ザザーザザー
そんな波の音が聞こえる。何かの遺跡なのか……城跡なのか……そんな観光地的な遊歩道……それは海に面してて、その人気のない道で彼女は海を見つめてた。
いつもは元気いっぱいな感じの彼女のアンニョイな姿。それは普段を知ってる人からしたらそのギャップでドキッと落ちそうな……そんなギャップがあった。
少なくとも小頭にはそう見えた。
「二人はここにいてね。余計な事しないでよね」
そんな事を小頭は鬼二人に告げる。鬼ともすっかり打ち解けたみたいだ。二人はそんな小頭の言葉に素直に従ってくれた。もしかしたらもう育代はわかってるのかもしれない。
なにせ扉を開いたのは足軽と育代みたいだからだ。でも流石にいきなり鬼を二人も引き連れていくのはどうか? と小頭は思ったんだ。自身は既にこの状況に馴れたが、育代がどうかはわからない。だからまずは一人で話を聞こうと思った。
「育代ちゃん」
「小頭……ちゃん」
育代が気づいて小頭の方をみる。今日もシンプルな服を着てる。腰の所で一回絞った感じのワンピースだ。暑いし、楽だからという理由でこういう服が好きだと育代は言ってた。
「えっと……あの……」
なんと切り出せばいのか……小頭は迷った。だっていきなり「あの門はなに?」とか「お兄ちゃんと何があったの?」というのは直球すぎるのではないだろうか? と思ったんだ。けど回りくどく行くとしてどうする? 天気の話でもするのか? という思いもある。ふと見る海。そこには太陽が反射してキラキラとしてる海がある。
すべてを包み込む海。命の母ともいえるその場所。普段はこんなに海が近くにない場所に住んでる小頭だ。ごく自然に「海」と出て来た。
育代はいつだって見てるのか別に何かいってくることはない。けど二人して海を眺める。潮風が二人の頬をなでる。
「綺麗だ――」
――ね、と続けようとしたけど、小頭の言葉は最後まで続くことはなかった。なぜか? それは海から何かが顔を出してこっちをみてたからだ。かなりデカい、島みたいな感じのやつ。禿げ散らかしたオッサンみたいなそんな奴が海から顔の半分を出してみてた。
あれがいるのに、綺麗だね……なんていえなかった。
「ああああぁぁぁあれ!? みた?」
「うん。ごめんなさい。私のせいだ……」
そんな風に瞼を伏せる育代。あの海坊主のようなおっさんはキモ過ぎたし、あれが海にいると今後一切海に近寄りたくなくなった小頭だが、話のきっかけになってくれたのだけは感謝した。