事故や事件の加害者に裁判所が下す判決は被害者の性別により異なる傾向があるという。裁判所は「女の値段」をいかに算定しているのか。実際の判例から紐解いていこう。
■処女なら重罪反映される市民感情
強姦の場合、犯罪の軽重、犯人の性格や年齢、境遇、初犯かどうかなども考慮されるが、一番のポイントになるのは被害者の属性だ。
まずは被害者の年齢をチェックし、それによって処女か非処女かを判定する。結局のところ正確な処女判定はできないので、年齢から類推するのだ。たとえば20歳の女性が裸に近い状態で交番に駆け込めば、警察は「大変な事件が起きた」とすぐに動き出し、処女膜に傷がつけられていれば検察は「強姦致傷」で起訴するだろう。処女だと量刑が上がるのだ。たとえば、路上で自転車走行中の被害者を倒してカッターナイフで脅したうえで姦淫し、全治5週間の骨折をさせたケースでは、強姦致傷で懲役9年10カ月が言い渡されている(2009年、仙台地方裁判所)。
さらに、被害者が女子中学生だった場合、姦淫がなくても強姦致傷罪が成立している。このケースでは、被害中学生を姦淫する目的で店のトイレに侵入し、暴行を加え姦淫しようとしたが、目的を達することはできなかった。しかし、加療1週間の背部擦過傷を負わせた「強姦致傷等」として、懲役12年が言い渡されている(10年、福島地方裁判所)。
さらに、裁判員裁判では市民感情がもろに反映されるので、検察官が「被害者は非常に若い」「処女だ」とそれとなく伝えることで、量刑はぐっと上がる。15年ほど前と比べると、性犯罪は懲役5年が10年になるなど、倍程度重くなっている。
逆に、子どもがいる既婚女性が強姦された場合、同じ20歳でも量刑は下がるだろう。また、80歳の女性が「近所のおじいさんに襲われた」と言っても、警察が動くとは思えない。起訴されない可能性のほうが高い。というのも、日本には「強要罪」があり、「したくないことを無理やりさせられた」場合は犯罪になる。にもかかわらず強姦罪があるということは、「女性としての商品価値に傷をつけられた」という部分がもっとも重要視されていると考えられる。そのため、処女か非処女か、未婚か既婚かという被害者の属性がポイントになるのだ。
男性が女性に犯された場合は、強姦罪は成立せず、強制わいせつや強要罪で処理されるのが基本。ただ、セクハラ同様、警察がまともに取り合わないケースのほうが多いだろう。
■新法施行で今後は逮捕者続出か
別れた元恋人や元配偶者に嫌がらせをするために、過去に撮影した性的な写真や動画をインターネット上で拡散させる「リベンジポルノ」。一昨年話題になり、その年末には最高で懲役3年の実刑が下される「リベンジポルノ被害防止法」も成立している。これにより、「拡散」とは呼べないLINEに投稿した程度の行為でも、事実上の起訴が可能になったと言える。
実際に、元恋人の顔や裸の写真を実名入りでネットの掲示板に投稿したとして、名誉毀損により10カ月の実刑判決が出たケースがある(14年、名古屋地方裁判所)。別れ話が持ち上がった交際女性に「(性的な)写真をばらまくぞ」と脅した件で、「リベンジポルノ」としては未遂だが逮捕者も出ている。
リベンジポルノという犯罪に関しても、被害者に該当するのは女性だけだと思っていい。もし、女性が元彼の局部写真を嫌がらせにネットにばらまいたとして、世間は深刻な問題だと受け取るだろうか。私が思うに、週刊誌で面白がられるのが関の山だろう。「名誉毀損」として本人が告訴状を出しても、受理されない可能性が高い。司法の世界では、女の裸のほうが圧倒的に価値が高いのだ。仮に、女性の裸の写真をばらまいた際の慰謝料が100万円だとしたら、男性の裸の写真に対しては10万円程度。ゼロがひとつ違うレベルで、男の裸は安い。
【リベンジポルノ法では、男の裸の価値はタダ同然か】
■10万円――裸の価値の男女格差は歴然
同じようなリベンジポルノ被害でも、男は10分の1以下しかもらえない。女性が100万円なら男性は10万円。
■量刑加重――強姦した際にさらに女性をおとしめたら
強姦の際にオーラルセックスやアナルセックスを強要すると、女性をおとしめたとして、さらに罪が重くなる。
■露出プレイ――ノリノリかどうかが問われる
女だけが裸になっていても、男女が共同で計画していれば男性も同罪。むりにやらせていると、強要罪の適用も。
■1.8倍――夫婦間の被害件数
身体的暴行、心理的暴行、性的強要のいずれか1つでも、配偶者から受けたことのある女性は男性の1.8倍。
■リコーダー――なめただけでも器物損壊
本来の効用や価値を失わせたら器物損壊になる。男子が女子のリコーダーをなめたら、洗えばすむ問題ではない。
■懲役3年――リベンジポルノ法案
リベンジポルノ法案により「公表罪」が新設され、不特定多数への流布では3年以下の懲役または50万以下の罰金に処せられる。
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弁護士 野澤 隆
1975年、東京都大田区生まれ。都立日比谷高校、早稲田大学政治経済学部政治学科卒。弁護士秘書などを経て2008年、城南中央法律事務所を開設。
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(弁護士 野澤 隆)