線引きはどこ?
「軽減税率」に揺れる外食業界クリップする
東洋経済オンライン 2013/3/13 06:00
大野 和幸
線引きはどこ? 「軽減税率」に揺れる外食業界
「品目によって変えるのはよくない。線引きが難しいし、有利・不利が出てくる」
外食産業の業界団体である日本フードサービス協会の
安部修仁会長(吉野家ホールディングス会長、写真)は、そう懸念を漏らした。
消費増税を前に、外食業界が揺れている。消費税率は2014年4月に8%、15年10月に10%へ、2段階で引き上げられる予定だ。税率10%時に検討されているのが、食料品など生活必需品に対する「軽減税率」だ。1月に決まった与党の税制改正大綱では「導入を目指す」と記された。
中でも軽減税率に積極的なのが公明党だ。自民党は中小小売店の事務負担を考慮し、むしろ消極的に近いだろう。フードサービス協会のある幹部は、「自民・公明の税制調査会の委員の方々に、『反対』の提言を出した」と打ち明ける。今からロビイングに抜かりがない。
海外では何が「軽減税率」の対象?
なぜ外食業界が、軽減税率導入を恐れるのか。そのカギは、軽減税率を先行して導入した、欧州の事例にある。
■ 欧州では、外食は標準課税、食品は軽減の扱い
付加価値税の導入では日本より早かった欧州。主要国の平均的な税率は20%前後だ。一見、高いように見えるが、実は多くの国が軽減税率を導入しており、食料品や医薬品、新聞・雑誌などは税率が低い。非課税の品目もある。食品関係の税率は表の通りだ。
だがそこでは、品目の線引きについて、あいまい、あるいは恣意的な要素が色濃くにじむ。
たとえばフランス。世界三大珍味の1つであるキャビアは、ロシアからの輸入が多く、標準税率の19.6%となっている。一方、同じ高級品でも、トリュフやフォアグラは、軽減税率の5.5%だ。これはトリュフやフォアグラを生産する国内産業を保護するためと言われている。
もっとわかりづらいのは、「外食サービス」と「食品」の区分けだ。
イギリスの場合、フィッシュ&チップスなど暖めたテイクアウト商品は外食扱いで、20%の標準税率。が、デリカテッセンなどスーパーで買うような常温の惣菜は、非課税=税率ゼロである。暖めたかどうかの違いは、「気温より高いこと」だという。
こうなると同じ商品でも、“一物二価”の事態が生じてくる。
ドイツでは、店内で食べるハンバーガーは、外食サービスとされ、標準税率の19%。かたや持ち帰りのハンバーガーは、食品になるので、軽減税率の7%だ。カナダにおいては、ドーナツが5個以下なら店内で食べ切れるので5%(標準)、6個以上なら食べ切れないので持ち帰るため、税率ゼロだ。もはやこうなってくると、線引きの根拠すら怪しくなってくる。
東洋経済オンライン 2013/3/13 06:00 大野 和幸
■ 食品メーカーやスーパーは静観姿勢
こうした先行例を見ると、日本の外食企業が懸念するのも、杞憂とは言い切れない。
牛丼チェーンやハンバーガーショップの場合、店内と持ち帰りで、値段を差別化できるのか。会計やシステムなどバックヤードの事務負担ばかりでなく、メニューやレジでの案内といった、店舗でのルーティーン(通常業務)に混乱が生じる可能性がある。
「たとえば、海外の空港などでは、店とそれ以外のエリアが明確でないケースも少なくない。店頭で買った品を店の隅で食べていたら、ガードマンが来て『ここで食べるなら追加料金をもらう』と言われ、追い出されることもある」(外食業界関係者)。
むろん、日本の消費者にとって、軽減税率は未経験。コンビニエンスストアのイートイン・コーナーのように、外食なのか、持ち帰りにあたるのか、微妙な場合もある。温めた商品を配達するデリバリーも区分けが難しい。
国内の外食業界にとっては、今も円安や原料高を受け、ギリギリの価格競争をしている真っ只中だ。中食(なかしょく)分野をコンビニやスーパーなど、隣接業界と争っている現状もある。このうえ、食品にのみ軽減税率が適用されたら、その打撃は測り知れない。
大打撃を被るかもしれないだけに、声高に「反対」を唱える外食業界。一方、自らが恩恵を受けるかもしれない、食品メーカーやスーパーは、今のところ静観姿勢だ。消費税の軽減税率をめぐって、様々な業界の思惑が錯綜するなか、落としどころは簡単には見えない。
(撮影:尾形 文繁)
http://newsbiz.yahoo.co.jp/detail?a=20130313-00013246-toyo-nbから
「軽減税率」に揺れる外食業界クリップする
東洋経済オンライン 2013/3/13 06:00
大野 和幸
線引きはどこ? 「軽減税率」に揺れる外食業界
「品目によって変えるのはよくない。線引きが難しいし、有利・不利が出てくる」
外食産業の業界団体である日本フードサービス協会の
安部修仁会長(吉野家ホールディングス会長、写真)は、そう懸念を漏らした。
消費増税を前に、外食業界が揺れている。消費税率は2014年4月に8%、15年10月に10%へ、2段階で引き上げられる予定だ。税率10%時に検討されているのが、食料品など生活必需品に対する「軽減税率」だ。1月に決まった与党の税制改正大綱では「導入を目指す」と記された。
中でも軽減税率に積極的なのが公明党だ。自民党は中小小売店の事務負担を考慮し、むしろ消極的に近いだろう。フードサービス協会のある幹部は、「自民・公明の税制調査会の委員の方々に、『反対』の提言を出した」と打ち明ける。今からロビイングに抜かりがない。
海外では何が「軽減税率」の対象?
