、その対比でライスがどうだったかっていうのを思い出すこともできました。
例えば、
『生きるって…なんだ?』
「ドキドキすることだ」
『だったら、俺は死んでるわ』
という、初演でも今回もパンフレットに載っている、この舞台の肝となるかけあい。
この不老不死の『だったら俺は死んでるわ』というセリフ、関町さんは淡々と諦観の表情で言っていたと思うのですけれども、
今回の石田さんは自虐的に笑いながら大声で、吐き捨てるような言い方で。
ああ、こういうところに役者の違いって出てくるんだなあって、新鮮でしたし、興味深かったです。
また、半年が彼女(便宜上彼女と言いますが、ストーリー上では付き合っているのかどうか微妙な存在)に思いをぶつけるシーン。
田所さんはもう、耐えられなくなって、思いが抑えきれなくなって、
彼女の腕を引っ張って自分の方に力強く抱き寄せ、強い口調で言っていたと思いますが、金成さんは優しく抱きしめて、優しく言ってた…。
金成さんの演技びっくりした、このシーンこんな解釈なんだなって。すごく新鮮だった。
……でもここに関しては、ちょっと…思い出補正が強すぎるかもしれない……(笑)
田所さんの恋愛シーンにドギマギしすぎた当時の私が、自分の記憶を改竄している可能性もありますのでご了承ください…(笑)

そして何より。最初はお互いのことが理解できずに素直になれない2人が、徐々に心を開いていき、不老不死がある日、思わず半年に訊ねてしまう。
『なあ…生きるって、なんだ…?』
半年はこう答えた。
「それ、俺に聞く~?(笑)」
もうここが、本当に大好き、今でも新鮮に大好きなライス版のかけあいです。
そして、「それ、俺に聞く~?」の時の田所さんの表情が、本当に大好きだったなあっていうことを、今日思い出しました。
金成さんはもう少しサラっと「それ俺に聞くう?(笑)」という感じで言ってて、これもまた良き。


ちょっと、思い出の話をしすぎてしまったので(笑)、そろそろちゃんと、今回の感想を。
とにかく演者さん達が本当に達者。若手が集まっているのにみんな安定感がすごい。
特に、「半年」にひたすらに思いをいじらしく伝える光永さんはすごすぎる。
見方によってはちょっと鬱陶しく感じられてしまいそうな役を、真っ直ぐな瞳と、切なさを増幅させる独特の声色で見事に演じきっていたと思います。

今日のお昼は、役者さんのファンの方が多かったのかな?
なんとなく神保町に慣れていないお客さんが多めな感じがして、
もっと笑ってもいいんだよって、お客さんの一人なくせに勝手にドギマギしていた私。
なのですが、そんな空気の中で一気に笑いをかっさらい、客席の空気を緩めたピクニックさん、本当にかっこよかったです。


そして最後に。オコチャさんって、やっぱりすごい人だ。
本当に、今になって、この時代になって、改めてオコチャさんの偉大さを思い知らされます。
昔は正直、オコチャさんの脚本、大枠のストーリーは好きでも、セリフが難解だと感じられてしまって、苦手なところもあったんだ。
でも今ならようやく、その意味がわかる。
オコチャさんは昔から、徹底的に、「常識の枠組みから外れた人」のことを描いてきた。
そういう人が主役になる時代が来た。多様な価値観が共存する時代が来た。
オコチャさんは逆に、今まで時代を先取り過ぎていて、ようやっと時代が追いついてきたのだとすら感じられてしまいます。
でも本当にすごいのは、時代が追いついてきたということにおそらくご本人が甘んじておられず、
今回では「新しい価値観についていけない人」のことすら愛おしく描いていらっしゃること。
当然、多様な価値観が認められる時代に、こういう人は出てくる。そういう人すら救っているのだと感じられるところ。
今回、再演という形でこのお話が10年ぶりに日の目を見たわけですけれども、
きっとまだまだ、オコチャさんの作品が求められる場があると思う。
そういう人達にも、もっともっと届いてほしいなと思わされるのでした。


ライスいない舞台見ながら、
ライスのことが大好きだって改めて感じて、立てないくらい泣いて、
家に帰ってきても脚本読みながらまた泣いているなんて、私、こんなにライスのこと、好きだったんだなぁ。

大好きで仕方なかった舞台が、10年後に再演されて、
演者さんやスタッフさんたちも大切にこの作品に向き合ってくれて、なんと台本まで購入できるんだよ。
昔の私に教えてあげたいな。
生きていればいいことあるよ。
生きてきてよかった。
そしてオコチャさん、脚本書き直して再演するチャンス、数ある作品の中から、宇宙でクロールを選んでくれてありがとうございました。
ありがとうの言葉じゃ足りないくらい、ありがとうございました。


神保町花月『ロシュ・リミット ~奇抜探偵・四条司の婉然たる面影~』 (7/11~17)

2014-08-13 02:14:50 | 神保町花月
***
『ロシュ・リミット ~奇抜探偵・四条司の婉然たる面影~』 
7/11(金) 19:00~
7/17(木) 19:00~ @神保町花月

脚本:福田晶平
演出:足立拓也

[出演]
 四条司:文田大介(囲碁将棋)
煙山正義:根建太一(囲碁将棋)
田村宗助:好井まさお(井下好井)
 竹下大:井下昌城(井下好井)

南雲誠一:関町知弘(ライス)
蓮見理士:田所仁(ライス)
相田和彦:安部浩章(タモンズ)
 崎本蒼:大波康平(タモンズ)
立涌華子:山崎ケイ(相席スタート)
日下部渉:山添寛(相席スタート)
南雲亜希:松田百香


[あらすじ]
死体に数字を刻む殺人鬼「ナンバリング・キラー」の犯行と思われる四人目の被害者が発見された。
刑事の煙山からの要請を受け、私立探偵の四条は捜査に合流。
一方、天文学者の南雲は、ある個人的な理由から事件の謎を追う。
二人の運命が交錯する時、事件は思いもよらない展開を迎える!
***


神保町花月が誇る大人気シリーズ、奇抜探偵の7作目。
初日と千秋楽に行ってきました。
このブログにおいて、奇抜探偵シリーズの感想をちゃんと書いているのは、3作目の「踊る脳」だけなのですが、
このシリーズが大好きで、何気にそれ以降全ての作品を見に行っています。
そんな奇抜探偵に、ついにライスが出てくれるって知って、もう嬉しくて仕方がありませんでした。
最初に言っちゃいますが、脚本の福田さん、本当にありがとうございました。

私が本腰入れて神保町花月の感想を書くのがなんと2年ぶり(!)なので、色々変わっちゃったことにも全然気付かなかったのですが、
最近の神保町楽屋裏ブログって、もう千秋楽後に、あらすじを書かなくなっちゃったんでしょうか?
私は今まで、「あらすじは楽屋裏ブログで!私は感想だけ!」という雑なことをやっていたのですが、
今回はそれもできないということで…。
いつも不親切で申し訳ないのですが、あらすじをまとめるのは他の方のブログとかにお任せして、
私は感想のみ、ざくざくと書いて行きたいなと思っております。
よろしければお付き合いください。



奇抜探偵に限らず、推理物というのはだいたい、何かしらの違和感が事件の真相に関わっていることが大きいと思っているのですが、
今回私が抱いた違和感は、妻を殺された南雲先生についてでした。
上手く言えないのですが、私は初めからどうも南雲の行動や言動について引っかかることが多かったんです。
それは、南雲が亜希が殺害されたと知った時に、
「なぜ亜希が死ななければいけなかったのか…」と言っていたところからでした。
私はここで、
「いや、なぜも何も…。犯人は無差別殺人者なんだから理由なんてないんじゃない…?」
「たまたま亜希がタイミング悪く殺されてしまっただけじゃない……?」と思っていて。
そこにどうしてこだわるのかわからなかった。
でも、それこそが今回のストーリーの肝になっていたのかもしれない。
亜希が本当にナンバリングキラーに殺されたのなら理由はない。
でもそうじゃないから、だって本人がナンバリングキラーだから、そりゃ殺される理由がわからないわけだ。
南雲は、亜希を殺した犯人を突き止めようと動き始めるわけですが、
考えてみれば彼は一度も、「連続殺人犯、ナンバリングキラーを探し出す」とは言っていない。
「亜希を殺した犯人を探し出す」としか言っていない。
だって彼は、ナンバリングキラーは亜希だと知っているから。
つまり、四条と南雲は同じ事件の犯人を探そうとしているように見えて、実際は違ったということだ。
お話全体を通して、論理的に考えようと思えば、他にももっときれいに事件の真相に迫れるヒントは色々あったとは思うのですが、
私にとってはこの違和感を解明していくことが、一番真相に近づいたかなぁと思うのでした。



関町さんの今回の役は、天文学一筋で生きてきて、他人に興味がなかった大学教授。
初めて心惹かれた女性と結婚するが、その最愛の妻を殺されてしまい、犯人を見つけ出そうと動き出す。
自分発信でボケる部分がほぼなく、ひたすらシリアスに進んでいく。
クライマックスのシーンで、四条にナンバリングキラーは亜希だと指摘され、
日下部に「自分の奥さんが殺人者呼ばわりされてるんだぞ!なんとか言えよ!」と詰め寄られた時の、
「君は、亜希が殺人者だったら愛せないというのか…?」が最高に最高に素晴らしかったです。
本当に。穏やかに狂った役をやらせたら、この人の右に出る人はいない。
対象的に、四条に「あなたは酔ってすらいない、酔ったふりをしているだけだ」と言われた後に、
「もうやめてくれ!!」と全力で叫ぶシーン。
千秋楽ではその箇所で、涙が一滴はらりと落ちて光って見えたのを見て、
なんか、改めて言うことでもないんですが、
関町さんって本当にすごい人なんだなぁ、と呆然と思っていました。
ただセリフを入れてるだけではなくて、ただ動きをつけてるだけではなくて、
役を自分のものにして、役そのものの人生を引き受けて生きている感じ。
鳥肌が立つほどの気迫でした。
ここまでガチな関町さんを久しぶりに見ることができて嬉しいです。ビリビリ来ました。

