東京一極集中と少子化あるいは地方消滅
1.地方からの大都市圏への流入の論理
増田レポートでは、次のように説明している。
①1954年~2 009年の間に地方から大都市圏に移動した人口は、累計で約1147 万人にも上る。
②問題なのは、人口移動したのが、将来子どもを産む「人口再生産力」を兼ね備えた「若年層」であること。
③その結果、地方において加速度的に人口減少が進んだ。
④しかし、大都市圏は、結婚し、子どもを育てる上では制約の多い環境である。実際、東京の合計特殊出生率は、ワースト1位である。
⑤つまり、大都市 圏への若者流入は、出生率の低下を招き、日本全体の人口減少に拍車をかけている。
⑥だから、日本全体の人口減少に歯止めをかけるには、大都市圏への流出を抑えていく必要がある
2.東京の合計特殊出生率が低いのは
これは、すでに論点2でみたように、計算の分母に未婚者が数多く含まれているからである。
地方だからと言って有配偶者出生率が高く、東京だからと言って低いわけではない。
3.少子化を論じるのか地方消滅を論じるのか
東京の例でみるように、若者が結婚しない(未婚化)あるいは、晩婚化が、出生率の低下の本丸・直接的な原因であろう。
本来ならば、この未婚化や晩婚化に正面から対処しなければいけないのに、地方のダム効果を掲げて、東京への人口集中から少子化問題を論じることで、少子化問題の本質を見失いかねない。また、地方消滅についても、間違った政策を導くことになりかねない。
4.地方から東京圏への人口移動は、少子化問題の原因ではないが、地方消滅の背景ではある。
ただ、1の①から③は、その通りである。その意味で、若者が地方に留まる政策を論じる意味がある。
そこで、増田レレポートでは「東京一極集中に歯止めをかけるための方策」を提案している。これについては、長いので別に詳しく紹介しよう。
5.少子化問題と東京一極集中については、次のような指摘がある
・人口減少問題の本丸は少子化問題であるのに、「地方創生」 の名目で、大都市圏から地方圏への人口移動の問題にすり替えられている(金井利之「『地方創生』について」自治実務セミナー 2015年1月号6頁)。
・おそらくは晩婚化と未婚化に主に起因する出生率の低下による少子化が人口減少の直接かつ最大の原 因なのであるから、これに直接対処することが重要であるのに、東京への人口集中という二次的な課題に力を傾注するのは、かえって主要な問題から目を逸らせて、出生率の向上という食い止め政策を脇に追いやってしまう(大森彌・金井利之「人口減少時代を生き抜く自治体」 自治実務セミナー2018年1月号4頁以下)
その通りであろう。要するに、増田レポートは、地方自治を論じているのではないという基本的視座の問題である(論点1)。