Fate/if
こりずにFateのSSを紹介します。
内容は「もしも衛宮士郎がランサーを召還したら?」のイフものです。
俗に兄貴と呼ばれるように兄貴気質のランサーが主人公の暴走癖を抑え導きつつ、
同じ戦場に立ち、聖杯戦争を共に戦いぬきます。
萌えというより燃えが主題で、燃えます。
完結済みなのでぜひ見てください。
「全く、あのお嬢ちゃん達も随分とハデにやってやがるぜ。ホント、後先考えてねえな。」
そういうランサーの足元には完全に傷の手当てをされたバゼットの姿がある。
確かに深手ではあるが、魔術師はそう簡単にくたばるものではない。
ましてや彼女は歴戦の執行者だ。命には別状はないだろう。
そんな風に気軽に呟くランサーは士郎とお互いのボロボロの姿を見て、口元に笑みを形作る。
「ハ、全く、お互いにボロボロだな。俺もお前も随分と生き汚いらしい。」
地平線から立ち上る夜明けの光を浴びて、楽しそうに笑いながら呟くランサーの姿は少しづつ薄れていく。
出会った時と変わらぬ気楽さそのままに、彼は足元から少しづつ消え去っていた。
彼らサーヴァントをこの世界に現界させているのは聖杯の膨大な魔力ゆえだ。
存在を支える膨大な魔力がなくなった以上、もはや英霊は消えさるしかない。
そう、それはすでに知っていた。それがもうどうしようもない事も。
けれど、それでもこの瞳から溢れる涙は止まらない。
視界が涙でぼやける。それでも、士郎は震える声で言葉を紡ぐ。
「――――ラン、サー。俺、さ。」
「は、心気臭いのは無しだぜ。相棒。
どうせなら笑顔で別れようや。……願いを叶えた英霊は現世に存在すべきではない。
俺は最早願いを叶えた。俺の戦いは、これで終わりだ。」
そう、彼にとってこの戦いはとても意義のある戦いだった。
強者との戦いを存分に楽しみ、己の好んだ者と最後には敵対するというジンクスすらをも打ち破った。
非業の人生を送ったクーフーリンにとっては、自分自身の運命は打ち破られる事のできるモノだという事を、証明できたのだから。
それは彼にとって何より意義のある事だった。
ランサーは何かを成し遂げた清々しい顔をし、口元に笑みを浮かべながらさらに言葉を続ける。
「お嬢ちゃんの事は任せたぜ。
何せ無鉄砲でどうしようもないほどお人好しな魔術師だからな。
お前が、護ってやれ。」
士郎は涙を拭うとそのランサーの言葉に、自然な笑みを浮かべて答える。
「ああ、ランサー。俺、頑張るから。頑張って遠坂を護るから。大事な家族を護っていくから。だから―――」
だから、心配しないでくれ。
そういう士郎の心の声が聞こえたのか、ランサーは不敵に微笑むと、片手で挨拶をする。
「はっ、それだけ言えれば後は大丈夫か。
―――じゃあな戦友。お前と一緒に戦えて、なかなか楽しかったぜ。」
ただ一度だけ、彼は精悍な顔に悪戯っぽい無邪気な笑みを浮かべた後、すっと一瞬の内に消え去っていった。
その何も残さない鮮やかさは、まるで彼自身の人生を象徴しているようだった。
そんな消え去ったランサーに向かって、士郎は空中を見つめながら一つ呟く。
「―――ああ。俺もさ。相棒。」
いつか夢の中で見た笑顔。
その笑顔は、あのハシバミの少年の笑顔だった―――。