一方田所さんも、ずっと蓮見のような役をやりたかったと明かしただけあって、振り切ったサイコな役を完璧にやってらっしゃいました。
サイコなんだけども、短絡的ではなく、妙に理屈をこねくり回している感じがさすが教授っぽくて、それが嫌味を増している。
「殺人に理由があるのが問題だ」「理由ができた時点で純粋性を失ってしまった」などと狂った理屈を平然と述べる感じ。
クライマックスの、自分が亜希を殺したんだと告白するところも狂いっぷりも素晴らしかったですが、
私は個人的には、かなり序盤でライス2人だけで進めるところの狂いっぷりもヒリヒリしました。
南雲・蓮見研究室で、ぼーっとしてる南雲に蓮見が声をかけ、話をするシーン。
南雲が亜希を殺した犯人を探し出したいんだと語りだす。
ここって、蓮見はとてもいい人のように南雲と話しているけれど、実は蓮見こそがその亜希を殺した犯人なんだと知ってから見ると、
本当にぞくぞくしますね。なんて恐ろしいんだろう。
自分が犯人なのに、平然と「君はその犯人を見つけ出したとして、一体どうしたいんだ?」と聞けちゃう神経。
蓮見のサイコな感じを一番実感したのは、2回目にこのシーンを見た時かもしれないな。
しかしもう、ストーリーとしてもそうですが、
舞台上にライス2人だけで、一切笑いどころがないまま5分間シリアスに真剣に芝居を進めていくのが見れたというのは本当にしびれました。
福田さん、本当にありがとうございます(2回目)。


ここからは、ストーリーや演出の面で好きだった点や考えたことを、ざくざく箇条書き。


・シリーズ通して役柄が変わらない四条・煙山・宗助・竹下の4人は、見る度にさらにさらに役柄が染み込んでる感じがしてとてもいいですね。
 いつ見ても、四条の美しくて優雅な所作を見ると、あーきばたんに来たなぁって思う。

・今回の煙山の風貌や雰囲気が、かなり踊る脳事件の時に寄せて来ているような感じがした。
 きばたん内の時系列の中でも、今回の事件はかなり踊る脳に近い時期だったということかしら。

・今回の演出には赤いフラフープが多用されている。
 その人物の話をしている時に、フラフープを顔の前に向ける。スポットライトが当たるような感じを表現しているように思えた。
 そしてそのフラフープをくぐると、その人物が回想の中で動き出す。

・フラフープ以外にも、回想シーンや、時系列が違うシーンを同じシーン内で表現していて、
 その時空さえも取り入れて演出として美しく仕上げていらっしゃる足立さんの手腕に脱帽です。本当にすごい。

・これを文字で書いても何も伝わらないことはわかっているのですが、南雲が蓮見から聞いた話(研究室の男性陣がみんな亜希を好きだった)というのを一人でまとめた後、
 「でも、これが本当に殺す理由になるのかなぁ…」とつぶやいている時に、その男性陣が全員南雲の方を向いている演出がとても好きでした。
 感情を持たない3人が南雲を見つめている様子に、なんだかドキっとした。

・警察を毛嫌いしている南雲が、研究室に四条や煙山達が来て、自分が電話に出ていたらあなた達が来てもいいとは言わなかった、というシーン。
 その南雲のセリフを受けての、「今日はついてるようです」と笑顔で返した煙山がとってもよかった。
 クライマックスシーンで、南雲の車を緊急解錠させたら血だらけの白衣が出てきたところでの、
 「何もなかったら懲戒モンだけど、賭けには勝ったみたいだな!」も好き。
 こういう、「警察の余裕」みたいなものを表すシーンが板についてるところで、煙山の成長も、そして太一くんの成長も感じます。

・南雲が蓮見を殺すシーン、南雲の後ろに亜希がいて、2人は同じ動きをしながら“Ⅴ”の数字を刻むんだけど、
 南雲は数字を刻んだあと震えるように後ずさりしているのに対して、亜希は楽しそうにさらに何度も何度も刺している。
 これが、純粋な殺人者とそうでない者を、切なくも鮮やかにくっきりと切り分ける場面。

・全てを打ち明けた南雲が、白衣とナイフを亜希に渡す場面。
 この箇所の一番の目的は、回想シーンで使った白衣とナイフをハケさせなきゃいけないというところで、それなら暗転にすればいいのに、
 演出の足立さんはそうはせず、あえてこのシーンを作った。
 ここの演出については、色々な意見や色々な感じ方があるだろうなと思います。
 私個人的には、南雲が亜希に、文字通り「自分の荷物を渡す」という意味合いだったのかなぁなんて考えています。
 殺人者を愛してしまったという葛藤、
 愛する人をを殺された苦悩、
 自分が犯人を捜し出してやるんだという重責、
 そういう、南雲が背負っていた荷物を、やっとおろして亜希に渡すことができたというところを、表しているように感じました。
 笑顔でそれを受け取った亜希は、「もう苦しまなくていいよ、ありがとう」とも言っているように見えて。



そして、もう一つ。
奇抜探偵シリーズは、それぞれの作品が基本的に一話完結なので、その作品だけみても十分に楽しめます。
ですが、奇抜探偵を見る上で、「踊る脳事件」が最後に来るのだ、ということを考慮に入れると、
作品の深みが更に増すように感じます。

わたくしなんぞが改めて説明することでもないのですが、一応整理をさせて頂きます。
奇抜探偵は、もともと2011年に上演された1作目~3作目までの3部作が基本となっています。
その3部作の最後である「踊る脳事件」は、煙山が罪を犯してしまい、その謎を四条が解くという内容。
その後、2012年に四条の助手である宗助を主役にした、「宗助スピンオフ」と呼ばれる4作目が制作されるのですが、
4作目以降の作品は、奇抜探偵の時系列では全て、「踊る脳事件」が起こる前の話と考えるそうです。
脚本の福田さんも、踊る脳が奇抜探偵の完結編だと明言しており、それ以降の話を作る予定はなさそうです。
詳しく知りたい方は、ファンの方が作成された、こちらの「奇抜探偵・四条司wiki」をご覧ください。
すごく丁寧にまとまっていてありがたいです。


その踊る脳事件。
煙山は、愛する人を殺害された憎しみから復讐することを誓う。
今まで四条に全て任せきりだったが、この事件だけは自分で片をつけなければいけないと突っ走り、
四条は煙山を止める事ができなかった後悔に苛まれる。
しかし、実はこの踊る脳事件の本編の中では、煙山がどうしてこんな事件を起こしてしまったのかという独白が大半を占めていて、
その煙山に対して、実のところ四条はどう思っているのか、というのは、ほとんど明かされません。
四条の想いが明かされるのは、踊る脳以降の作品。
例えば、第4作目では、宗助は自分の好きになった人が殺人者ではないかという疑念を抱きます。
そこで宗助は、四条に尋ねる。
「自分の大切なひとが、犯罪者かもしれないと思った時、どうしますか?」
それに対して四条は、
「万に一つでも、そうではない可能性を探る」と答えます。
結局、宗助の好きな人は犯人ではなかったのですが、
対照的に四条の大切な人=煙山は犯人となる。
最後まで相手のことを信じ続ける2人ですが、宗助は報われて、四条は報われない。

そして今作。
自分の愛する妻を殺した蓮見を、復讐心から殺した南雲。
彼に、四条は厳しい現実を突きつけつつも、優しく語りかける。
この内容が、まさに、婚約者を殺されて復讐に走った煙山に向けた言葉としてもおかしくないくらい、オーバーラップする。
「愛する人を失いたくないという怖さ」
  →実際に愛する人を失って狂ってしまった南雲、煙山
「程度の差こそあれ、復讐したいという気持ちは不思議ではない」
  →アキを殺した蓮見に復讐する南雲、透子を殺した明子に復讐する煙山
そして最後の、
「あなたはもう罪を犯してしまった。その十字架は消えないが、その罪と真摯に向き合う限り、
 やり直す機会はきっと訪れるはずです」
……踊る脳の時には明言しなかったことだけれど、
同じことを煙山に対しても、思っていたのでしょう。
ただ、この時点では、この四条の言葉を近くで聴いている煙山も、
そしてこの言葉を発している四条自身も、
その想いが自分に向けられるものだとは思っていないし、自分が煙山に向けるとも思っていない。
2人がこれから破滅の道へ向かって行くことを、この時点では本人達は知らず、
知っているのは観客だけなのだ。
それが本当に本当に、悲しくて切なくも、ワクワクが高まる。
こういうところが、年月を重ねて丁寧に築き上げてきた土台があるからこそ、表現できるものなのかなと感じました。


福田さんのツイートによると、残念ながら奇抜探偵は次回作で本当に最終作になってしまうようです。
今回初めて来た人も、また、今まで行ったことない人も、大丈夫です!
全作見ていなくても楽しめます!
私も全作見ていません!(笑)
全作見ていないのに偉そうなこと言えませんが、でも、少しでも興味を持っている人はぜひ見に行って、
このあらゆる方面から丁寧に積み重ねてきた4年間の集大成を、お祝いしに行って頂きたいなと思います。


奇抜探偵シリーズの魅力を人に伝える時に、その魅力を表す要素やフレーズはたくさんあります。
本格的ミステリーが好きな人も楽しめる謎解きストーリー。
観客も謎解きに参加できて、臨場感あるゲームを体験できる。
足立さんの繰り広げる、計算され尽くした美しい演出、徹底された世界観。
そこまでシリーズものが多くない神保町花月の中で、3年間続いている7作目という大人気シリーズ。
たくさんありますけれども、あえて最後に語らせてもらうとすれば、
「それが囲碁将棋だから」って感じでしょうか。
奇抜探偵では、現実社会で囲碁将棋というコンビを組んでいる文田と根建が、
どこかこことは違う世界だけども、探偵と警察だけども、四条と煙山というコンビを組んで動いている。
シリーズを進めて作品を重ねるごとに、四条と煙山は本当に、パラレルワールドで生きてるんじゃないかって気がしてくる。
それくらいの圧倒的な存在感と世界観、説得力があるんだよね。
いつも、エンディングトーク終わり、演者がハケる時に、
最後囲碁将棋の2人だけが舞台に残って改めてお辞儀をする、その様式美にグッとくる。
2人の身長が同じで、メンバーの中でも一際目立っているのが、世界観をさらに引き立ててると感じます。
今回のエンディングトークでも、自分達の演技力を自虐しているような言葉も少しあったけど(笑)、
奇抜探偵は、四条と煙山は、
それが囲碁将棋だから、ここまで魅力的なんだと、改めて思ったのでした。

