ガールズ&パンツァー Interview Log ~戦車道少女たちの記録~
本当はSSを更新すべきところですが、
時間がとれないため本日もSSの紹介をします。
お題は2015年11月末から映画が公開され連日満室御免の「ガールズ&パンツァー
」です。
時間軸は本編より遥かに先で、
当時のことのについて主要キャラクター達が記者のインタビューに答え、
その時の考えや気持ちを回想する話で、
公式が足りないところは作者の構想力でカバーしていますが、
違和感無く自然にできています、ぜひみてください。
――ご自身で書かれた本でも語っていましたね、聖グロリアーナとの練習試合ですか?
その通り。
それから1週間もしない内に、聖グロリアーナ女学院と練習試合をするという情報が入ってきた。
聖グロリアーナ女学院の主力がイギリス戦車と聞いて私は胸の高鳴りを押さえきれなくなった。
三突の初陣にはちょうどいい相手に思えたし、何よりもヴィレル・ボカージュの戦い(※4)のように試合展開が進むだろうと考えていた。
あの時は模擬試合であんこうチームの四号戦車――西住流である隊長に一撃を喰らわせた――という経験から相手はたいした事でもないだろうと思っていたし、
自分がヴィットマン(※5)級の戦いを出来るかもしれないという浅はかな妄想まで膨らませていた。
生徒会広報の立案した待ち伏せ作戦も完全に機能するだろうと考えていた。今思えば滑稽だ。
私達にとっての大きな誤算は、これはヒストリカルイベントやリエナクトメントではなく本気の試合だと思わなかった事だ。
自分達の好きな塗装を施そうと言い合った結果、三突は奇想天外な色になり、幟まで付けてしまって……今思えば待ち伏せを台無しにするくらい目立つ仕様にしてしまった。
試合が始まると、三突は私達の希望に通りに動いてくれた。
突撃砲ゆえの信地旋回頼みの照準という制約はあったが、攻撃力と射程に関しては初期の戦車では群を抜いて高かった。
問題はこちらの練度不足で砲撃は全く当たらなかった事だけ。
私は観測手を兼ねている、左衛門佐との連携不足、そして私と左衛門佐の腕からは遠距離の目標に当てる事は難しかった。
生徒会が建てた待ち伏せ作戦は、私達……あんこうチームを除く全ての戦車の奇抜すぎる塗装、穴だらけの射撃精度、経験の浅さから容易く崩壊した。
それから大洗の市街地へ逃げ込むという作戦……隊長曰く「もっとこそこそ作戦」を開始するに至った。
各自に待ち伏せ攻撃の方法を一任され、私が出した提案は「待ち伏せをしよう」という物だった。
ちょうど通りかかった薬局の隣に三突がちょうどすっぽり入る路地がある、そこへ入り込んで接近する敵を脇から叩こう、と。
突撃砲が真価を発揮するのは待ち伏せにある、
継続戦争、独ソ戦、西部戦線……突撃砲はまさに移動する大砲として使用される事が多かった。
私の提案に皆が乗っかった、ちょうど幟があり、
薬局には宣伝用の幟がある、それに隠れてしまえばどうって事は無いだろう、そう判断した。
この判断はすぐさま役に立った。
待ち伏せを始めて暫くしないうちに、マチルダがやってきた。
距離にして数メートルも離れていない。左衛門佐は即座にマチルダ2に命中させた。
あの時の歓喜といったらそれはもう凄かった、始めての勝ち星に私達は車内で歓喜の声を上げた。
黒煙を上げるイギリス戦車、そして砲口から白煙をくゆらす三突。
私は自分が西部戦線のど真ん中に立っているような気分を覚えて恍惚とした。
夢にまで見た景色……私達は意気揚々と幟を回収し、次なる待ち伏せ場所へ向かった。
腕を組みながらカエサルと並んで高笑いをして、これならやれる、絶対に勝てると自信を取り戻していた。
車高の低さなら生垣やブロック塀が隠してくれるだろう、同じ様な待ち伏せ攻撃を行って撃破していけばいいし、
実際、その戦法ならこちらにも勝算はあっただろう……あのバカみたいに目立つ幟さえ付けていなければな!
