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月光を背に雲海を上を銀髪の魔女が飛んでいた。
夜間飛行は昼間と違い、視界が効かず距離感覚が掴めないため、好んで飛ぶ魔女はいない。
しかし彼女はその例外に属する。
頭部に光る魔導針がネウロイだけでなく己の位置を常に把握し続けているゆえ、
例え月夜がない夜でも飛ぶことが苦とならない。
彼女の名はアレクサンドラ・ウラジミーロヴナ・リトヴャク中尉。
501ではサーニャと呼ばれている彼女には秘密がいくつかある。
例えば固有魔法の「全方位広域探査」
そして訓練で習得した魔導針で同じナイトウィッチ同士で通信を交わし合っている事。
今は披露する機会があまりないが、
ネウロイが侵攻する前まではウィーンで音楽を学んでいたから歌が上手な事。
料理も得意でオラーシャのお国に料理であるボルイシチだけでなくケーキだって作れる事。
どれも501の皆に話したいが、
サーニャ自身も自覚している引っ込み思案な性格。
そして主な活動時間が夜間哨戒に飛び立つ夜と早朝に限られているから、話す機会もあまりない。
例外はエイラ、それとエーリカ・ハルトマンである。
さらに他の例外と言えば・・・。
『こんばんわ、サーシャ』
突然男性の声がサーニャの耳に届いた。
「こんばんわ、ビック・ガン」
サーニャはそれに驚かず、
魔導針で声の主の位置を確認してからいつも通りに挨拶を返した。