神保町花月『紫陽花と、うん!いたこっこ。』

2012-06-21 23:23:25 | 神保町花月
なんて言ったらいいのかなぁ。
この不思議な気持ちを、なんて言ったらいいのかなぁ。
前回のライス主演のエクセレントとは、またちょっと違う感動でした。
エクセレントの時は、クライマックスにかけて一気に盛り上がって、一気に感動する感じだったけれど、
今回は、物語的にも、そんなに大きな盛り上がりはなくて。
ハッピーエンドとも言い切れない、ちょっとした切なさが残る。
それでも、じわじわと温かい感動が広がっていく感じがして。
胸がいっぱいになって、言葉が出て来なかった。
ただただ、幸せだなぁなんて気持ちを抱きしめて、帰路につきました。

ちゃんと数えていないんですが、私は多分なんだかんだで、神保町花月をもう30作品くらい見に行っていると思います。
でもその中で、OPで泣いてしまったのは今回が初めてでした。
今回のOP、本当に大好きでした。
曲も、照明も、傘を渡していく演出も、演者さんの表情も、全部がとても魅力的でした。
さらに、最後に全員登場して、パッと傘を開いて、タイトルが出るところ。
なんだか、演劇が総合芸術と言われる所以がわかった気がする。
こんなに全ての要素が一体となって、ぱーんと一緒に提示される感覚って、他では味わえないのかもしれない。
まだOPだけなのに、もうこの時点で、絶対素敵なお話なんだろうなって思って、
とても満たされたような気持ちになって、涙があふれてきてしまいました。
この気持ちを忘れたくないから書きとめてるんだけど、書いていてもこの気持ちのほんの一部も表現できていない気がしてしまうなぁ。

いつぶりだろうって思うくらいに久しぶりな、ライス主演の田所さんメイン。
お話的に、この人がいないと話が回らないから、ほとんど出ずっぱり&尋常じゃない台詞量。
今回は本当に、田所さんのいい所が全部出ていたような気がします。
ころころと喜怒哀楽うつりかわる豊かな表情。
わざとらしくならないのに、細かいところまでこだわっている所作。
そして一番思ったのが、これは宇宙でクロールの半年を見ていた時にも思ったのですが、
この人の素敵なところって、気取らない、気負わないところなんだろうなということでした。
紫陽花は何があっても普通で、あくまで自然体。
幼い頃のことがあったからって、ことさらに悲しんでいるわけでもないし、何かを主張しようとしているわけでもない。
だからどうしようとか、世界を変えようとか、そんな感じは一切ない。
いたこをやっているのも、本人がやりたいからというより、流れにまかせていたらこうなってた、という感じだし。
でも今回、初めはめんどくさいことに巻き込まれたと思っていたけれど、
ユノや古田や中島の話を聞いているうちに、次第に彼らのために尽力し、救っていくことになる。
そんな、肩の力が抜けた主人公像が、まぶしい笑顔の花咲く田所さんにぴったりだと思ったりしました。
だからこそ好きなシーンは、最後に中島に語りかけるところ。
言葉を見つけることは出来なかったけれど、それでも中島に生きてほしいと訴えるところ。
「話すのが苦手な女の子だって、進路が決まらない専門学生だって、
 同僚とうまが合わない社会人だって、知らない国の外国人だって、
 みんな、中島さんに、生きてほしいと思ってるんですよ。」
初日の時には、ここを明るく笑顔で、ライトに言っていたと思うのですが、
2回目に見た時には、とても気持ちが入っていて、語気が強くなっていたと感じました。
どちらもいいんですが、個人的には後者の方が好きでした。
それまで冷静だった紫陽花だからこそ、ここが一番伝えたいところなんだなって思ったから。
久しぶりにメインで動く田所さんを見れて、それがこんなに素敵で、とっても嬉しいです。

関町さんはもう、何度も言っているけど、本当にすごい。すごいしか言えない。
こんなに平然と一人二役をやり切ってしまうなんて、一体この人はどうなってるの。
中島としてと、ユノとして。二人の口調、仕草、立ち居振舞いが全部違う。完璧に別人でした。
ユノになっている時なんて、本当に中の人は女の子だっていうことが感じられて。
なんか、本当に憑依してるんじゃないかと思ってしまうほどでした(笑)
感情の起伏が激しいのに、それを全部自然に表現してるのがすごい。
「私のフリしてさ、古田と話さないでよ…」と切なく呟くところ、
「なんでじゅんちゃんと付き合ってるの!?」と思わず声を荒げるところ、
「ちがうちがう、そうじゃなくて」ともどかしく思っているところ、
そして最後の結婚式で、指輪を受け取って、「なによこのサプライズ…」と涙ぐむところ、
「あなたと出会ったことをね」と、切なくも幸せそうなところ。
ちょっと気が強くて、でもかわいらしい女の子を完璧に演じ切っていました。
さらに、中島としての関町さんも大好きでした。
このお話って、特にサイコチーム(笑)は飛び抜けたキャラの人が多くって、強烈だったんですが、
それでもお話には馴染んでいて一体感があって。
ところが関町さんは、中島として初めに登場したときから明らかに浮いてるんですよね。
一人だけ異質な人が入り込んだ、という感じがくっきりとわかって。
さっき散々書いたOPでも、みんなが一本の傘を次々と渡していく中、最後に登場したこの人は、サエコが置いていった傘を拾う。
誰からも渡されない。誰とも繋がりがない。
そんな中で傘を差して、空を見上げたときの表情があまりにも魅力的で、
言葉がなくても、この人にはきっと何かあるんだろうなって思わされる力があって、もうこの時点で中島という人に夢中でした。
そして結婚式のところでも、ユノから中島に戻った時、
着ているのはウエディングドレスなのに(笑)、中身は本当に中島さん。
生きていてほしいと一生懸命に伝える紫陽花に、「そんなの酷ですよ」と言いきってしまう。
中島は、結局笑顔を見せなかった。
だからこそ最後の最後、顔が見えない状況で、明るく言った生きる理由がとっても輝いて聞こえました。内容は最低ですが(笑)
ユノとは真逆で、ずっと苦しそうな表情で、自分を責め続ける影のある役。
こういう関町さんも久しぶりで、本当に大好きでした。見ごたえがありました。

ユノ、古田、じゅんちゃんチームの3人も、それぞれが主役級の輝きでした。
好井さんは本当にすごいですね。
自分の存在感をしっかり出しているのに、当たり前だけど主役の邪魔はしてない。完璧なサイド。
今回もすごくよかったです。
あえて感情の起伏を出さない感じなんだけど、だからこそその淡々とした口調で語られた最後の、
「じゅんへの気持ち、いっぱいこめた指輪あげるわ」がとても素敵でした。
じゅんちゃんは、最初はとっても嫌な女に見えるけれど、本当はとても健気で一生懸命。
安田がいないと言われた時の「どこにいますか。取りに行きます」なんて、真っすぐすぎて怖いくらい。
でもそれも全て、ユノと古田のことを思っているからだった。
そんなじゅんちゃんに対するユノからの、「誰かのマネなんてする必要ないよ、十分魅力あるんだから」は
ぴったりな言葉だと思いました。
そしてユノ。祖父江さん。
関町さんのところでも書いたんですが、喜怒哀楽激しくて、でもとっても愛らしい女の子でした。
特に印象に残ったのが、古田と再会できて、でも自分がユノだと言ってはいけなくて、
だけど抑えきれなくて、「私が本物のユノなの!古田!!」と切なく叫ぶところでした。
もー切ない。糸が複雑に絡み合ってほどけなくなっていくような感じ。
オコチャさんは毎回本当によくこんなにこじれるお話が書けますよね(笑)
あと、初日は祖父江さんの衣装が、中島と同じ衣装だったのですが、
でも2日目からは、それがユノのままの衣装になったようですね。
ユノのままの姿で登場するのは、最初はちょっと理解しづらいかもしれないですが、
一回わかってしまえば、もう外見をそちらに寄せる必要はないですもんね。
初日に見たときは、最後に紫陽花がユノとお酒を飲んでいるところをさらっと流して見てしまいました。
でも衣装が違ってからは、最後にユノが紫陽花に惹かれてるんだなぁっていうのがはっきりとわかって。
紫陽花の「かわいいなぁと思って」とか、ユノの「ありがとね、紫陽花」とかは、
好きとか愛してるとか一言も言っていないけど、
そして多分二人ともそこまで確実な気持ちはないだろうけど、でも、とっても素敵なラブシーンに見えました。
実は、ユノが一番切ないよね。
古田と別れて、そしてちょっと気になる存在になった紫陽花とも、もう二度と会えないんだから。
それでも素敵な笑顔で、幸せだったのかなぁという印象の方が勝りました。

サイコチーム(笑)は素晴らしいサイコっぷり。
年末年始公演だったら、どうしても真ん中に来て、「普通の青年」役をやることが多い竹内さんが、
今回はちょっとおかしなサイドキャラ。
オコチャさんのYNNで、こっちの方が難しいと言ってましたが、そんなの感じさせないくらいのぶっとびっぷり。
最後は「なんでそんな終わり方なのー!!」と思ってしまいましたが、
それまで詐欺まがいのことをやってたりした分の、勧善懲悪的なところもあったのかなぁと。
フェーブルさんとキャプチャさんの、感情が見えなくて何考えてるかわからないところもよかった。
そしてサエコ!もう素晴らしかった!
「その人呼んで?いいから呼んで!」と笑顔で言い放つところが、最高に素敵だった!(笑)
このちょっとおかしなサイコチームがあったからこそ、全体が湿っぽくなりすぎなかったのかな。

