切嗣「問おう。士郎が僕のマスターかい?」
昨日Fateが放映されたので再度FateSSを紹介します。
タイトルの通り主人公がセイバーではなく、養父を呼び出してしまう話です。
完結済みなので、安心して読めます。
どうぞ
――ただ、夢中で転がり込んだ。
土蔵の中を見回すが、手近に武器になりそうなものはない。
青い服を着た男が、血に濡れたような紅の槍を持って悠然と入ってくる。
これじゃ袋のネズミだ。殺される――俺がそう思ったとき、背後で懐かしい声がした。
「大丈夫かい? 士郎」
そいつは名乗りもしないのに俺の名前を知っていた。
いや、そんなのは当たり前だ。だってこいつは。
「……なんだテメェ。英霊、か?」
青い服の男が訝しげに問う。俺の背後のそいつは、
「死後たった五年で反英雄をかり出すなんて、聖杯も随分いい加減だな」
と何の感情もない声で独りごちた。
無視かい、と青い服の男は退屈そうに答え、槍を下段に構える。
「ま、何でもいいさ。とっとと片付けて帰らせてもらうぜ。抉れ、ゲイ――」
男が言い終わらないうちに、そいつはいきなり発砲した。
でもあの男は人間じゃない。ただの弾丸なんて効くわけがない。現に男は撃たれてもお構いなしにそいつに肉迫していた。
けれど、紅の槍がそいつの心臓を刺し穿つことはなかった。
そいつの胸の直前で、ほろほろと穂先は崩れていってしまったんだから。
「が――は」
青い服の男が血を吐いて、膝を地面につけながら消えていく。
あれは逃げているのではなく、消滅しようとしているのだ。存在自体が。
「英霊サマは魔力の塊だからな。これほど聖杯戦争向きの宝具はないってわけか。まったく」
黒いコートに黒いスーツ、無精ひげにボサボサ頭のそいつは、たった今撃ったばかりの銃を肩に載せ、バツが悪そうに小さく笑った。
「ただいま、士郎。君が僕のマスターかい?」
そいつは間違いなく、俺の親父――衛宮切嗣だった。