八代目桂文楽の噺、「夢の酒」(ゆめのさけ)によると。
季節にもイイ季節と悪い季節とがあります。
雨が降り続いて出掛ける事も出来ず、奥でうたた寝をしている若旦那がいた。
風邪を引くといけないので、”お花”女房が起こすとなんだかご機嫌が悪いので、尋ねると夢を見ていたという。
夢の中の話だからと、聞かせる事になった。
向島へ用事で出掛けると雨に降られて雨宿りをしていた。
その家の女中さんに声を掛けられ、
「あら、大黒屋の若旦那さんじゃないですか」と言う事で、
部屋に揚げてもらった。
出てきた婦人はい~~イ女で 二十五~六、色白で中肉中背で目元に愛嬌がある美人であった。
何時も噂はしていますがと、お膳が出てきてお酒もついていた。
親父は酒好きですが私はダメですと断ったが勧め上手で2.3本やってしまった。
粋な三味線で唄などを聞いていたが気分が悪くなって離れの四畳半に布団を引いてもらって横になってしまった。
(相づちを打つ奥様の声が段々とキツクなってきた)。
いろいろ介抱してくれたので気分が良くなったが、反対にご婦人が気分が悪くなったと言って、燃えるような長襦袢で布団に潜り込んできた。
そこで、お前が起こしたんだ。
「えぇ~~ん、悔しぃ~い」とお花さんは大声で泣き出してしまった。
大旦那が店から顔を出して話の顛末を聞いて息子を怒った。
その息子は笑っている。
「おとつぁん真に受けないで下さい、これは夢の話です」。
普段からそのような事を思っているから、その様な夢を見るのだと収まらない。
その上、向島まで行ってそのご婦人にあって叱って下さいと大旦那に懇願した。
大旦那も困ったが「淡島様に願掛ければ、叶う」と言う。
たっての頼みであったので、布団にごろりと横になった。
「奥さ~ん。大旦那様がいらっしゃいましたよ」、
「先ほどは若旦那様が、なにか急用だとお帰りになったところです」。
掃除の行き届いた、生花や庭の手入れが行き届いた住まいであった。
「倅がお世話になった上に、私にまで申し訳有りません」、
「すいません、お酒を用意したのですが、火を落としてしまったので”冷や”で如何ですか」、
「冷やはいけません。昔それでしくじった事がありますので」。
なかなか火がおこらないので、燗が出来ない。
「大旦那様、好きなお酒でしょうから、冷やで如何ですか」、
「燗が出来るまで、少し待たせてもらいます」。
「それでは燗が出来るまで、冷やで」、
「イエイエそれはいけません」。
「おとっつぁん、如何でしたか。」と、お花に起こされた。
「向島のお宅は解りましたか」、
「あ~ぁ、解ったよ、しかし惜しい事をした」、
「お叱るする前に起こしてしまったのですか」、
「いぃ~や、冷やでも良かった」。
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