「ねぇねぇ、なんで、咲いてるの?」
冒頭から何度も繰り返される、このカタツムリからアジサイの花への問いは、徐々に徐々に明らかになっていく。
雨が降っているときには、質問にこたえられない。そここそが一生懸命に咲く時だから。
中島に「いたこぶっているのに、言いたいこと何も言えなかった…」と悔やむ紫陽花は、頑張って咲いているアジサイの花に言う。
「一生懸命咲いたって、深い悲しみに、想いは届かないよ」
まるで、今まで自分がしてきたことを自嘲するような言葉。
それでも「うるせー、ばか」と咲き続けたアジサイの花の姿が、これからの紫陽花の姿を現しているような気がしました。


ではここから笑いどころメモ(笑)

・紫陽花「え~まだじゃぁ~ん!どう見てもまだ憑依させてないじゃ~ん!わかるじゃぁ~ん!!」

・古田が紫陽花に「あの…指輪は?」と聞いて、紫陽花がとぼけるシーン。
 紫陽花「え?ゆ、ユビワワ……マラソンの選手か何かですか?」
  古田「いや、アフリカとかのマラソン選手じゃないです!」
 紫陽花「アナベベみたいな…」
  古田「いや、ジャングルの王者タ―ちゃんに出てくるアナベベじゃないですから!」
 (もうこの時のことしか思い出さなかったよね・笑)
  古田「違います!指輪、指輪のこと!」
 紫陽花「指輪のこと…?あの、古い都って書いて?」
  古田「いや違います!指輪を中心に栄えてる都じゃないですから!指輪の案件です!!」
 紫陽花「あんけん……?暗い剣って書いて暗剣??」
  古田「だから違います!」
 もう、好井さんがぜーんぶ拾って広げてくれるから、田所さんが楽しそうで楽しそうで(笑)

・「祭りじゃー!!」と出て行った安田が、歌いながら戻ってくるシーン
 安田「シャカリキカ~リキ~♪走って~るよ~♪」
 古田「いや、Whiteberryの散歩道歌わなくていいんですよ!」
 紫陽花「よくわかったな…!(笑)」
 本当に好井さん、このワンフレーズだけでよくわかりましたよね!!(笑)
  ↓ 
 そしてエンディングで
 ジェン「好井が、謝りたいことがあるんだって」
 好井「さっき、Whiteberryの散歩道って言いましたが、『桜並木道』でした。すみませんでした」
 という謝罪(笑)
 いや、それにしてもすごいよ。
 私も原曲聞いて思い出しましたが、すぐに出てこないって(笑)
 好井「残りの公演で、なんとか正解率を上げたいです」
 そんなゲームをする場ではありません(笑)

・紫陽花「飲みましょう飲みましょう!アサヒでいいですか?アサヒしかないですけど!」

・ウエディングドレスを着たユノの憑依が終わり、中島に戻った瞬間。
 中島「な、なんじゃこりゃー!!」
紫陽花「もはや、中島さんでもないですよ。松田優作が憑依してるんですか?」(笑)

・最後の中島が生きる理由。
 「わたくし、おっぱいパブにハマってしまいました!」
 「わたくし、のぞき部屋にハマってしまいました!」
 まさかここが日替わりとはね(笑)


YNN宮城2でオコチャさんが語っていらっしゃったのですが、元々はライス主演にするつもりじゃなかったそう。
ライスも含め、今回はみんな頼れて、出来ることは分かっている人達だから、
本がもし悪くても、演者の力に甘えることが出来てしまうからと。
そして田所さんも、「他の脚本家さんだったらライスに当てないようないい役を、オコチャさんにもらった」
という感じでおっしゃっていて。
私はその辺りのこと、よくわからないんですが、でも一つだけ言えるのは、今回はライスじゃなきゃダメだったと思うってことです。
なんでって言われたら、うまく言えないんですが、言葉を見つけられないんですが……。
でも、紫陽花があんなに魅力的な主人公で、
中島の立ち居振る舞いだけであんなに惹きつけられて、
ウエディングのシーンが、あんなに息ぴったりで、いいシーンになるなんて、
やっぱり、ライスじゃなきゃできないと思うんだ。
2人は、難しい理屈を飛び越えて、ストレートに心に響いてくる、訴えかけてくる。
だから、惹かれるのかもしれない。
どのコンビだって、「そのコンビだからこそ」を持っているとは思うんだけど、
それをこんなに感じさせてくれるのは、やっぱりライスしかいないんだ。
ライスじゃなきゃダメなんだ。

雨が多い時期はどうしても、うつむいてあるいてしまいがちだけど、
そこから少しだけ視線を上げてみると、健気に美しく咲き続けているアジサイがある。
梅雨が少し好きになれる、素敵なお話でした。


神保町花月『エクセレント!!』

2012-05-19 01:30:34 | 神保町花月
スグルが好きです。
久しぶりに、一切笑いのパートを担わない、一切表情を崩してはいけない役。
関町さんのロボットみたいな、全く感情を見せない演技にぞくぞくしました。
特に好きだったのは、マダラ(というかもはやあれは大さん)に何度も、「ペンギン君よぉ!!」と呼びかけられ、
普段のライブだったら「ちょっと、ペンギンじゃないですよ!」とかやんや言ってツッコむであろうところを、
一切表情を変えずに、「スグルね」と淡々と言い放ったところでした。しびれた……。
そんな風に、心を閉ざしてしまったスグルが、セイヤの命日にはお兄ちゃんとの想い出をいきいきと話し出す。素敵な笑顔で。
そして最後、3年間押し込めて閉じ込めてきた感情を爆発させるかのようにぼろぼろに泣く。
今までと全く対照的で、だからこそ際立つんだ。
あんな関町さん、初めて見た。
あんなに切なくて、苦しくて、でも温かくて、それでも前に進む。あんな関町さん、初めて見た。
何度も何度も「兄貴はロスに行っている」と言い張っていたのに、最後の最後に「死んだ兄貴の形見に触るな」と言ったところも、
とても切ないけれど、でも、ふっと力が抜けたような安心感が来て、大好きなシーンです。
最後の指示だしも本当にいいシーンで。
こちらには背中しか見えていないけど、もうわかるんだ、それだけで。
絶対、絶対にいい表情してるんだろうなっていうのが。
絶望の淵から這い上がって、最後にはあんなに素敵な笑顔を見せてくれたスグルが大好きです。

もう一人のスグルが好きです。
やしろさんの考えることが常人の斜め上すぎて、もう、本当にびっくりしました。
今回の2つのエンディング。幸運にもどちらも見ることができました。
どちらも本当に素敵だったのですが、個人的にはどちらかというと関町verのエンディングが好き。
最初に見たのがそちらだったからっていうのもあると思うのですが、
スグルの本来の姿を表している田所さんが、いい相棒としてサポートしてあげている、っていう方が個人的にはしっくりきたので。
もちろんこれは人それぞれ好みがあると思うのですが、とりあえずここでは、関町verエンディングの田所さん、ということで書いていきます。
彼はいつも、スグルの核心に迫るようなことばかり言う。
どう思っているのかわかっているのに、それをあえて聞くいじわるなところも。
本当はどうしたいか決まっているようなものなのに、部屋から出られない、そんなスグルを押し出すような感じで。
一つひとつの言葉が、突き刺さるように痛くて、でもそれを受け止めないと前へは進めない。
「夏の暑い日だけじゃないだろ!」
「亀次郎はなぁ、勇気を出したんだよ!」
「お前だってわかってるだろ、これ以上逃げてたら本当に戻れなくなるぞ!」
二人でぴったり息の合った、「ただいま」も忘れられない。
わざわざ書くのも野暮ったいですが、家に帰ってきたただいまだけではなく、本当の自分にただいまってことなんだよね。
そして最後のお別れ。
なんだか、主人公が成長して、今まで一緒に行動を共にしていた相棒と離れるというのは、
そういう理論立てて考えるより先に、瞬間的に、「籠の城」での伝達との別れのシーンを思い出しました。すごくだぶった。
照明がゆっくりゆっくり消えていく感じも、まさにそんな感じがしたんだよね。
あと、「愛の賛歌」で素と黒子が別れるシーンも。
あぁ、そうだった。そういえば、あの時の最後の言葉も、「ありがとう」だったんだ。
そう考えると、今回のエクセレントは、今までのやしろさんが関わった作品のエッセンスがいっぱいつまっていたのかな。
温かくスグルを見守る、もう一人のスグルが大好きです。

親方とおかみさんの夫婦が好きです。
スグルを温かく見守り、つらさをわかってあげているからこそ何も言わないという優しさ。
スグルに対してももちろんだけど、この二人のそもそものスタンスもとても素敵でした。
大変なことがあっても、いつも笑い飛ばして明るく捉えていく。
それは無理しているわけではなくて、無理矢理作った仮面夫婦でもなくて、スグルのことが大事だから。
最後の、「言葉がなくても届くもの」からも、本当に本当に素晴らしかった。
本当に、言葉がなくても二人の表情だけで全てが伝わってくる。
スグルを思うからこそ強くなれる、明るくなれる、そんなあたたかい夫婦が大好きです。

モモさんが好きです。
本当の家族ではないけれど、もはや本当の家族と何も変わらないくらいの、厳しさと愛情。
ちょっとストレートに思いを言ってしまうけれど、それもスグルのことを思うからこそ。
「言葉はなくても伝わっているでしょう」と優しく諭して、
スグルにおもちゃ作りに復帰してもらいたいという思いを伝え続けて。
とても魅力的なキャラクターだった、モモさんが大好きです。

