松下啓一 自治・政策・まちづくり

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☆LGBT法の制定を受けて・自治体はどうするのか

2023-06-18 | 1.研究活動

 LGBT法が制定された。さまざまな議論があり、それを踏まえて、自治体はどうするのかを考えた。

1.論じる人は多いが、きちんと法律を読んだか

 当たり前のことであるが、この問題を論じるには、きちんと法律を読んでいることが前提である。人の受け売りやネットからの切れ切れの情報で、この法律を論じるのは、論外である(この問題に限らないが)。

衆法 第211回国会 13 性的指向及び性同一性の多様性に関する国民の理解の増進に関する法律案 (shugiin.go.jp)

 一読すれば分かるように、この法律は、基本事項型の理念法である。テーマは、「国民の理解」のために、今後の方向性をしめすとともに、この法律を受けて、行政が指針等をつくっていく中で、法律を具体化していくことになる。

2.自称女が、女湯に入ってよいなどとはどこにも書いていない。

 この法律によって、標記のようなことが起こってくると言う人がいる。基本事項型の理念法なので、もちろん、そんなことはどこにも書いていない。この事例を含め、さまざまな事象に、どう対応するかは、政府がつくる指針等で詰めていくことになる。ここで、自称さえすれば女湯に入れるという指針は、作ることはありえない。いままでもLGBTの人はいるのだから、これまでやってきた延長線でルールがつくられるのだろう。

3.反対論は、さまざまである。

(1)そもそも反対である

 第一条の目的には、次のように書かれている。

 ・この法律は、性的指向及び性同一性の多様性に関する国民の理解の増進に関する施策の推進に関し、基本理念を定め、並びに国及び地方公共団体の役割等を明らかにするとともに、基本計画の策定その他の必要な事項を定めることにより、性的指向及び性同一性の多様性を受け入れる精神を涵(かん)養し、もって性的指向及び性同一性の多様性に寛容な社会の実現に資することを目的とする。

 ・LGBTといった「多様性を受け入れる」あるいは、「多様性に寛容な社会の実現」が嫌だという立場である。それも一つの考え方だとは思うが、人前でそれが言えるのか。匿名でなく、実名で言えるのかである。死んだ親父がよく言っていた。陰に隠れて石を投げるような人間は、日本人の風上にも置けないと。私たちは、まず、名乗りを上げてから、戦う。

 ・自民党の議員から、反対のために退席したという議員が出たが、その説明を見ると、「女性のトイレ・・・」(青山議員)といった理由のようだ。つまり、LGBTといった「多様性を受け入れる」ことが問題ではなく、具体論で課題があると言ってようだ(では、どのような法律だったら良しとするのか、その対案を知りたい)。

 ・その点は、維新などの修正で、第12条が追加された。女性のトイレ等の問題は、今後、心配がないようにするという規定なので、それでも反対する理由は不明である。

 (措置の実施等に当たっての留意)
第十二条 この法律に定める措置の実施等に当たっては、性的指向又はジェンダーアイデンティティにかかわらず、全ての国民が安心して生活することができることとなるよう、留意するものとする。この場合において、政府は、その運用に必要な指針を策定するものとする。

 ・もしかして、LGBTといった「多様性を受け入れる」ことそのものに疑問を持っているのかもしれない。しかし、それは自民党の議員としては矛盾になる。なぜならば、「自由民主」である。民主主義とは価値の多様性である。多様性を否定したら、自民党ではない。

(2)女性のトイレなどの問題

 2.で述べたように、どこを探しても、女性を自称すれば、女湯に入っていいとはどこにも書いていない。この法律が、「性的指向及び性同一性の多様性に関する国民の理解の増進に関する法律」、多様性という民主主義の基本を国民が理解しようという法律だからである。

 出されている課題は、今後の検討のなかで、落ち着きどころのよいところに、落ち着くだろうし、そういう議論を進めるのが、政府や議員の役割である。

(3)追加された第12条が、LGBTを面倒なもの、厄介なものとと位置づけ、結果的に、差別を助長するのではないか

 こちらは、この法律の推進側からの批判である。LGBTに配慮した施策を行うことで、結果的に多数派が迷惑を受けるという観点から、この規定がつくられたという批判である。それが結果的に差別を助長することになるとする。たしかに、そうした雰囲気はあるが、こう考えたらよいのではないか。

 この第12条の趣旨は、この法律ができたことによって、自称女が女風呂に入れるといったデマに対して、「全ての国民が安心して生活することができることとなるよう、留意する」つまり、そう言ったデマを打ち消し、安心して暮らせるように、そう言った指針をつくるという、政府の決意なのだと理解したらよいのではないか。実際、そうした指針になっていくと思う。そうなるように、後押ししてほしい。

4.さて、この法律を受けて、自治体はどうするのか

(1)法律の第5条に「地方公共団体の役割」の規定がある。

 第五条 地方公共団体は、基本理念にのっとり、国との連携を図りつつ、その地域の実情を踏まえ、性的指向及び性同一性の多様性に関する国民の理解の増進に関する施策を策定し、及び実施するよう努めるものとする。

 自治体は、「性的指向及び性同一性の多様性に関する国民の理解の増進に関する施策を策定し、及び実施するよう」努めていかないといけない。

(2)実際は、基本計画待ちになる

(基本計画)第八条 政府は、基本理念にのっとり、性的指向及び性同一性の多様性に関する国民の理解の増進に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図るため、性的指向及び性同一性の多様性に関する国民の理解の増進に関する基本的な計画(以下この条において「基本計画」という。)を策定しなければならない。

 基本計画には、性的指向及び性同一性の多様性に関する国民の理解を増進するための基本的な事項その他必要な事項が定められる。実際は、これを見てから、作業にかかるのだろう。

(3)実はLGBT条例は、すでにたくさんある

 大別すると、男女共同参加条例の改正というかたちで付加したパターンと、そのものずばりの条例

大阪府

大阪府性的指向及び性自認の多様性に

関する府民の理解の増進に関する条例

令和元年10月30日公布

令和元年10月30日施行

がある。性の多様性に関する条例 | 法制執務支援 | 条例の動き | RILG 一般財団法人 地方自治研究機構

 これだけの条例があって、問題が起こってないことを考えると、いろいろな心配は杞憂に終わるのだろう。

(4)どんな基本指針ができるかは不明であるが、条例の規定を変えなければいけないような、指針はできないであろう。ともかく指針が出たら、この続きは書いてみたい。

5.何回も書いているが、日本の社会の仕組みは、一人ひとりが個人として尊重されることを通して、国を豊かにしていこうというものである(憲法13条)。つまり、勉強ができることも価値であり、勉強はできないけれどもやさしいというのも価値である。価値はさまざまで、一人一人に価値があり、その価値をのばすことで、そこから、新たな発明や発見、イノベーション、行動を引き起こし、豊かな社会をつくっていくというのが憲法の考え方である。みんな同じことをやっていたら、外国に負けてしまう。日本国憲法にとって、多様性は国の発展の基本中の基本である。実際、人しか資源がない日本は、これしか、生き残る道はないと思う。

 

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