株式会社プランシードのブログ

株式会社プランシードの社長と社員によるブログです。
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その22.楽をさせてはくれない!

2012-07-06 06:48:46 | 制作会社社長の憂い漫遊記
「その20」で書いた私と最も仕事をした
河西 秀樹カメラマンに次ぐのが、田中 昌次カメラマンだ。
「その17」で紹介したフォーカスを出てフリーになった
とても器用なカメラマンで、商品カットを撮るのがうまかった。
またフォーカスが料理ビデオを作っていたので
料理をおいしそうに撮るシズルカットも抜群にうまかった。
河西 秀樹カメラマンのようにカメラごと危険に飛び込む肉体派ではないが、
コジャレたカットを得意としPR監督からCM監督まで幅広く親交がある。


(酒を飲んでは作品論をかわす若かりし頃の私
右端が田中カメラマン)

私が彼と撮った数多く作品の中で特に記憶に残るのは
20年ほど前に作った住友生命「機関長教育ビデオ」である。
生命保険の外交員を束ねる支店の女ボスを対象としたものだ。
機関長のほとんどはトップセールスレディだが
自分が長となると様々な問題にぶつかる。
そこでビデオで教えるのではなく、ドラマ仕立てにして
日常の自分と照らし合わせてどうなのかを話し合うための
問題提議型のビデオにした。
この頃は答えまでのせた超お節介型ビデオが主流だったが、
今回の企画は各地の機関長を集め、
ドラマを見せて議論させるというもので、答えはない。
議論しながら答えを見つけ出していくという
当時としては先進的な挑戦でもあった。
企画はすんなり通った。あとはどのようにドラマをしたてるかだ。
これは我々作り手の仕事である。

当時はスポンサーもだいぶ目が肥えてきて撮影中にNGを出すし、
試写でも平気でNGを出す。撮影中のNGは取り直せばいいが
試写後のNGはどうしょうもない。
我々からすれば「台本を読めばわかるやろ~」だが、
台本は読まずに完成してから
NG(ガンを飛ばして因縁をつける)を出す。
しかも大局に影響のない重箱の隅をつつくNGも多々ある。
そもそもプロデューサーも悪い。
試写時に「どこか気になるところはありませんか?」などと
言うものだから言いたい放題になる。仮に言いたい放題になっても
「ありがとうございました。ご指摘の●●については
本旨にもかかわるので検討させていただきます。」とか
「●●様からご指摘のあった箇所についてはすでに撮影完了しており
差し替えられるものは対応させていただきます」と
見事に指摘してありがとうと周囲に名前まで言いつつ褒め称え、
あくまでも情熱的に、しかしあくまでもサラリと交わせばよいものを、
あたかも「監督が悪い。私は関係ね~」と態度で現すものだから
ニッチモサッチモいかなくなる。
もはや取り直しはできない。
そんなことしたらプロデューサーは大赤字をこくことになる。
そこで私は一計を案じワンシーンワンカットで撮ることにした。
約15分のドラマをシーンごとに約10カットで撮ることにした。
もし撮影後の試写でNGを出せば、作品自体が成り立たなくなる。
また撮影時にスポンサーにも必死でチェックしてもらわないと
後で取り返しがつかなくなる。
まさに危険極まりない賭けをすることにした。
勿論、台本打合せから緊迫感満載、
撮影も、リハを何度も繰り返し本番に挑んだ。
役者さんも劇映画ならプライドを賭け台詞を頭に叩き込んでくるが、
PRビデオは余興の金儲けぐらいに舐めてかかるフトドキな役者もいる。
しかし今回ばかりは許しまシェン。
「あんた次第で撮影が押すんだぜ」の脅しもきき、台詞NGもない。


(本作とは別の作品で北海道に!
私と田中カメラマン以外は北海道スタッフ、
さすが雪国育ちなのでTシャツだ。さぶ~)

あとはどうワンシーンで撮るかにかかってくる。
この台本を書いている時からカメラマンは田中氏と決めていた。
理由はまず若くて挑戦的だったこと、
そしてそのチャレンジを楽しむ技術があった。
ワンシーンで約2分となると役者さんだけの動きではもたない。
会議室やデスクでの会話シーンもあり、
場合によってはカメラも移動車に乗るなどして動かねばならない。
カメラが動けば照明機材のみならず様々な物やその影が入り込んでくる。
ライトの位置によってはカメラマンや機材の影が
役者さんに写るという事態も招く。カメラが動けばガラス窓にも写り込む。
従ってカメラの動きに合わせて照明機材をハケたりする。
現在のカメラは照明機材が無くてもかなりきれいに写るが、
当時は照明で明るさを補助しなければ映りが悪い。
カメラが動いても照明機材が写り込まないとなると
天井からのライトになるがスタジオでセットを組めるほどの予算はない。
予算を考えると実際の支店でのロケになるが、
天井から照明機材を吊るすには天井が低すぎる。

そのような諸々の問題を、スタッフを牛耳るボスとして田中氏は動き、
撮影は快調に終わった。
編集は約10カットをつなぐだけなので数時間で完了。
試写もシャンシャンで好評の内に終わった。
これで私は味をしめ、以降同じ手法で手抜きをした!
すっとこどっこい!そんなに世の中あまくない。
後にも先にもワンシーンワンカット作品はこれのみである。
なぜなら
①やはりスポンサーは試写で何かしら言いたい。
言うことで評価されると若干勘違いしている。
②プロデューサーにとってあまりにも危険な賭けでありすぎる。
③そしてこれが最大の理由であるが、
やはりビデオを見てわかるものにしたい!答えがほしい!
(そのために人を集めて議論させるなんてメンドクセ~)
というスポンサー側の意向である。
しかしながら私見ではあるが誰が見てもわかるビデオなんて
レベルが低すぎる。問題提議こそが、感情をぶつけることこそが、
暗闇の中でしか見ることができないフィルムに変わり
身近になったビデオの生きる道と考える私が先進的すぎたのだ
(当時は…)。
こうして監督の後作業を画期的に省力化する
「ワンシーンワンカット作品」は、これをもって「以上終わり」となった。


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