『世界一? いや宇宙一早く魔王を倒す物語』
落ちている男がいた。その男は普通の男だった。けどある時、駅の階段を踏み外したんだ。幸いにも誰かを巻き込むことなかった。それに最後の良い光景もみた。
それは誰かわからないが、きっとかわいい女の子のスカート中。階段を転げ落ち、痛みの中最後に見た光景は真っ白なパンツ。それを見てその男は自分の人生に「後悔なし」と思った。
ガク――
「あれ?」
死んだと思った男はどこかを落ちてた。それは闇。真っ暗で何も見えない。そんな所を男は落ちてる。落ちてる感覚だけはあるのだ。
「なんだここ……」
『おお、なんと嘆かわしい』
大仰な言葉が聞こえた。真っ暗な空間に眩しい程の光が集まって人の形を形成した。そいつはとても大きい。人のサイズじゃない。なんだろうと、男は思った。
『お主はただ死を待つ状態じゃ。それにもうすでに地獄逝きが確定しておる』
「おいまて、俺はそんな罪は犯してないぞ。悔いはないから死ぬのはいいとして、地獄は嫌だ! いいいいやだーああああ!!」
とりあえず拒絶反応をして見せる。落ちていく中で手足をばたつかせる。いい大人な訳だが、そんなの関係なかった。それはそうだろう。誰だってこれから行くところは地獄だよ? と言われたら全力で拒否するはずだ。
『そこで我の出番だ。貴様には選択肢がある』
「え? 地獄以外の?」
『そうじゃ。お主には地獄に行くか、別の世界に行って魔王を――』
「行きます!」
食い気味にそういった男。地獄に行くくらいなら、どんな世界でも行ってやる! そんな気持ちしかなかったのだ。それに……
(これが異世界転生か)
――とワクワクもしてた。なので二つ返事しかなかった。ただ社会の歯車のように会社に使われる日々。そしてその果てに疲労で階段を踏み外しての事故死……そして地獄逝きなんて納得できなかった。でも異世界への選択肢もあるのなら、それを選ぶの必然だろう。
「あ、あの……特殊な力とかは?」
異世界転生と言ったらチートである。なので図々しいと思いつつもそんなことを言ってみる。するとその白い大きな人――
『ふむ、そうだな』
――と言ってくれた。けどわかりやすいチートな力はくれなかった。ただ肉体を強化してくれる……ということだ。
(それだけかよ)
とか思ったが、男はそれを口にすることはなかった。逆に考えたら、ただ己の身一つで成り上がるのも悪くない――と考えたのだ。
『さあ、それでは行くのだ! その世界は救世主の到着を待っておるぞ!』
そんなテンションの上がるような煽り文句を言ってくれる神の様な人。闇の中に大きな渦が現れる。そしてそれにのまれて中心に向かう男。
「待ってろよ世界! 今、俺が行ってやるぜ!!」
そういって来世に希望を抱いてる男。そこに神の様な人の怪しい言葉が聞こえて来た。
『あ、やべっまちがえ――』
「うおおおおおおおおおおおおおおおい! 何を間違えたっていうんだああああああああああああ!!』
けどその答えを聞くことなく、男は渦の中消えていった。そして神の様な大きな人はいった。「ま、いっか」と。
「全てを壊せ。そして全てを蹂躙せよ。全てを闇にささげ、そして反転させることこそが……」
そんな事を指示するおどろおどろしい存在がいた。巨大な椅子に鎮座する、黒い八本の角が頭から突き出てる四本腕の巨人。それが魔王だった。
黒光りする鎧に身を包み、背後には大量の頭蓋骨が積み上げられてる。ここは世にいう魔王城だった。魔王は指示を出して息を吐く。それだけでこの場には死の瘴気がまき散らされる。部下でさえも魔王にはうかつに近づけない。そんな最強の魔王が彼だっだ。
けどそんな彼の頭上に何かが開く。キラキラとした渦。それは神の御業。気づいたときには、そこから何かが落ちてきた。
「あの野郎、適当な仕事しやがってえええええええええええええ!!」
そんな事を叫び、落ちてきた人間。神の加護をまだ色々と受けてた彼が魔王の脳天に直撃した瞬間、最初にぶつかった角が壊れた。
魔王にとって角は力の象徴。八つの角にそれぞれに別の力が宿ってた。なんと最初に壊れた角が魔王の『死』を司る角だった。
(馬鹿な!? こんなことが……)
そして神の力が安全装置として発動することにより、周囲の不浄……つまりは死の瘴気を払い給う。それは当然魔王には大ダメージだ。
「ぬおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
魔王の絶叫が響く。そしてそのまま、魔王は消えていく。
「いててて……えっと……なんだこれ?」
最後の最後……魔王は命を振り絞ってその者にいう。
「神の使者よ。奴隷よ! 我が滅んだとしても世界の崩壊は止められん。第二・第三の魔王が必ずやこの世界を闇に染め上げようぞ!!」
そういって彼は消えていった。それを聞いても男には困惑しかない。そこで最初に男が振り絞って出した言葉がこれだった。
「俺、何かやっちゃいました?」
『完』