頭かくして尻隠さず、まさにその通りの敗因で私達の三突はマチルダから逃げる際に砲撃で沈黙した。
撃破判定装置が白旗を上げ、隊長へ報告を入れると同時に、車内は一斉に論議の嵐になった。
「幟なんか付けたからこうなった」「カッコいいからぜよ」
「さっきの待ち伏せには役立った」「でも、やられてしまったではないか」
「一体どこの誰がこんな事をした」「鏡を見て言え」
などと。後にも先にも戦車道の試合で友情にヒビが入りかけたのはあれが一度きりだった。
結局試合は僅差まで詰めたがあんこうチームの行動不能により聖グロリアーナ女学院が勝利した。
私も本では「敗北した」ぐらいしか書いていなかったが、
正直な話、この試合の詳細は恥だと思って封印するべきだと思った。機会を逃したら今ここで言ってしまうが……
結局練習試合に負け、その日の翌日には反省会となった。
隊長を中心にして進められた反省会だが、全員揃って頭を抱えたのは言うまでもなかったろうな。
私たちのチームは撃破という戦績を残せたからよかったが、M3リーは試合をする事なく乗員が試合を放棄して逃亡、
八九式は至近距離からの不意打ちに失敗し脱出するという後先を考えない場所に突っ込んで撃破され、
生徒会の38tは至近距離で隊長車への砲撃を外し、密集している他の敵車両すら外して撃破されるという情けない結果に終わった。カエサルは反省会の内容を引っさげて私達の前に帰ってきた。
――やはり失敗の責任は大きかったですか?
いや。カエサル曰く「隊長は殆ど怒っていなかった」との事だったが、
あの3両撃破という格の違う戦果を見せられた上で、冷静な指摘をされると、ただただ私達の力量不足が不甲斐なく思えてきて……初陣が散々な結果に終わった事から全員揃って派手な塗装は全て取りやめて、元の色へ戻そうと言う結果になった。
三突を修理する前に、私達は自らの戒めを込めて撃破された三突を写真に撮る事にした。
〔彼女は机の上に置かれたアルバムをめくり、
一枚の写真を私に見せる。赤色、黄色と派手な塗装が施され壊れた幟が立てられたままの三突が映っていた〕
こんな派手な塗装、過去に戦車道で何個が前例があるしタンケッテレースでは当たり前だが、
高校生の戦車道でこんな事をしているのは私達ぐらいだった。
それから元のジャーマングレーの塗装に戻され、改めて三突の練習を行った。徹底的かつ綿密に。
生徒会長からこの学校を戦車道全国大会へ出場させると聞かされたからには本気でやるしかなかった。
生憎、第63回大会では決勝戦でマウスを前に敗れてしまったが……それでも私達が大洗戦車道の「矛」として戦い続け、
その役目を全うしたのは誇るべき事だったし、
歴史が好きである事以外、何の取り得も無かった私達が果たした唯一の成果だったのは事実だった。
それに、殻にこもって自分達だけの空間を作っていた私にとって、
新しい友人も出来た。それが私達が胸を張って誇れる結果だった。
本当はSSを更新すべきところですが、
時間がとれないため本日もSSの紹介をします。
お題は2015年11月末から映画が公開され連日満室御免の「ガールズ&パンツァー
時間軸は本編より遥かに先で、
当時のことのについて主要キャラクター達が記者のインタビューに答え、
その時の考えや気持ちを回想する話で、
公式が足りないところは作者の構想力でカバーしていますが、
違和感無く自然にできています、ぜひみてください。
――ご自身で書かれた本でも語っていましたね、聖グロリアーナとの練習試合ですか?
その通り。
それから1週間もしない内に、聖グロリアーナ女学院と練習試合をするという情報が入ってきた。
聖グロリアーナ女学院の主力がイギリス戦車と聞いて私は胸の高鳴りを押さえきれなくなった。
三突の初陣にはちょうどいい相手に思えたし、何よりもヴィレル・ボカージュの戦い(※4)のように試合展開が進むだろうと考えていた。
あの時は模擬試合であんこうチームの四号戦車――西住流である隊長に一撃を喰らわせた――という経験から相手はたいした事でもないだろうと思っていたし、
自分がヴィットマン(※5)級の戦いを出来るかもしれないという浅はかな妄想まで膨らませていた。
生徒会広報の立案した待ち伏せ作戦も完全に機能するだろうと考えていた。今思えば滑稽だ。
私達にとっての大きな誤算は、これはヒストリカルイベントやリエナクトメントではなく本気の試合だと思わなかった事だ。
自分達の好きな塗装を施そうと言い合った結果、三突は奇想天外な色になり、幟まで付けてしまって……今思えば待ち伏せを台無しにするくらい目立つ仕様にしてしまった。
試合が始まると、三突は私達の希望に通りに動いてくれた。
突撃砲ゆえの信地旋回頼みの照準という制約はあったが、攻撃力と射程に関しては初期の戦車では群を抜いて高かった。
問題はこちらの練度不足で砲撃は全く当たらなかった事だけ。
