こんなタイトルの映画が有った気がする、
確かに美しいものはさらに美しく
辛かった出来事はさらに辛く着色されて
思い出すのが思い出である、
6歳違いの兄との思い出は
何と言っても帰省する度に連れて行ってもらった
カラオケであろう、
民謡教室を主宰する兄は声が良かった、
それはカラオケを歌っても共通する、
私と比べて高音部が楽に出るし
声の伸びの違いは羨ましいほどであった、
それだけに民謡調の声を張る福田こうへいや
細川たかし的な歌を得意にしていた、
ある時例によって兄が私を誘った、
いつもは義弟や兄嫁、
私の妻なども同伴するのだが
その時は二人きりであった、
カラオケの店は隣町の閑静な畑の中にあった、
行きつけの店らしく行くなりマスターが
兄を先生呼ばわりする、
他にも客は5,6人ほどいた、
その中に一週間後に
九州地区のカラオケチャンピオン大会に出場すると言う
若い女性がいた、
兄も顔見知りらしく私に紹介した、
歌の実力は自分でもそこそこ歌えるとは
思っていたが彼女の歌を聞いて
これは敵わないと思った、
声の良さはもちろん、
明快な発声に加えて声に艶が有り
不安定な要素が全くない、
全国区のレベルを思い知らされた、
それが自分の歌う番が来る度に
何となく劣等感に近いものを感じながら
歌わなければならないのが辛かった、
そんな中でも兄は高揚した気分を
楽しむかのように歌っていた、
どれほどの時間歌ったであろうか?
家に帰るなり妹が烈火のごとく怒りをあらわにぶっつけてきた、
それもそのはず
その日は母の供養で遠来の客もまだいて
主人たる兄が抜け出ること等
❝もってのほか❞
の状況だったのである、
それを2,3曲軽く歌ってくる程度に出かけたのだが
思いがけずもカラオケ自慢に行き会ったことから
興に乗ってしまったのである、
それ以来我ら二人のカラオケ通いは
妹の口からは非難の的となって出る、
兄の死はそんな楽しみさえ奪ってしまった。