ナミが好きです。
特にナミのシーンで好きだったのは、親方とおかみさんとツバサさんで話しているところ。
「泣かないで、おばさま。これは、私が幸せになるために、選んでる道だから」
たとえ今はいばらの道でも、その先に幸せが待ってるっていう、確信溢れた力強い言葉でした。
そしてもう一つ。スグルに何度付き合おうかと言われても、「ごめんなさい」とさらっとかわすところ。
本当はナミもそうしたいと思っているのに、スグルが本心で言っているわけじゃないから、投げやりに言っているのがわかるから、
今はまだその時じゃないと耐えて。
最後に思いっきりぶん殴ってからの、抱きついたときの笑顔がきらきら輝いていました。
芯のある強い女の子、ナミが大好きです。

末っ子っぽい雰囲気のノブナガも、
頼れるしっかりもののキスケも、
美しい歌声で癒してくれたツバサも、
いい意味で空気の読めないポポも、
工場の仲間達、みんな大好きです。

マダラが好きです。
マダラというか、もはやただの大さんみたいになって、ストーリー関係なく大暴れしてるところも好きです。
この素敵な、そしてともすればちょっと重くなりそうなシーンもあるお話の中で、あんなにブレずにいられる力量って素晴らしいと思います。
そんな大さんが、じゃなかった、マダラが大好きです。

やしろさんが好きです。
今まで見てきたやしろさん作品は、基本的にどれも「愛とはなにか」を投げかけてくるもので、
でもその中には、ハッピーエンドではない愛もありました。
そして、周りを捨てて本人達が自分の道を選ぶという、残酷なほど美しい愛もありました。
けれど今回は、とってもシンプルに、とってもストレートに、温かく普遍的な愛を描いていて。
こんなに真っすぐなのに、どうして陳腐にならずに、すっと心に染みわたってくるお話を書くことができるんだろうなぁ。
素敵な言葉がたくさんあって、何回も反芻してじっくりと意味を考えたい言葉がたくさんあって、
それなのにこのお話の肝は「言葉がなくても届くもの」だなんて、すごすぎる。
そして、最後の指示だし。
この舞台が素晴らしかった理由はたくさんあると思いますが、中でも一番は、全体としての統一感だなと思っています。
終演後にお友達と話していて、彼女が言ってくれたのですが、全体が一つの交響曲のようだったと。
静かに始まった第一楽章、ツバサが丘の上でしっとりと歌い上げていたところから第二楽章、
そして「言葉がなくても届くもの」から、最後まで一気に盛り上がり駆け抜けていく、最終楽章。
指示出しのところは、まさにこの二時間に渡る曲の、明るくて壮大なフィナーレでした。
こんなに素敵な世界観を作り出してくれた、やしろさんが大好きです。

ライスが、好きです。
こんなに素敵な舞台だと感じたのも、こんなにスグルが愛しく感じたのも、ライスだからこそです。
二人で一人、二人は同じ運命共同体、そんな設定が自然に感じられたのも、ライスだからこそです。
ここまで感情を揺さぶられて、ぼろぼろに泣かされて、最後には晴れやかな気持ちになって、
好きでいて本当によかったと思わせてくれるのは、やっぱりライスだけだ。
どれだけ言葉を尽くしても足りない。ありがとう。
ライスのことが、大好きです。


感じたことをわざわざ言葉にするのは、ともすれば逆に安っぽくしてしまうことで、
特に私みたいな、貧相なボキャブラリーの人間が書く文章は本当に野暮ったくて、
それはわかっているけど、でもどうしても書きたかった。
今になって、宇宙でクロールの感想をちゃんと書かなかったことをすごく後悔しているから、
やっぱり感じたことはその思いのまま、残しておきたかったんだ。
そんな言い訳をしながら、ばかみたいに長々と書き綴ってきてしまいました。
でも結局、この舞台を表現する言葉は、本当はたった二言でいいんだ。


「エクセレント!!」
「ありがとう。」

神保町花月 『引っ越し先は…?』

2012-03-09 01:31:09 | 神保町花月
映画とかでよくある、「ラスト10分、衝撃の結末!!」みたいなキャッチコピー。
それを地で行っている作品でした(笑)
そして、今回のフライヤーのあらすじ。

 楽しいお引っ越し♪
 今日は引っ越し業者が見積りに来るぞ!!

始まる前にこれを見ても、どんなお話か全くピンと来なかったんですが、終わった時にはあぁなるほど、と。
これが全てだし、こうしか言いようがない。
そりゃぁ、日下部には楽しいお引越しになるわけだ。
というか、なるはずだったわけだ。
いつものように、詳しいあらすじは楽屋裏ブログにおまかせして、勝手に自分の感想をつらりつらりと。

今回、もう見ている途中から、というか、だいぶ序盤から、
関町さんを見ていて、「今回の役にはどうも感情移入できないなー」と思っていました。
それは、引っ越し業者3社も一気に呼んで、価格を競合させるという、元々の計画の意地悪さももちろんあります。
引っ越し業者の3人が一度落ち着きましょうとなった時に、「失敗したー!!」とか言っているのを見て、「そりゃあなたが悪いよ」とか思っていました。
加えて、なんで彼女の部屋の中なのに、コート着たままなの?という疑問も。
(これは後から考えてみると、外から無断で侵入した直後だったからなのかなぁと)
でもそれだけではなくて、どうもこの人には共感できないという、上手く説明できないけれど、肌で感じる違和感があって。
今までの関町さんの役は、たとえそれがちょっと悪かったりひねくれた役でも、この人はそういう人なんだね、と納得できる何かがあったけれど、今回はそれすら全くない。
その理由が最後に明かされて、終わった時に、あぁなるほどと思いました。
ストンと腑に落ちた感じがした。
本当の自分を隠している人を演じてたんだね。
だから初めの方は、違和感があったんだ。
ついに関町さんは、目とか耳とかで理解することじゃなく、第六感に訴える演技ができるところまで行ってしまわれたようです。本当にすごいなぁ。
ただ、この役の怖いところは、本当の自分を隠している意識があまりないところ。
普通、いくら自分がストーカーしている子の彼氏だと妄想していたって、お兄さんに自分が彼氏ですとは言わないと思います。
そう言ったところで、事実がバレるのも時間の問題ですし。
けれども、そういう先を見通した考えや、罪の意識が欠落してしまっている。
本気でそう思い込んでいるところがある。
それが怖いなぁと思って見ていました。
「僕がどこに引っ越そうと勝手じゃないか!!」もすっごく良かった。
そりゃあ西島さんに、「関ちゃん本当にストーカーやってたんじゃないか」と言われるわけです(笑)
あーぁ。またこうやって、結局関町さんをベタ褒めしてしまった。
「箸が転がっても笑う年頃」なんて言いますが、私はそのうち、関町さんが箸を転がしただけでも褒めるんじゃないだろうか。

田所さんは本当に器用だなぁ。
久々に、その器用さが前面に出てきた気がします。
日下部の家で、家具の大きさをはかっているときの、あのスムーズに仕事をこなしていく感じ。
単独の時にも思いましたが、本当に細かいマイムがうまいんだよなぁ。
そして、日下部にもっと安く出来ないかと詰められているときに、「他社のことはわかりかねますが…」とさらっとかわしていくところ。
出来る人感がすごい。
自分がなぜ好きでもないのに映画マニアになってしまったかを切々と語るところも、真剣なのにバカバカしくて(笑)
この舞台が終わった時の一番の感想は、「まともな人が一人もいないな!!」だったんですが(笑)、
それは、最後の砦と思ってたこの人が崩れてしまったからかも。
最後に、うちが引っ越しやりますよと言いだしたときに、なんで!?と思ってしまって。
この人も日下部相応に狂ってるんじゃないかと思ってしまったんですが、仕事人間一筋なところが、そうさせてしまったのかな。
そう考えると、こちらも同じように、罪悪感とかは欠落してしまっていて、ただ自分の思うままにって感じだったのかもしれませんね。

あとはやっぱり林さん!
物語の中盤で、「夜逃げっすか?」とさらっと言ったところで、おっ話が動くぞ!とわくわく。
注目させているのに、あざとくならないところがいいですよね。
最後に日下部に語る、ブラックな感じもすごくよかった。
占いの「一度言ったことは変えない」という注意の通り、最終的に本当に6万3千円になったところも、綺麗でよかったなぁ。

橘さんの、ちょっとふがいないけれど、妹を守ろうとするかっこいいお兄ちゃん。
西島さんの、後輩に頼られる仕事もプライベートも順調なやつっぽい雰囲気、そしてインポッシブルと遊ぼう(笑)
インポッシブル二人の、部下に食われかけながらも奮闘する上司っぷり。
枝村さんの、かわいらしいけどところどころ無神経にふるまうところ、そしてあの笑いかた(笑)
みんなとってもよかったです。

最後に、脚本の春名さんのブログの締めの言葉がとっても素敵だったので、
そのまま拝借してしまいます。

「ね、皆でまた、ここに集まろうよ!!」


何回もライブや神保町に行っていると、なんだか行くのが当たり前になってしまっていますが、
でも冷静になって考えてみたら、演者さんもお客さんも、こうやってみんなが集まって、一つの場所で同じものを見てるって、とても貴重なことだなぁって。
また、集まりたいな。毎回、新鮮な気持ちで。

神保町花月 『今宵、』

2011-12-12 23:50:42 | 神保町花月
だいぶ時間が経ってしまったのですが、少しだけ感想残してみることにします。
申し訳ないのですが、ほぼライスのことしか書いていません。
いつもの通り、あらすじは楽屋裏ブログにお任せし、好き勝手つらつらと。

今回のお話は、ストーリー自体はなんというか実がなくて(笑)、ただただ同じところを延々とループしていくという。
でも、その時間感覚失われる感じが、今の私にはとても心地よかったです。
頭の中空っぽにして、色んなこと忘れて、自分自身も夢の中にいるような気持ちで見てました。
なんだか今は、サクセスストーリーやハッピーエンドは見たくないという、ゆがんだ精神状態だったので(笑)
加えて、ただただ麻雀やりたいというちょっとダメな感じが、とても気楽に見れました。

