目の前の障子戸に
少し手がかりが開けてあります
その手がかりから
そっと中をうかがうと
暗闇に莨盆の火入れの小さな火が
赤く浮かんでいます
おもむろに障子戸を開き
連客と二人
寄付へと上がりこみました
ほとんど
光の届かない寄付の中では
暗さに目が慣れず
目を見開いてみたものの
何も見えません
ただ
部屋の中央に置かれた
莨盆の火だけが
静かに私たちを迎えてくれています
暗がりの中
道中着ていたコートをたたみ
席入りのための支度をしていると
襖が静かに開き
ご亭主自ら
お白湯を差し出して下さいました
梅の入ったお湯でした
やがて
少し目が慣れてきた頃
壁に掛けられた掛物を
拝見させていただきしました
此の度のお茶事をしてくださる
ご亭主の思いが感じられて
胸がじーんと熱くなりました
気づくと
部屋の隅の文台の上に
硯箱と紙が置かれていました
暗くてよく見えないので
少し障子戸を開けて
外の明かりを入れて
墨をすり
書き方などよくわからないままに
署名を書かせていただきました
さて
露地へはどちらへ出たらよいのかと
部屋の中を見回していると
先ほどの襖が開き
ご亭主が汲み出しを引きに現れて
露地への降り口を指し示してくださいました
暗くて見えなかっただけかもしれませんが
思いがけないところに
出口が作ってあり
私は
まるで忍者のからくり屋敷のようだと
思いました
半東さんに
お預けするつもりにしていた手土産などは
この時
ご亭主にお手渡しさせていただきました
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