私は観測手を兼ねている、左衛門佐との連携不足、そして私と左衛門佐の腕からは遠距離の目標に当てる事は難しかった。
生徒会が建てた待ち伏せ作戦は、私達……あんこうチームを除く全ての戦車の奇抜すぎる塗装、穴だらけの射撃精度、経験の浅さから容易く崩壊した。
それから大洗の市街地へ逃げ込むという作戦……隊長曰く「もっとこそこそ作戦」を開始するに至った。
各自に待ち伏せ攻撃の方法を一任され、私が出した提案は「待ち伏せをしよう」という物だった。
ちょうど通りかかった薬局の隣に三突がちょうどすっぽり入る路地がある、そこへ入り込んで接近する敵を脇から叩こう、と。
突撃砲が真価を発揮するのは待ち伏せにある、
継続戦争、独ソ戦、西部戦線……突撃砲はまさに移動する大砲として使用される事が多かった。
私の提案に皆が乗っかった、ちょうど幟があり、
薬局には宣伝用の幟がある、それに隠れてしまえばどうって事は無いだろう、そう判断した。
この判断はすぐさま役に立った。
待ち伏せを始めて暫くしないうちに、マチルダがやってきた。
距離にして数メートルも離れていない。左衛門佐は即座にマチルダ2に命中させた。
あの時の歓喜といったらそれはもう凄かった、始めての勝ち星に私達は車内で歓喜の声を上げた。
黒煙を上げるイギリス戦車、そして砲口から白煙をくゆらす三突。
私は自分が西部戦線のど真ん中に立っているような気分を覚えて恍惚とした。
夢にまで見た景色……私達は意気揚々と幟を回収し、次なる待ち伏せ場所へ向かった。
腕を組みながらカエサルと並んで高笑いをして、これならやれる、絶対に勝てると自信を取り戻していた。
車高の低さなら生垣やブロック塀が隠してくれるだろう、同じ様な待ち伏せ攻撃を行って撃破していけばいいし、
実際、その戦法ならこちらにも勝算はあっただろう……あのバカみたいに目立つ幟さえ付けていなければな!
頭かくして尻隠さず、まさにその通りの敗因で私達の三突はマチルダから逃げる際に砲撃で沈黙した。
撃破判定装置が白旗を上げ、隊長へ報告を入れると同時に、車内は一斉に論議の嵐になった。
「幟なんか付けたからこうなった」「カッコいいからぜよ」
「さっきの待ち伏せには役立った」「でも、やられてしまったではないか」
「一体どこの誰がこんな事をした」「鏡を見て言え」
などと。後にも先にも戦車道の試合で友情にヒビが入りかけたのはあれが一度きりだった。
結局試合は僅差まで詰めたがあんこうチームの行動不能により聖グロリアーナ女学院が勝利した。
私も本では「敗北した」ぐらいしか書いていなかったが、
正直な話、この試合の詳細は恥だと思って封印するべきだと思った。機会を逃したら今ここで言ってしまうが……
結局練習試合に負け、その日の翌日には反省会となった。
隊長を中心にして進められた反省会だが、全員揃って頭を抱えたのは言うまでもなかったろうな。
私たちのチームは撃破という戦績を残せたからよかったが、M3リーは試合をする事なく乗員が試合を放棄して逃亡、
八九式は至近距離からの不意打ちに失敗し脱出するという後先を考えない場所に突っ込んで撃破され、
生徒会の38tは至近距離で隊長車への砲撃を外し、密集している他の敵車両すら外して撃破されるという情けない結果に終わった。カエサルは反省会の内容を引っさげて私達の前に帰ってきた。
――やはり失敗の責任は大きかったですか?
いや。カエサル曰く「隊長は殆ど怒っていなかった」との事だったが、
あの3両撃破という格の違う戦果を見せられた上で、冷静な指摘をされると、ただただ私達の力量不足が不甲斐なく思えてきて……初陣が散々な結果に終わった事から全員揃って派手な塗装は全て取りやめて、元の色へ戻そうと言う結果になった。
三突を修理する前に、私達は自らの戒めを込めて撃破された三突を写真に撮る事にした。
〔彼女は机の上に置かれたアルバムをめくり、
一枚の写真を私に見せる。赤色、黄色と派手な塗装が施され壊れた幟が立てられたままの三突が映っていた〕
こんな派手な塗装、過去に戦車道で何個が前例があるしタンケッテレースでは当たり前だが、
高校生の戦車道でこんな事をしているのは私達ぐらいだった。
それから元のジャーマングレーの塗装に戻され、改めて三突の練習を行った。徹底的かつ綿密に。
生徒会長からこの学校を戦車道全国大会へ出場させると聞かされたからには本気でやるしかなかった。
生憎、第63回大会では決勝戦でマウスを前に敗れてしまったが……それでも私達が大洗戦車道の「矛」として戦い続け、
その役目を全うしたのは誇るべき事だったし、
歴史が好きである事以外、何の取り得も無かった私達が果たした唯一の成果だったのは事実だった。
それに、殻にこもって自分達だけの空間を作っていた私にとって、
新しい友人も出来た。それが私達が胸を張って誇れる結果だった。
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