ライス中心の話になってしまって申し訳ありませんが、結局やっぱり、神保町の話になると関町さんに尽きます。
今年のライスが出る神保町は、全て関町さんが主演で、
なんならグランジ班でもジューシーズ班でも、なぜか関町さん主演という異常事態で(笑)
それはもちろん嬉しい限りだったのですが、今回こうやって、久しぶりに2番手で動いているところを見るのもとても楽しかったです。
家城さんに振り回されながらも、結局言うとおりにしてあげる優しいところも。
そして黒木さんの夢を叶えてあげようと必死になるところも。
2人のシーン、本当に良かったなぁ!
黒木さんがもうすぐ死んでしまうと言いだした時の、あの沈黙があってからの関町さんの「……え?」がたまらない。
咳込んでお茶を飲むところの意味合いが、全く変わってきてしまうのも見もの。
それなのに、話として重苦しくならないところは本当に微妙なさじ加減なんだろうな。
そして、黒木さんのブログを拝見して、なんだかぐっときました。
重い思いを誰にも言わずに一人で抱え込み、最後まで「やるんだよ!!」と必死に麻雀を実現させようとした、
人の良さみたいなのが自然とにじみ出てくる関町さん、すごくいい2番手だったと思います。

田所さんは、これもまた、こういう田所さん久しぶりに見たなぁという感じで。
女の子とラブラブ、といった感じは、最近は関町さんの専売特許のようになっていたので(笑)
いつぶりか考えてみたら……10年計画ボーイズ以来??
関町さんには強気でいけるのに、彼女にはでれでれで気持ち悪くなるところ、とってもよかったです(笑)
もっとそういうシーンあってもいいくらいでした。

そして今回とてもわくわく・ぞくぞくしたのが、何度もループされるシーンの掛け合いでした。
特に一番好きだったのが、田所さんがせっかく彼女を連れてまで戻ってきたのに、一人足りないということを知って怒りだすところ。
「今一人足りないんだよ」
「はぁ!?どういうことだよ」
という、ライス二人の応酬のところ。
このシーン、結局3回行われたと思うんですが、全く同じように、まるで映像を流しているかのように演じられる二人を見て、ぞくぞくしました。
お芝居なのに、映像のようにまるっきり同じに再生できるところ。
加えてなんというか、無機質な感じがすごくよかったです。
まるで感情や温度が感じられない、淡々とした演技。
感情を爆発させて激昂するシーンだって上手い二人なのに、あえてそれを押し殺して、まるでロボットみたいに演じられるところ。
今まで気付かなかったのですが、私はライスのこういう無機質なところが結構好きなんじゃないかと、今更思うようになりました。
例えば、セリフを一文字変えてみようのネタでの、あの淡々とセリフを言っていくところとか。
そして例えば、転換のネタで何度も繰り返される、「今月厳しいんだ来月でもいいか?」「お前先月も同じこと言ってたからな」の応酬。
こういうライス、好きだなぁ。
改めて、振り幅の広い人達だと実感しました。

色々な意味で「久々」が多いお芝居でした。
とても楽しくて、そして本当の夢みたいな雰囲気が心地よかったです。

神保町花月『踊る脳事件 ~奇抜探偵・四条司の苛烈なる雪辱~』

2011-10-05 01:14:48 | 神保町花月
ずっと気になっていたのになかなか見に行けなかった、奇抜探偵シリーズに行ってきました。
ひさしぶりに、見終わった後に色々と語りたい、考えたい公演でした。
いつもの通り、詳しいあらすじは楽屋裏ブログに任せて、自分の考えたことをつらつらだらだらと書いていきます。
ちなみに、普段だったら人物ごとに感想をまとめているのですが、今回はなんだかそれが上手くいかなかったので、
印象に残った台詞を中心に、好きなシーンをざくざくと取り上げていくことにします。
ただ一回しか見れなかったので、多分細かい言い回しは違っていると思いますがお許しください…。


・「お前は、一年前の事件の関係者か?」
 このお話って、観客側にとっては、時間軸がずれていて難しいのですが、
 実は煙山にとってはそんなに難しい謎ではない、というところが肝ではないかと、個人的に思っています。
 私達観客は、一年前の事件というのは透子が謎の死をとげた事件だと思っているけれど、
 Side-Bの煙山が言っているのは、夏芽が死んでしまった時の事件。
 この事件の主要な関係者といえば、自分と明子と四条くらいしかいない。
 そしてこの次の「女か?」でNOだったので、もうこの時点で、煙山は謎の声が四条だと確信を持ってたと思う。
 加えておそらく、四条も、煙山が自分が誰かということに気付いているのを、わかっていたと思う。
 わかってて、その後の会話続けてるんだと思う。
 そこには二人にしかわからない絆があるんだと思う。
 私は今回、この3作目しか見に行けなくて。
 もちろんこれだけでもすごくいいものを見たのですが、やはり今までの作品を見て来られた方にはさらに思うところがあったんだろうなあと。
 今まで共に事件を解決してきた二人が、対立してしまったから。

・「生涯一刑事、って感じの人でしたからねぇ」
 桂川が、煙山が刑事を辞めたと聞いたときに、意外だと言ったシーン。
 この台詞が、なんだかすごく私の印象に残っています。
 実際、煙山は一刑事だったってことなんだろうなと。
 刑事を辞めたけれども、真相を追い求めているという点では。

・「俺が誰かを当てろ」
 気持ちが高ぶってしまった煙山は、今まであいつに頼ってきた、でもそれじゃダメだって気付いたと半ば叫ぶように言う。
 だからこれは自分で解決しなければいけないことなんだと。
 (ここで、舞台後方を四条が走り抜ける演出も素晴らしかったなぁ!)
 それを聞いた謎の声は、少し沈黙した後、冷たくこう言い放ちました。
 この謎の声が四条だということを踏まえて思い返すと、なんだかたまらないものがある。
 四条に頼っていてはダメだ、と自分で全て決めて突っ走ってしまった煙山と
 自分は結局煙山という一番身近な人を救えなかった四条、どちらの思いを考えても切なくて。
 沈黙の間、四条は何を考えていたんだろう。

・「お前は俺を、恨んでいるか?」
 この質問に対して、四条は答えなかったし、煙山は答えを求めるのを途中でやめた。
 煙山は、聞かなくてもわかってると、四条が自分のことを恨んでいると決めつけているようだったけれど、
 でも、四条はあの質問で、本当にYESと答えただろうか?
 そう答えられるなら、すぐに言えたはず。
 だけど、すぐにそう答えられなかったのは、あれがYESかNOでしか答えてはいけないルールだったからではないだろうか。
 そんな簡単にどちらかと言える問題ではなかった。
 恨んでいる気持ちもあったかもしれないけれど、
 それよりも、何で自分に相談してくれなかったんだというもどかしさとか、煙山を止められなかった悔しさとか、自分を責める気持ちとか、
 そういうあらゆる思いがあって、ただ単に恨んでいるという言葉だけでは言い表せなかったんだと思う。

・「止めてほしかったのかもしれない」
 ここすごく好きでした。整理された部屋に、『踊る脳』というメモだけが残されている感じを想像すると余計に。
 きっと、止めてほしかったんだと思う。
 加えて、このたった一言だけで、四条が真相に辿り着いてくれることを信じていたんだと思う。

・「言いたいことが山ほどあるんだ」
 竹下が煙山を逮捕する時の言葉。
 四条と同じように、竹下も悔しかったんだと思う。
 自分で全て決めてしまって、何の相談も無しに犯罪に手を染めるという方法を選んでしまうなんて。
 これは1作目から見ている人は、思うところがよりあっただろうなぁ。

・「あの、先生、僕変なこと言ってるかもしれませんが、いつか煙山さんが罪を償った時は…」
 「その時は、ここでこきつかってやるつもりだ」
 このお話って、決してハッピーエンドとは言えない。
 誰も救われない、誰も勝利者ではない。全員がどうしようもない気持ちを抱えている。
 けれど、この言葉を聞いたときに、なんだか希望を感じたんです。
 絶望の中に差し込んで来る一筋の光という感じ。それでもどうにかして未来を信じたい感じ。
 これ、どこかで思ったのと同じような感覚だなと思っていたら、同じく福田さん脚本の雨プラでした。


最後に個人的な笑いどころメモ。

・四条のポーズは、宗助に言わせると「あーいとぅいまてぇーん!!」のポーズ(笑)

・宗助「へんなくせ…えんあくえ…円楽さん」
 四条「だとしたら円楽さんではないよ」

・謎の声「たこやきー!たこやきー!」←ぷよぷよの連鎖

・竹下「し、四条大橋!天気がいい日は水面に映るぜ!」←棒読み

・河村隆一が終わった時にはXJAPANになります

・謎の声の「食べんでよ~」推しはなんだったのか

・「そーれそーれそれよっしゃー!!」

・サイケデリコ推し(笑)超懐かしい!当時よくマネしてたなぁ。

・「気合いの入ったー!」「はいはいはい!!」「女同士」「やるときゃやりましょ!!」
 これも懐かしすぎる!!
 ひっさしぶりに聞いたよ(笑)
 囲碁将棋及びその界隈のライブに行ったり、トークを見たりしているといつも思うのですが、
 彼らのネタがリアルタイムでわかっているのって、私ぐらいの年齢の人がギリギリなんじゃないでしょうか(笑)
 今の中高生達、青色7なんて絶対知らないでしょ(笑)

シリアスなシーンが多かったけど、監禁シーンでの煙山と謎の声とか、笑いもたくさんあってよかったです。
そしていちいち、「そこチョイスしてくる!?」というのが面白くて(笑)


最後にもう一つ、印象に残った言葉。
犯人当てに入る時の、「四条司です!」の後に、文田さんがさりげなく言った言葉。

「これで最後かと思うと、寂しいものがありますが…」

四条としてではなく、素の文田さんがさらっと言ったところが、余計にぐっときました。
きっと文田さんにとっても、とても思い入れのある3部作だったんだろうなぁ。
私は今回しか見に行けなくて、本当に残念で。もっと見たかった。
いつかまた、四条さんと煙山さんに会える日を楽しみにしています。


