株式会社プランシードのブログ

株式会社プランシードの社長と社員によるブログです。
会社のこと、仕事のこと、プライベートのこと、あれこれ書いています。

その410.第30回技能士グランプリ

2019-03-03 05:33:41 | 制作会社社長の憂い漫遊記
神戸国際会議場で技能士グランプリが開催されている。
様々なジャンルの技能士が己の技を競う職人芸のコンテストだ。
瓦職人や看板職人、服職人、御菓子職人など多種多彩な職人が集い
出されたお題でモノを会場で一から作り上げる。
今年で30回目を迎える。

弊社の美術を担当する上田氏の部下である加藤女史が
「粘着シート仕上げ美術広告」部門にエントリーしている。
全員各地から選ばれた総勢14名が、
3月2日7時間、3月3日3時間の計10時間の短時間で
粘着シートを使った看板を作り上げる。

ふだん加藤氏は弊社のデザインしたパネルを作ってくれている。
数週間前、上田氏と仕事の打合せで訪問した時
加藤女史からグランプリの話を聞かされた。
色のついた透明の粘着シートでお題に合った看板を作る。
加藤女史は、シートを重ねて貼ることで
重なった部分の色が別の色になる「重ね貼り」技法を武器に
部門グランプリを目指す。
見本を見せられたが、確かに青と青のシートが重なると
濃い紺色になるし、赤と黄が重なると緑になっていた。
偶然ではなく必然なので相当計算尽くさないと
かえって重なりあった部分が濁ってしまう。
重ね貼りは、まだコンテストには出ていない技法なので
加藤女史はデザインを重視した最近の風潮に、
重ね貼りという職人技でグランプリにチャレンジするという。
極論を言えばデザインではなく
技法「重ね貼り」だけでグランプリを目指す。
確かに技と技の戦いが本来の趣旨なので
技法で挑むのは本旨ではあるが、
画才が繰り出す完成度の高い印象操作に比べると
技法一本勝負はいかにも地味だ。

加藤女史がそこまで話してくれたのには訳がある。
看板に気の利いたキャッチコピーを付けたいのだが
案を出してほしいと言う。
なるほど、それは私の本業であり十八番だ。
加藤女史の重ね貼り秘話を聞きながら、
看板のテーマに合うコピーを思い付くまま口に出してみる。
すかさず横から上田師匠が茶々をいれてくる。
上田師匠は私のコピー案を聞きながら
コピーをレイアウトする選手に変身している。
困ったものだ。
持ち帰って考えると洗練されたコピーにはなるが
その分、ライヴ感がなくなる。
さらに、あまり深くかかわると愛が芽生えるので
その場で何案かイメージを出してみた。
あとは本人が決めればよい。

しかしそうなると、どーなったのか気になるのが人の常。
3月2日に会場に行くことにした。
会場は職人の熱気がムンムンむん。
もしここへ東南海地震がきたら全員水死。
そうなったら日本からあらゆる職人がいなくなる。
技術大国ニッポンは一瞬にして崩壊する。
そんなヤバイことが起こるかもしれないのに
今まさに神戸国際会議場で平気に行なわれている。


粘着シート部門は正方形の競技会場を
碁盤の目に分けて作業場を与えられている。
14名が与えられたテーブルに向かっているが
観客は正方形の柵の外からしか見ることが出来ない。
中央の桝の人物の手元や顔は見えないし、声も掛けられない。
幸いにして加藤女史は端の作業場だったので
声をかけることができる。
邪魔したら悪いので、アイコンタクトを取ろうと
見続けたが加藤女史は真剣そのもの。気づくそぶりもない。
時間内にデッサンから張り付け
仕上げまでを行わなければならないサバイバルレースなので
傍目を気にしている余裕はない。
約5分間のアイコンタクトをあきらめ
小声で「加藤さん」と無神経にも声をかけた。
そう私は即現場に馴染む本職・監督なのだ。
と加藤女史の力強い眼力がかえってきた。
私に気づき眼力は一瞬消え
いつもの笑顔でペコリと頭を下げてくれた。
しかしそれとて一瞬で、再び戦場へと帰っていった。

私は携帯を取り出して数枚写メを取り
会場の外に出て上田氏に連絡を入れた。
上田氏第一声「どこまで進んでますか?」
「トレスシートに沿ってカッターを入れていました」
「ようやくそこまできましたか・・」
この上田氏も以前出場して4位だったとか。
携帯から聞こえる声は
その時以上に「緊張しているぜ」と物語っている。
師匠は弟子に対して、しょせん何も出来ない。
誉めてやるか、見守ることぐらいしか出来ないのだ。
今回グランプリ出場で加藤女史の抜けた穴を
現場で埋めるのが上田師匠の出来る唯一のことだ。
上田師匠は朝会場まで応援に駆けつけたが
午後から現場に戻り仕事をしている。
会場で私と会うこともなかった。
残り時間は5時間。
とにかく完成させること。
後ろ姿に今度は口パクで「がんばれ!」と
声をかけ私も会場を後にした。
「がんばれ!」

最新の画像もっと見る

コメントを投稿