なぜ外食業界が、軽減税率導入を恐れるのか。そのカギは、軽減税率を先行して導入した、欧州の事例にある。
■ 欧州では、外食は標準課税、食品は軽減の扱い
付加価値税の導入では日本より早かった欧州。主要国の平均的な税率は20%前後だ。一見、高いように見えるが、実は多くの国が軽減税率を導入しており、食料品や医薬品、新聞・雑誌などは税率が低い。非課税の品目もある。食品関係の税率は表の通りだ。
だがそこでは、品目の線引きについて、あいまい、あるいは恣意的な要素が色濃くにじむ。
たとえばフランス。世界三大珍味の1つであるキャビアは、ロシアからの輸入が多く、標準税率の19.6%となっている。一方、同じ高級品でも、トリュフやフォアグラは、軽減税率の5.5%だ。これはトリュフやフォアグラを生産する国内産業を保護するためと言われている。
もっとわかりづらいのは、「外食サービス」と「食品」の区分けだ。
イギリスの場合、フィッシュ&チップスなど暖めたテイクアウト商品は外食扱いで、20%の標準税率。が、デリカテッセンなどスーパーで買うような常温の惣菜は、非課税=税率ゼロである。暖めたかどうかの違いは、「気温より高いこと」だという。
こうなると同じ商品でも、“一物二価”の事態が生じてくる。
ドイツでは、店内で食べるハンバーガーは、外食サービスとされ、標準税率の19%。かたや持ち帰りのハンバーガーは、食品になるので、軽減税率の7%だ。カナダにおいては、ドーナツが5個以下なら店内で食べ切れるので5%(標準)、6個以上なら食べ切れないので持ち帰るため、税率ゼロだ。もはやこうなってくると、線引きの根拠すら怪しくなってくる。
東洋経済オンライン 2013/3/13 06:00 大野 和幸
■ 食品メーカーやスーパーは静観姿勢
こうした先行例を見ると、日本の外食企業が懸念するのも、杞憂とは言い切れない。
牛丼チェーンやハンバーガーショップの場合、店内と持ち帰りで、値段を差別化できるのか。会計やシステムなどバックヤードの事務負担ばかりでなく、メニューやレジでの案内といった、店舗でのルーティーン(通常業務)に混乱が生じる可能性がある。
「たとえば、海外の空港などでは、店とそれ以外のエリアが明確でないケースも少なくない。店頭で買った品を店の隅で食べていたら、ガードマンが来て『ここで食べるなら追加料金をもらう』と言われ、追い出されることもある」(外食業界関係者)。
むろん、日本の消費者にとって、軽減税率は未経験。コンビニエンスストアのイートイン・コーナーのように、外食なのか、持ち帰りにあたるのか、微妙な場合もある。温めた商品を配達するデリバリーも区分けが難しい。
国内の外食業界にとっては、今も円安や原料高を受け、ギリギリの価格競争をしている真っ只中だ。中食(なかしょく)分野をコンビニやスーパーなど、隣接業界と争っている現状もある。このうえ、食品にのみ軽減税率が適用されたら、その打撃は測り知れない。
大打撃を被るかもしれないだけに、声高に「反対」を唱える外食業界。一方、自らが恩恵を受けるかもしれない、食品メーカーやスーパーは、今のところ静観姿勢だ。消費税の軽減税率をめぐって、様々な業界の思惑が錯綜するなか、落としどころは簡単には見えない。
(撮影:尾形 文繁)
http://newsbiz.yahoo.co.jp/detail?a=20130313-00013246-toyo-nbから