神保町花月『せりざわ君、キミは間違っている。他』

2011-04-06 23:54:39 | 神保町花月
久しぶりの劇場、すごく楽しかったです!
今回もあらすじは神保町ブログにおまかせし、私の感想をつらつらといきます。

やっぱりやっぱり関町さんです。
今回も相変わらず、非の打ちどころがないくらい素敵だったなぁ。
ひねくれていて、心に闇がある感じが本当に上手い。
始めの「バカじゃねえかこいつ」からの長台詞で、一気に空気を変えたのがすごいなと思いました。
世界を悲観的に見ていて、ひねくれていて、投げやりな態度。
それなのに、スカルプと出会えてからは、その様子ががらっと変わるのが印象的だったなぁ。
ともひろもスカルプも、ただ友達がほしい、ただ信頼できる相手がほしいって思っていて、
その純粋な気持ちが残っていることがすごくよくわかった。
だからこそ、「世界を真っ黒にしてやる」という悪事で団結してしまったのが、とても残念に思えてしまいました…。
本当は悪い人たちなんじゃないってわかるから。
このギャップを平然とやりきった関町さんに、結局今回も心奪われっぱなしでした。

押見さんは、世の中の矛盾とかはかなさとか、そういうものをじわじわとあぶりだすようなお話を書かれていて、
この方は一体普段何を考えていらっしゃるんだろうかと、とても気になりました。
ハッとさせられるような、心がえぐられるような。
例えば、ともひろが若田とよりを戻して、いちゃいちゃし始めるところ。
さっきまであんなに仲良くしていたスカルプに対し、思わず冷たい言葉を言い放ってしまう。
人間の黒い部分を見せられたところというか。
もう一つ、若田と亮ちゃんマンの取り調べのところも忘れられませんでした。
悪いことをやったやつを殺したまでだから、自分は正義だと言い張る亮ちゃんマン。
じゃあ、その亮ちゃんマンを捕まえている若田は、正義なのか、悪者なのか……?
見ている私の価値観まで、揺るがされそうになりました。
本当の正義ってなんなんだろうか。
自分が善だと信じているものを、本当にそうなのかなって思うと、ちょっと怖くなってしまいました。
押見さんは一体、何を考えて生きているんだろう……。

……とか、とか、とか。
色々と書いてきましたけれども、こういうことを考えられるようになったのは、公演が終わってだいぶ経ってからの話。
終演直後は、とにかく全員のキャラの濃さに圧倒されて、「なんだこれ!!!」としか思えなかったのが正直なところです(笑)
もうなんなの!!
「普通」の人が一人もいなかったよ(笑)
若田のゲイっぷり、徹底していました。
私が行った日のエンディングで、徹さんが関町さんに苦情。
徹さんは、ゲイ役なんだから徹底的にちゃんとやりたい、と。
がっつり役を入れてる徹さんは、アドリブで関町さんとおでこをくっつけたかったのですが、それをやろうとしたら関町さんに避けられたらしい(笑)
関町「どこに力入れてるんですか!!」(笑)
いやぁそれほど、徹さんがノリノリでやっていました。
上手かったなぁ、ゲイ役上手かったなぁ(笑)

田所さんの衝撃…(笑)
あんな格好なのに、ちょっとかわいいと思わせてしまう魔力。
クトゥンになるのだけは許せなくて、ひとみちゃんになってしまったお父さん。
素晴らしかったのが、こちらもギャップの話になってしまうのですが、いきなり素の姿に戻ってしまうところだよなぁと。
大木に「おじさん」と言われて、「えっ?」と急に素に戻るところ、なんかすごい衝撃でした。怖さすら感じた。
こちらは田所さんのあの姿を「そういうてい」として見ているから、その前提が急にひっくり返された感じがして。
これは太田さんが上手かったのもあると思いますが、いやすごかったなぁ。

そしてそして武山さん!
超楽しそうだったなぁ(笑)
実はこのお話って、武山さんがいなかったら平凡というか、いやもちろんそれでも十分平凡ではありませんが、
そんなに特殊でもなかったような気がするんです。
だけど、武山さんがいたからこそ、さらに押見ワールドになったんだろうなぁ。
自由奔放、やりたい放題で、お芝居の世界と観客の世界を行ったり来たりする武山さんを見て、愛の賛歌の「素」を思い出していました。
押見さんは自分がやってた「素」からヒントを得ていたのかな?
そう思うと、あのぴょんぴょこやってたひとみちゃんは、まるで黒子みたいだったし、
ともひろのちょっと鼻につく態度もボンボンみたいだな……なんて思ったり。
武山さんの雰囲気に合ったやりたい放題感、楽しかったです。

最後に一つだけ。
こんな感じで、今回の感想をつらつらと書いていたときに、演出の成島さんのブログを拝見しました。
そこで、スカルプの思わぬ誕生秘話にびっくり。
影ではこんな苦労があったんですね……。
極限の状況で、それでもいいものを作ろうとしてアイデアを出せる押見さんがすごい。
ちょっと関町事故死ドッキリの時を思い出しました(笑)
追いつめられるほど、いいものが出来るのかなぁこの方は。
今回、みなさん本当に大変だったのだろうなぁ。
本当に公演が出来るのかということも直前までわからず、モチベーションを保つのも大変だったと思います。
それでも、こちらにそのような苦労は一切見せず、やりきってくださいました。
私自身、3月に行く予定だったライブがことごとく中止・延期になってしまったため、この日に本当に久しぶりに行きました。
久しぶりに大笑い出来て、すごく楽しかった。気持ちよかった。
ちょっと間が空いちゃっているし、それに気持ち的に笑えるかどうかまだ不安だったのですが、それを吹き飛ばして下さいました。
みなさんが今出来る最大限のことを、パワーを持って強い気持ちでぶつけて下さったことに感謝です。
まだまだ、完璧に以前のような状態には戻れないかもしれない。
それでも、だからと言って立ち止まっちゃいけないんだな。
自分に出来ることをあきらめちゃいけないんだな、きっと。
とても楽しい公演を、ありがとうございました。
行ってよかった。

1月14日 神保町花月『ぶす』

2011-02-18 01:51:33 | 神保町花月
そういえば、この日程が出たときに、「なんか去年もこれくらいの時期にやってたよね」と思っていましたが、
それは去年じゃなくて、2年前のセレーサの時ですね!!
うわぁ、もうセレーサから2年!?
時の流れが早すぎて、なんだか悲しくなってきました(笑)

とても楽しくて、心の底からハッピーになれる素敵な公演でした!
今回も、詳しいあらすじは省き、自分の気になったところをざくざくと。

まずは、こんなお話を思いついて、書ききった栗さんに拍手!
思いつきそうで思いつかない設定だし、そしてそれをやりきるのが素敵だと思いました。
不思議なことに、はじめはとても違和感があって、「この二人がアイドルって!(笑)」みたいに思うのですが(笑)、
途中からはそんなこと全く思わず、ほんもののアイドルみたいに見えてきて、かっこよく感じてきて。
なので中盤で、本当に奇妙な世界に足を踏み入れたような気持ちになってきました。
カインズとDSSの絡みの場面で、しんちゃんがブサイク扱いをされているのを見て、
「確かに、この顔がかっこいいとかブスとか、誰が決めてるんだろう……」と混乱してくるほど(笑)
この一時間半、私の中の価値観が壊れたまま見ていた(笑)
でも、見た目の価値観があんな世界でも(笑)、心の価値観は変わっていなかった。
聖夜も雫も、とても人間的にかっこいいなと思いました。
だからこそ、こんな設定でも自然と二人のことをかっこいいと思えるように魅せられていったのかな。

とにもかくにも関町さんです。
とってもすばらしくて、最初から最後まで心奪われたままでした。
このお話全体で、好きなシーンはたくさんあるのですが、中でも印象に残ったところ。
聖夜が最近痩せてきて、もっと太れよ!と怒鳴った時のセリフ。
「こんなこと言いたくないけどな、俺たちには、見た目しかねぇんだよ!!」
ここがね~!!
関町さんがこんなこと言っている、っていうのが、冷静に考えると面白くて仕方ないから笑いたいのですが(笑)、お話的には一切笑えるところではなく。
このセリフだけで、雫のいろんな感情が伝わってくるような気がしたんです。
見た目で人気があるのは聖夜。自分より聖夜の人気で持っているようなところもある。
それなのに聖夜は、努力を怠ったり彼女とのろけたりしている。
そんな雫の怒りとか、切なさとか、もどかしさとかが、一瞬で伝わってきたような気がしたんです。
感情が大渋滞で困りました。ここすごくよかったな。
ころころ変わる、色々な表情が楽しめたのもとても嬉しかったです。
やっぱすごいなぁ。

最初に脚本について書きましたが、これが形になったのは、もちろん演出家先生の力量でございますね。
まるでドラマみたいな世界を、ちょっとリアルっぽく、でもだいぶメルヘンっぽく表現してる感じがしました。
後は、テルニの時にも言いましたが、照明が本当に鮮やかでした。
特に印象に残ってるのは、雫とユミコちゃんが動物園に行っていた時。
木漏れ日が綺麗に表現されてて、耳は関町さんの変な口調を聞きつつも(笑)、目はそちらばかりに行ってしまいました。
今回は一回しか見れなかったのが残念。
2回見れてたら、もう少し細かいところまで見たかったな。

