松下啓一 自治・政策・まちづくり

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☆審議会の作法②-透き通った会議(三浦半島)

2016-12-27 | 審議会の作法

 たくさんの会議をやってきて、今でも忘れない言葉が、「透き通った会議だった」である。

 一宮市で自治基本条例をつくった。愛知県一宮市へは、新横浜から名古屋まで1時間20分、名古屋で乗り越えて10分程度でつく。一宮へは何回も通ったが、一緒に苦労した人たちは、今ごろどうしているのだろうか。

 「透き通った会議」という言葉は、最後の市長答申のとき、メンバーの一人のUさんが、言ってくれた言葉である。この日、最後の会議なので、座長の私は、メンバーの一人ひとりに感想を言ってもらった。このとき、Uさんが、この審議会は、「透き通った」議論、進め方であったといってくれたのである。透明性・公開性というとありきたりであるが、「透き通った」という表現に、素直な感動が表現されていて、好感が持てる言葉だった。

 実は、Uさんは、もともとは裸一貫で建設会社を興したということだった。人のうわさでは、仕事柄、お金を使って、随分と無茶をしてきたらしい。毀誉褒貶の激しい人だった。田中角栄と同じ時代で、日本全体でそういう時代だったのである。経済的成功をおさめたので、その後、たくさんの公職の会長をやっていた。自治基本条例検討委員会も、そんな役職のひとつとして、出てきたのだと思う。

 Uさんは、たくさんの公職の会長をやっているので、その人に話を通さないと、仕事が動かない。これまでの行動、強引な性格、大きな権限をUさんは持っていたので、役所の人は、「腫物に触るような」という表現がぴったりの、おっかなびっくりの対応をしていた。

 しかし、私はUさんとは、随分、馬が合った。なぜ、馬が合ったのか。思い当たることといえば、Uさんは、会議で必ず発言するが、たいてい発言の趣旨がよくわからないのである。多くの会議では、黙って、みなそのまま聞き置くこととするのだろうが、座長の私は、「Uさんの言いたいことは、‥‥ですよね」と必ず引き取るのである。そうすると、Uさんは、満面の笑みで、「そう、そうなんだよ」と答えるのである。

 会議では、いわゆるイジル相手がいると、会議が和やかになる。軽口がたたけて、笑いが起こる人である。一宮の会議では、Uさんが、そのイジル相手だった。どの会議でも、上座に据えられ、あるいは腫れ物に触るように扱われていたUさんであるが、イレギラーなイジラレ役は、案外、楽しかったのかもしれない。Uさんに、あんな冗談がいえるのは、松下さんだけだと、変に感心された。

 Uさんは、たくさんの会長職をやっているので、会議の進行はUさんの役割となる。会議の進行を心配した事務局は、関係者にきっちりと根回して、Uさんは、進行表を読むだけの会議をずっとやってきたのだと思う。だから議論も意見も出ず、粛々と会議が進む。ところが、私が運営する会議は、根回しはないし、進行表もない。何か言いたそうな人がいると、声をかけ、議論を起こし、みんなで議論し、全体の総意で決めていく。そんな会議をずっと見てみてきて、思わず最後に「透き通った会議」といったのだと思う。

 数年後、一宮市の方にあったとき、気になっていたUさんのことを聞いてみた。会議を終わるとき、ぜひ会社まで遊びに来てくださいと言われていたが、曖昧な返事のまま別れたのが気になっていたからである。聞くと、会議終了後、1,2年で亡くなったとのことである。実際に人生の修羅場をくぐってきた人なので、それを公共のために活かしてもらう仕掛けというか、機会をもっと作ってあげたら、本人のためにも、社会のためにも、ずっとよかったように思う。口だけでなく、毀誉褒貶はあるかもしれないが、実践するところが、馬が合った、本当の理由かもしれない。

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