ORGANIC STONE

私達は地球を構成する生命を持った石に過ぎないのですから。

現代トレンド論「僕のママはヒッピーだった」:MIKAエッセイ XL Repubblica(Nov.2010)

2010-11-06 19:09:52 | 音楽:MIKA
元サイト:http://videodrome-xl.blogautore.repubblica.it/2010/10/28/mika-pop-up/

僕の母はヒッピーだった。少なくとも僕が思うには、暫くの間はね。それから彼女は人類学者になった・・・それは彼女が明らかに「有名になる前」のローリング・ストーンズの献身的なファンになる前のこと。ストーンズの連中は彼女にアメリカのファンクラブをやってくれないかって頼んだ位だ。彼女の人生は数年ごとで変化している。僕の人生は数ヶ月で変化しているように見える。今、僕の右の本棚には100冊以上の本があって、パンク・ムーブメントのファッションから1920年代アメリカの奇人変人ショーの衣装までいろいろな時代の音楽、スタイル、アートを網羅している。僕はティーン時代から時代の文化的時相と時勢(トレンド)に魅入られて来た。19歳の時には世界にただ一人存在するトレンドを科学的に研究している教授を捜し出そうと数ヶ月を費やした。彼は自分を「trendologist(時勢研究家)」と呼び、僕は彼に学びたかったんだけど、結局、音楽が僕の優先事項になったんだ。その選択を振り返ってみると不思議な気がする。トレンド研究と音楽に同時に興味を持ったことをね。いい音楽を創造するには自分の周りの現実を忘れ、自分だけの世界を作り上げることが必要だと思う。トレンドと流行は想像力を殺すんだ。

1年ほど前、ガガのロスのショーを見に行った。僕はちょうど2枚目のアルバムを仕上げたところで、彼女が何をやってるか興味を押さえられなかったんだ。バックステージで僕は偶然カニエ・ウェストに会って、一緒に飲みに行くことになったんだけど、会っている間、カニエは今何が流行なのかって話題をずっと話すんだ。彼はほとんど考えられるすべてのアートやスタイル、流行について意見を述べてくれた。僕は彼の知識に驚くと同時に混乱したんだ・・・彼はこんなに「今」のトレンドにどっぷり浸かって居てどうやって創作活動も両立出来てるんだろうって。彼には両立出来る、僕には出来ない。

僕は曲を書く時、我を忘れる。友人と音信不通になって付き合いも全く忘れる。僕は創作に必死になり、しかもかなり不潔になる。シャワーなんて僕の中の最も重要じゃないリストのトップだから、誰とも会わないのが正解。僕は自分のアイデアと自分自身に意識を集中するんだ。世間のトレンドから離れ、僕だけの世界を創造する。カニエのことは大好きだけど、服の話には困った。彼は僕のことをファッションやブランドに詳しくて何か気の利いたことが言えるヤツと思ったんだろうな・・・でも彼は僕が無知だってすぐ分かっただろう。ヒッピーで人類学者でグルーピーでドレスメーカーの母親に育てられたってことはいつも自分たちで作った服を着て育ったってこと。服を買うなんて彼女へのとんでもない侮辱だったんだ。

今では昔ほどトレンドに興味はない。トレンドは変化した。トレンドが死んだってことじゃなくて、興味を持つにはトレンドのサイクルが早すぎるんだ。情報は次から次へ矢継ぎ早に与えられ、それを僕たちは次から次へと消費する。けれど、それを全部本当に覚えていられる?トレンドってヒールの高さやドレスのカットのことだけじゃないんだ。トレンドはアートや文化、歴史までをも形作る感情の巨大な集合体が作り出す物なんだ。もしトレンドの推移が早すぎるなら、ただの一時的流行以上の物は残らない。君たちはトレンドなんて既にカウンターカルチャー(伝統的・支配的な文化に対抗する文化)の先駆者が作り出す物では無くなって来てるって言うだろう。ロンドンのパンクのイメージやNYのファッションリーダーたちはもう時代遅れ。トレンドの真の先導者はパソコンの前に座ってるんだ。たぶんだらしない服を着て、かなりの凡人に見えるはずだ。しかしトレンドはオンラインのフォーラムで作り出されている。マーク・ザッカーバーグが2003年にハーバード在学中フェイスマッシュを作った時、それがフェイスブックになりトレンドの巨大な集合体として一世風靡するなんて思いもしなかっただろう。君のプライバシーを侵す存在として彼を愛そうが憎もうが、彼は今世紀最もトレンドを先導する人物なんだ、彼は今でもファッションセンスは最悪だけど。

僕の母親の人生を振り返ってみよう。彼女は自分の行うべきことをこなしていった。彼女の信念を広め、順番にトレンドを広めるのを手伝って来た。その努力と費やした時間は彼女の行為に価値を与え、その結果彼女はトレンドの開拓者であると自分で思える結果を生んだ。今日、トレンドの早すぎる変化は人々にトレンドに対する愛着を育てる時間を与えない。トレンドを育てる戦士が存在しなければ、トレンドは時の流れの前に敗北する。

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2 コメント

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ヒッピーじゃないママですが (ラルフ)
2010-11-18 22:11:03
こんばんは!
Mikaのトレンド論、面白く読ませて頂きました。
カニエさんはトレンドを上手く利用して
時代の流れに乗ってるんですね。
とても器用な人なのに対して、Mikaはある意味不器用なのかもしれませんよね。
そこがMikaの良さでもあるわけだし、
彼に多大なる影響を与えているママは素敵です。

確かに今のトレンドってよくわかりませんっ。
何を買ったらいいのかわからない。。。



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ふむふむ (ptd)
2010-11-19 21:55:52
ラルフさん
お元気ですかーもうクリスマスシーズンですね!

ラルフさんの言うようにMIKAは不器用なんでしょうね。それはそれで個性としていいのかなと思います。どっちかって言うと不器用なアーティストが好きです。

この人、ママ好きですよねえ。マザコンじゃないって宣言してますけど、どう考えてもマザコンってやつじゃないかと思うんですが。

ではではー
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