映画「her/世界でひとつの彼女」や「エクス・マキナ」では、人間が人工知能(AI)に恋をする物語が描かれました。映画の中だけにとどまらず、現実的にAIを搭載したセックス用ロボットの実現が迫りつつあるとして、コラムニストのRose Eveleth氏がBBC Futureに寄稿しています。
Episode 02: Love At First Bot | Flash Forward
http://www.flashforwardpod.com/2016/02/09/episode-02-love-at-first-bot/
BBC - Future - The truth about sex robots
http://www.bbc.com/future/story/20160209-the-truth-about-sex-robots
人工知能技術は年を追うごとに進歩していて、Rose Eveleth氏によれば「研究者の中にはセックス用ロボットが現実的になりつつあると主張する人も多い」とのこと。例えばコンピューターチェスとAIに関する専門家のDavid Levy氏は、自著「Love and Sex with Robots」の中で、「2050年には人間とロボットの結婚が一般化するだろう」と記しています。
既にスマートフォンアプリと接続してリアルな性行為に近い感覚を得られるセックストイや、自由にプログラム可能でリモートコントロールできるバイブレーターなどは登場しています。ニューヨーク大学で人間関係や性行為を研究しているShelly Ronen氏は、「市場に流通しているアダルト製品を使えば、非常にリアルな疑似的性体験が可能です。人間のパートナーとの性行為に比べて、コントロールが簡単です」と語ります。しかし、セックス用のロボットを設計・製造するのは一般人が想像しているよりもはるかに難しいだろう、とEveleth氏は予測しています。
Eveleth氏によれば、セックス用ロボットの定義は、「単なる器具ではなく、性行為に適した設計のヒト型ロボットで、なおかつ単にセンサーが反応するだけではなく『考える』ことが可能な人工知能を搭載している」というもの。Eveleth氏が最もセックスロボットに近いと評価しているのが、カリフォルニアの企業Abyss Creationsが販売しているセックスドール「Real Doll」です。見た目は非常に人間に似ていて、肌の色やホクロなどの外見の特徴をカスタマイズすることも可能とのこと。Real Doll専門の医者もいるほど、少しずつファンを築いています。ただし、価格は1体5000ドル(約57万円)~1万ドル(約114万円)と、かなり高額。
RealDoll - The World's Finest Love Doll
https://secure.realdoll.com/
Eveleth氏は「Real Dollはセックスロボットではなく、ただの人形にすぎません」と評価しています。Eveleth氏の考える「本物のセックスロボット」は、ユーザーの視線に応じて目を動かしたり、表情に反応したり、ユーザーが好む行動を自ら取るものとのこと。また、ユーザーが最も好ましく感じる体勢や力の強さを学習して、性行為の合間にいくつかの質問を繰り返し、人間のセックスパートナーと同じように感情的な行為も行う能力を備えており、「人形でも器具でもなく、はるかに複雑で将来性のあるものです」とEveleth氏は語っています。
セックスロボット実現に向けて何が必要なのかについて、Eveleth氏は以下の技術を挙げています。
◆自立型のロボット
現在販売されているセックスドールやヒト型ロボットは重量が非常に重く、例えばReal Dollは1体47kgほどあり、自重のせいで自立することができません。セックスロボットは自立するだけでなく、動き回ったり、腕を自在に動かしたりする必要があります。Eveleth氏は「ロボット技術界は現在、人間のなめらかな動きをマネするロボットの開発に注力しています」と語り、将来的な技術進歩に期待しているとのこと。
◆肌の質感
「シリコン製品を使ったことがあるならば、人間の肌とは異なる触感だということを知っているでしょう。また、シリコンを清潔に保つには多大な労力が必要です」とEveleth氏。シリコンを含む人工素材を使って、人間の肌のキメや触感、柔軟性、伸張性、色合いを再現することは非常に困難とのこと。2015年10月にはスタンフォード大学の研究グループが「圧力を感知可能な人工肌を開発した」と発表していますが、人間の肌のような温度感知機能はまだ搭載されておらず、伸縮性や触感も実際の人間の肌とは大きく異なるとのこと。
by Gabriel S. Delgado C.
◆人工知能
人工知能は近年になって開発速度が著しくアップしています。しかしながら、セックスや人間関係に深く関わる感情表現については、いまだに人工知能が自ら考えることはできていません。Eveleth氏は「人工知能がセックスについて考えるプロセスは、チェスで人間に勝つようなものではなく、むしろダンスに似ています。お互いがお互いの動きを予測して素早く反応しなくてはいけません。人工知能と自然言語理解は、人間と同じように働くにはまだまだ長い時間がかかると考えます」とコメントしています。
◆不気味の谷
「不気味の谷」とは、ロボット工学上の概念で、ロボットを人間に近づけていくと、ある時点で人間が嫌悪感を抱いてしまうという現象のこと。自然界の生物を模した最先端のアニマトロニクスロボットですら、不気味の谷を乗り越えることができていません。SF作家のMadeline Ashby氏は、「初期のセックスロボットを完ぺきに人間っぽい見た目に近づけるのは難しいだろう」と予測していて、「初期のセックスロボットは、顔や体の見た目をアニメやゲームのキャラクターっぽく作り上げて、不気味の谷現象を乗り越えていくのではないかと思います」と語っています。
上記のようなセックスロボット実現に向けた技術開発を行っているグループは個々に存在していますが、すべての技術を結集するには巨大なチームを編成しなければならず、エンジニア、ロボット工学者、セックストイデザイナー、計算機科学者などさまざまな分野の専門家が必要です。
さらに、資金調達や、法律、文化的な問題など、セックスロボット開発と並行して解決しなければいけない問題も山積みです。特に文化的問題についての議論は複雑を極めていて、「セックスロボットが性風俗産業に従事する人々の仕事を奪ってしまう」という主張と、「セックスロボットの登場によって性風俗の仕事をロボットに任せられる安心感がある」という主張が真っ向から対立しています。お金の問題としては、アダルト製品開発に際して銀行が資金を融資してくれなかったり、クレジットカード会社がカードの処理を拒否したり、支払い処理サービスが手数料を割り増ししたりといったハードルが生じているとのこと。
しかし、Eveleth氏は、「セックスロボットはまもなく、どこからともなく現実のものとなるでしょう」と主張しています。また、ニューヨーク大学のRonen氏は「技術進歩の結果は、突然我々の目の前に現れるものです。現実的に、技術者はますます増加していますが、技術開発のスピードはゆるやかになっていると考えています。しかし、セックスロボットが現実のものになるころには、パートナーとのセックスをコンピューター越しに行うなど、セックスロボットが性行為のパートナーになることにさほど違和感がなくなるでしょう」と語っています。