12年前の10月、愛息ロッキー様に異変が起こり病院に行くと「癌です、手術をしたら治る」と言われ小さな体にメスを入れた。手術をして治るどころか日に日に衰弱して行き、痛い痛いと転げ回り、痛み止めの注射を打ってくれるが間に合わない。母の私は、もっと良い病院をと名医と言われる甲子園の病院を紹介してもらい行った。その名医の話「牛乳を飲ませたらいい」どついたろうか、牛乳を飲んで痛みが取れるか治るか、ドアーを叩き付けて出た。やはり行きつけの病院に行くしかないかと戻って行くと休診日と張り紙がある。「痛い痛い、ママ助けて」と叫ぶロッキーを母は車に乗せ走る。犬猫病院の看板を見つけ「先生、ロッキーを助けて下さい」と走り込んだ。診察台が1つ置いてあるだけの診療所で、他の犬を診察していたが先に看てくれ「腰が抜けている、かわいそうだけれどこの子はもうだめだわ」「先生、助けて下さい、お願いします」「かわいそうやね」私は涙が溢れその涙を拭くことも忘れ「何時?」「今日、明日、持って3日?」「うわー」私はロッキーを抱き倒れてしまった。「これ以上、注射をしたらかわいそうだけれど痛みを取ってやろう、でも一時だけやよ、又、痛むよ」と、やせて骨ばかりの体に注射を打ってくれた。初めて入ったにも関わらず良くしてもらった。もっと早く、知っていればと悔やまれくらいの良い女医さんだった。
「女将さん、予約が、女将さん」私は当時割烹もしていたので予約が入ったと電話が入る。傍にいてやりたい、休みたいと思うが、大事なお客さまが来て下さると、預けて店に出た。「痛い、痛いと転げ回っている、どうしょうもない、早く帰って」と何度も電話が--。でも、なかなか帰れなかった。家に帰ったときは、ぐったりと横たわり意識もなくなりかけていた。「ロッキーごめんね」と抱き耳元に囁くと「ママ、ママ、待っていたよ」とかすかに目を開き水を含ませたティッシュを懸命に飲もうとした。日付が変わった3時10分に母に抱かれて静かに息を引き取った。あれから12年、13回忌の今日、母はロッキーの仏壇の前で手を合わせている。