後は、自分のために笑いどころメモ。
・カインズのさいころの目が全く出ないしんちゃん
・「いや、1位っていっても、どうせ芸人の中だけの1位ですから」と言っているのが長澤さん(笑)
・マネージャーの自転車のくだりはなんだったのか(笑)
・倒れたユミコちゃんを心配するところでのセクハラ
・「僕はどうぶつが好きなんだね~」←この口調なに?
・「怖い、怖いの!!」→飛び出す→轢かれる
・エンディングトークで、
 栗「オレ、なんしぃが『怖いの!』って言ってるシーン面白くってさぁ。そんなに怖いなら別れろよって(笑)」
・ウ○ノとギャ○ビーのパクリのクオリティの高さったら!!
・エンディングで田所さんが言っていたのですが、楽屋でつよしさんがモニターを見ながらツッコミまくっていて、それがすごく面白かったのだそう。
 つよし「だって、おかしいところばっかりやもん!!」(笑)
 だから、舞台をやりながら、つよしさんが2階で全部ツッコんでいくのやりたいという話になっていました。
 それ見たい!つっこみトッピングみたいじゃん!
 いつかやってほしい!(笑)

見終わった後、にこにこしながら帰ってしまいました。
ハッピーエンドになってよかった!
雫さん、ユミコちゃん、いつまでもお幸せにね☆
そして恋ピンクのクオリティが高すぎるので、カインズはこれからも活動してほしいなぁと思いました。
KABUTOとかDOIと共に、アイドル歌合戦に出るカインズを楽しみにしています!!(笑)

神保町花月 『テルニ』

2010-08-17 22:20:42 | 神保町花月
仲良し9期の、わちゃわちゃお祭り公演に行ってきました。
全ての面で満足、と言えるほど、素晴らしい公演でした。
もしかしたら再演するかも?というお話があったそうです。
このお話は、内容を知ってしまうと、面白さが半減どころかほぼなくなってしまうようなものです。
そのため、今回見ていなくて再演を期待される方は、この先をお読みにならないようお願いいたします。
今回も、詳しい内容は省き、感想のみつらつらと。








まず私は、松橋さんにありがとうと、心からありがとうと言いたいです。
本当に、素晴らしい作品を書いてくれてありがとうございました!!
大満足でした。
神保町花月という劇場って、不思議なところで。
この劇場に求めてることって、人それぞれ違うんですよね。
それじゃあ劇場側がどうとらえているのかっていうと、劇場側もだいぶ幅をもたせたいろいろなことをやっていて。
だから、結局個人で色々な意見が出てくる。
私としても、今回二つの思いがありました。
せっかく神保町花月なんだから、普段はなかなか見れないシリアスな表情が見たい!というのと、
やっぱり神保町花月なんだから、笑わせてくれないと!というのと。
だから、この二つを同時にやってくれた松橋さんに、もう感謝というかなんというか、逆に私の思いが伝わりすぎてちょっと怖いくらいです。私、どこかで松橋さんに話したっけ?って(笑)
松橋さんは、神保町でしかできないことをやってくれたなと。
だからこそ、神保町に何を求めるかによって、賛否両論出てきてしまうのは仕方ないことなんだろうな。
ただ私は、本当に嬉しかったです。

私は、関町さんが大好きです。
でもこの公演を通して、もっともっと好きになりました。
この人は本当になんなんだろう。どんな役でも平然とやりきってしまう。
一番初めの、月野に語りかけるときの優しい感じが大好き。
怒りに声を震わせてる時も、かすれた声での「うまそうだろ…?」も大好き。
そして、いじめられている時のかよわい感じと、10年後の狂気のギャップ。
シーンが変わって、半田がいる部屋に入ってきたときの、「失礼するよ」からのスーツにやられました。
本当に素晴らしかったです。
見終わった後、心底この人に売れてほしいと思いました。
もちろん前から思ってましたが、それ以上に。
あぁ、もう。今まで色々あったけど、こんなに売れてほしいと思ったことないよ。
いろんな場所に出ていってほしいし、いろんな場所で活躍してほしいよ。
遠山さんだって、外部の劇団さんのお芝居に出たことあったじゃない。
この演技のポテンシャルといい声を、無限大ホールという小さな場所での茶番のためだけに使うのは、本当に宝のもちぐされのような気がしてきた。
ただ、関町さんご自身は、あまりそういうのに興味なさそうですけどね。
以前のシチサンでも、しっかり稽古をやれと怒る演出家先生に対し、自分は芸人だからときっぱり言っていましたし。
芸人ということにプライドを持っているというか、その演技力を生かして茶番をやっちゃう、という才能の無駄遣い感に面白さを感じてるということなのかな。
長々書いてしまいましたが、とにかくすごかったということです。
土曜2回目のエンディングでにしじが言っていましたが、60ページほどある台本の中で、関町さんが出てこなかったのはほんの2,3ページだったそうです。
ほとんどすべて出ずっぱり。
脚本家と演出家の期待が感じられました。
いや、もしくはこの二人がただただドSなのかもしれない。
この際、それでもいいです(笑) やりきった関町さんに、ただただ拍手です。

私は今回、初日、そして土曜1回目2回目を見に行きました。
その土曜2回目で、まさかのサプライズ。
関町さんと児玉さんが、役を交換したのです。
初めのシーン、後ろ姿のシルエットが青い光にぼんやりとうつる感じなのですが、そこでもう幕あいたときからシルエットが違うんだもん。
振り返ったら児玉さんで、本当にびっくりしました。
これは、脚本家と演出家の悪ノリだったそうです!!
そして、これを本当にやろうと決めたのは公演始まってから。
しっかり練習する時間のない中なのに、それに加えて児玉さんのセリフ覚えに協力しない同期のかたがた(笑)
前日の夜練習に付き合ってくれたのは、ゲストの望月さんだったそうです(笑)
全体的に考えてみると、いい試みだったなとは思います。
この公演にはリピーターの方もたくさんいらっしゃったでしょうから、こういう工夫があれば、より新たな面白さが生まれるんだろうなと。
でも、中には、関町さんが主演だと聞いて楽しみにしていたのに、見られなくて残念だった方もいらっしゃるかもしれない(私もそうですが・笑)
また、児玉さんが主演をやるんだったら、その回を見に行きたかったと思った方もいらっしゃるかもしれない。
そういう面では、少しどうなの?と思わざるを得ない気持ちも、正直のところあります。もちろん、それを言ってしまったら、サプライズと悪ノリが意味をなさなくなってしまうとは思うのですが(笑)
ただ、このお二人の演じ方の違いを見れたのはとてもお得だったなぁと思いました。
特にそれが顕著に表れたのは、半田への復讐のところ。「そんなに大切なら、ちゃんと守れよ」ってところ。
関町さんは、優越感に浸ったような笑顔でそのセリフを言い放ち、うなだれている半田の頭上に、彼女の服をはらりと落とすんですよね。
その静かに狂気に満ち溢れた関町さんが上手すぎて鳥肌が立ちました。
対して児玉さんは、そのセリフを怒ったような強い口調で言い放ち、彼女の服を半田に投げつける。
全く対照的でした。
こんな違いが見られたのもいいところかなと思います。

橘さんは、出番こそ少なかったものの、とても重要な役だったなぁと思います。これは橘さんにしか出来なかっただろうなあと。
エンディングで、「同期とやったという感じがせんわ!」とすねていましたが(笑)、でも橘さんがいなきゃ成立しなかった話だと思いますよ!
餅ナスザーサイという言葉を執拗に言わせる、脚本家演出家のいじめに、よくぞ耐えてくれました(笑)

横山さんすっごくよかった!!
あの優しい雰囲気だからこそ、どこか憎めない、そして苦しむ様子が伝わってきました。いいなぁよっこん。

そして、いじめる演技が上手すぎる文田、西島の性格悪いコンビ。
それなのに、10年後の春崎に追い詰められるシーンは棒読みなんだもんなぁ(笑)正直、これが一番の笑いどころだったかもしれないよ(笑)
根建さんと赤羽さんは、この二人よりも安定感あったと思います(笑)
特に好きだったのが、「おめでとう、何でもない日だけど」と「そんなに大事なら、ちゃんと守れよ」の言い方。ぞくっとした。

今回、ストーリー、そして演技と同じくらい印象に残ったのは、照明の美しさでした。
一つひとつの照明がとても鮮やかで、なおかつ繊細でした。
演出家さんが、細かいところまでこだわっていらっしゃるんだなぁということが伝わってきました。
好きだったところはたくさんあるんですが、中でもとても好きなのが、春崎が車に飛び込もうとするところ。
照明とSEだけで、車が通っていることがわかるんです。
実際に車が見えるような気がするんです。
あれは本当にすごかった。
もう一つ、最後に春崎が丘から飛び降りるところ。
飛び降りる寸前、というより、飛び降りた直後に照明が消えて、辺りが真っ暗になる。
そのタイミングが絶妙で、飛び降りた瞬間の春崎のシルエットがまるで残像のように目に焼き付いて離れませんでした。
あとは、美しいオレンジ色の夕焼けとか(だからこそ春崎がいじめられている残酷さが際立つ)、
父と話している部屋の窓とか(照明で窓作っていたんですよね)、
原が警備しているオフィスでの懐中電灯とか(すごく巧妙でした)
言い出したら書ききれないくらい、全て好きでした。
照明以外で言わせてもらうと、後半の映像は本当に素敵でした。
モノクロの世界に、色がついた。
たったそれだけのことなのに、こうも綺麗に感じるのか。
それはもちろん画像が美しかったからというのもありますが、「これから何かが始まる!」という、わくわく感があったからだなぁと。
ここすごく感動しました。
演出家先生はシチサンで、「もう二度とやりたくない」と何度もおっしゃっていましたが、そんなのもったいない。
ぜひまた挑戦していただきたいです。


私は、夏が大好きです。
四季で、夏が一番好き。
それは、夏は他の季節よりもみんながはしゃいだり、盛り上がったりするけれども、そのお祭り騒ぎが終わった後、一抹のさみしさやわびしさがあるからだと思うんです。
最後の花火は、その一抹のさみしさを表現してくれていたように感じました。
同期だらけ、やりたい放題のお祭り公演。
はしゃぎすぎた後の、お祭りが終わるさみしさが胸に迫ってきた。
それを美しい花火で実感し、「あぁ終わってほしくないな」という思いが残ったので、なんだかじわじわと泣きそうになってしまいました。
夏だからこその美しさ。最高でした。
何度も反芻して、何度も楽しみたい。
素敵な夏の思い出を、ありがとうございました。