松下啓一 自治・政策・まちづくり

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☆リコール・直接請求の悪用(愛知県)

2021-02-01 | 地方自治法と地方自治のはざまで
 地方自治法のリコール制度、直接請求については、前から、問題意識を持っていたが、今回、あらためて、その課題が、明らかになった。

 愛知県知事に対するリコール請求があったが、その約8割が不正・無効な署名だという。

 もともと選挙で選ばれた代表者を辞めさせる制度なので、単なる要望の署名活動とは違う。選挙については、いろいろ課題があるが、代表民主制の正統性の根本である。リコールは、それをなかったことにするものだから、きちんとした条件が求められる。

 本人の意思を明確にするために、氏名、住所、捺印など、疑義のない記載方法でなければならない(運用では、多少の幅があるようだ)。縦覧もその一つである。縦覧制度は、リコールする人の自由意志を妨げるという意見があったが、勝手に他人の正しい名前を書くという行為を野放しにすることになる。

 要件が厳格なので、軽微なミスで無効になったり、無理もない誤解で、一定の無効数は出るものとされる。2割から3割は、でるとしても、8割というのは、あまりに異常値である。

 報道によると、1ページ同じ筆跡であったり、何かの名簿を写したものまであるそうである。そうでなければ8割まで、無効・不正にならないであろう。ありがちな無効を除いても、5割から6割は、不正ということで、ありえへんという酷い話である。

 リコールの数が一定数まで行かないものは、選挙管理委員会がいったん受理して、それを請求者に返す運用であるが、選管がそれを見て、多少、おかしなものがあっても、これまでは見過ごしていたが、今回は、見逃せないほど酷い直接請求だったということである。

 それに対して、この運動をリードした人たちは、なぜ中身を調べるのだ、そのまま返すべきだと言っているが、自ら、非を認めているようなものである。河村市長のような公人が、それを言うのは、もはやポピュリズム極まれりである。

 問題点の一つは、今回も、リコール運動が、政治運動、商業活動として悪用されているということである。政敵を落としめるという政治的な目的やユーチューブの閲覧数(ゼニ稼ぎ)のために、リコール運動が使われるという、民主主義をないがしろにする手段として、直接請求制度が使われている点が、最も大きな問題であろう。

 愛知県では、リコールが成立するには、86万人の署名が必要ということであるが、これはもともと無理である。選挙すら、投票率が、5割を切る時代である。つまり、当初からか、途中からかは不明であるが、リコールが目的ではなく、こんなに多くの人が異議を唱えたのだというアピールのための政治活動、それに伴う商業活動のために、この署名が使われたということである。

 しかし、こうしたことが許されることになれば、法定数ぎりぎりの3分の1の署名を適当に書いて出して、あっという間に3分の1近く集まったと、大いにPRすればいいということになる。もはや個人情報の自己情報開示請求で確認するという迂遠な手段ではなくて、法定数に達しなくても、きちんと縦覧させるべきだという議論も出てくるだろう。

 愛知県の選挙管理委員会は、まことに気の毒である。コロナ禍、やることがいっぱいあり、無駄なお金を使うべきではないときに、ひとつひとつチェックしなければならない。見過ごせば、選挙の正統性、さらには、私たちの民主主義そのものの危機になるということで、この作業をやるが、本当に気の毒である。

 住民にとっても迷惑な話で、こんなことに税金と人手を使われたら、たまったものではない。以前書いたが、常軌を逸する公的制度悪用者に対する、市民からの補填・賠償を求める監査請求、住民訴訟という制度は、考えられないだろうか。

 改めて気づいたが、愛知県、愛を知る県とは、すごい名前だ。
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