「だーかーらー飛んでないって。こっちの人間は面白い事をいうな。かっはっはっ」
なんか気持ちよく鬼女に笑われる野々野小頭。どうして笑うのか小頭にはわからない。でも鬼女が理解してくれないのは理解した。だからこそもっと話が通じる相手に話をすることにした。
「わかる?」
「俺たちは飛ぶことは出来ないからな。だから走ってる。道があるだろう?」
鬼男の言葉に小頭は目を凝らす。確かに鬼男も飛んでるわけじゃなく跳ねてる……と言った方が正しい。鬼が全て飛べるのなら、鬼男だって小頭をもって飛んだ方が簡単だろう。でもそれをやってないという事は鬼は確かに飛べないのだろう。
(羽もないしね)
そんな事を小頭は思う。やっぱり翼がないと飛べたりしないだろう。でも道具があれば? 魔女だって箒に乗って飛ぶし、現代なら箒の代わりにそれが自転車になってても何もおかしくないのかもしれない。
それだと鬼女は鬼であり、魔女ということに? なかなかに設定が盛られてる。
「道?」
目を凝らすと車輪の下には確かに何か板? のようなのが小頭には見えた。あそこを走ってるから、鬼女も鬼男も飛んでる訳じゃない――と言ってるのだろう。
けどあれはなに? となるのは普通の事だ。
「あれは……貴方達の力なの?」
自転車の下に道を作る力? とても限定的なものである。
「あれは○○××だ」
「え?」
どうやら鬼男は何かを伝えようとしてくれてるのに、小頭にはその言葉が伝わらない。それは地獄の門の前でやってた詠唱のようだっだ。あれも理解できない言葉だった。
でも普段の会話は何の問題もなく通じ合ってる。これはどういうことだろうか? 小頭には不思議な事だな~と思うしかできない。きっと魔法的ななにか、それか鬼が使える特殊な力でもつかってるのだろう――それで納得できる。
なにせ世界には不思議が溢れてるのだ。こうやって鬼に抱えられて移動してるなんて、一年前には考えもしなかった小頭。結局小頭が考えた所で……だ。
小頭はなにも変わらないのに、周囲が……世界が変わっていくような気がしてる。
(お兄ちゃんも力に目覚めてるんだよね?)
一番身近な家族だった兄である野々野足軽。彼まで変わってるのはなんとなく不安な小頭。
「不思議そうだな? 乗ってみるか?」
「はい?」
すぐに鬼女は鬼男に向かってクイッと顎を動かした。それだけで通じたのだろう。人気のない……いや、そういえば全く持って人気なんてなかったが、とりあえず道路から離れた田んぼの縁に降りた。せまいが、走る所が空なら問題ないんだろう。
小頭を鬼男が下ろす。そして自転車を小頭に譲る鬼女。
「えっと……悪いし。てか私が乗っても空を走れるの?」
そこ、とても気になる。だって小頭には特殊な力はない。鬼力はないのだ。でも鬼女はからっからの気持ちいい笑顔でいってくる。
「やってみればわかるって!」
なぜが二の腕にこぶを作って見せ来る鬼女。それにどんな意味があるのか小頭にはわからない。きっと人間でいう所の俺指を立てるみたいな――そんな意味なんだろうと小頭は受け取った。
でもめっちゃ不安そうな小頭である。