日々感ずることを、徒然に書いています。ご笑覧あれかし。

言葉というもの、非常に興味があります。

英国、春の椿事

2021-10-11 07:12:55 | ちょっとした出来事

英国のグリニッヂに住んでいる。2000年10月からだから、ちょうど21年。

有名なグリニッヂ天文台があり、また、ここには子午線0が通っている。従って、世界の時間はここを基準にしている。ここでの時間を「グリ二ッヂ標準時(GMT)」という。

また、このグリニッヂは、かつて海軍士官学校があったところであるから、当然海に面していなくてはならない。といっても、グリ二ッヂの場合は、その士官学校、テムズ川の河口にあった。

海からさほど遠くないから、潮の干満があり、水深も深い。従って、大型遊覧船が、ここに停泊することもしばしば。日本の「飛鳥」を見かけたことがある。

私は、その目と鼻の先に住んでいる。そのような豪華客船が投錨しているのを見ると、何だか、こちらまで金持ちになったような気になるから、面白い。ことに夜。

そのテムズ川で、この春、ちょっとした「椿事」が起った。

一頭の鯨が、なんと、このテムズ川に紛れ込んでしまったのである。どうして、そういうことになったのかはわからない。鯨といっても、まだ幼児で、全長3Mほど。ミンク鯨という。

ただ、上流に向って進むものだから、当然、水深は徐々に浅くなり、結局、どこかで行き止まってしまう。

そういうことが、リッチモンドというところで起った。勿論、グリニッヂも通過したはずであるが、誰も気づかなかった。

そのリッチモンドでは、このことを耳にした人々が詰めかけ、椿事を見守った。動物愛護団体が懸命の努力を重ね、なんとかして、この鯨君を海にまで押し戻そうとする。しかし、いっかな事は捗らない。

”この程度の小さな鯨なら、大きな水槽のある、大型の船に入れ、それで、海の沖まで連れて行き、そこで、放したらどうなの?”
素人考えで、こう思ったが、そういうことができない何らかの理由があるのであろう。

鯨君は、その間も必死にもがいている。川とあって、食べるものなどほとんどない。体力は弱るばかり。観衆は、心配そうに見守っているが、どうすることもできない。

それやこれやで、この鯨君を助けるすべはないと判断した関係者、結局、この子を、成仏させてあげるのが、”人道的に最善”との結論に達した。

その後、遺体をどう処分したかについては、何の知らせもない。食べた? まさか、それはないであろう。

20年ほど前にも、同じことが起こったが、その時の顛末は記憶にない。

鯨肉といえば、思い出すことがある。

私、1976年に日本を離れ、それから13年、一度も日本に帰らなかった。

その13年ぶりに一時帰国した時のことである。1989年の秋。

あまりに久しぶりだからとのことで、何だか横井庄一さん扱い。皆様には、殊の外よくしていただいた。

そんなある日の夜、ちょっとした知り合いのお方が、私を京都のどこかのおでん屋に連れてくださった。

どうやら、その方お酒を召し上がる様で、私としても嬉しかった。

「何にする?」ー「はあ、別に、、」
 
「コロ食べる?」ー「ハイ、いただきます!」

コロというのは、ご存知の通り、鯨肉の脂肪の部分をカンカラカンに干したもので、食する時は、それをもどす。

私子供のときは、非常に安く、なんでも、肥料にしたこともあると聞いた。

そのことが頭にあったものだから、「ハイ、、、」といった時は、「”そんな安いもの”で結構です」という「最大の遠慮」の積りだったのである。

それが、私13年間、日本を留守にしている間に、とんでもない高級品になってしまっていた、 と言う。

「そんなん、知りませんでした。永らく日本を留守にしてんねんから、状況というものを、ちゃんと説明しておいて頂きたかったわあ、ボク」

当然のこと、そのお方からは、それ以降、お声がかからなくなってしまった。