稲敷資料館日々抄

稲敷市立歴史民俗資料館の活動を広く周知し、文化財保護や資料館活動への理解を深めてもらうことを目的にしています。

特別展「常刕江戸崎不動院」の見どころ!(12)

2022年03月09日 | 日記
不動院と天海と東照三所大権現(3)

天海と随風、蝙蝠沙門と無心~天海の別名~

日光山輪王寺には、天海蔵という、生前、天海が集めた
経典や書物を収蔵した書庫があります。

そこには、様々な貴重な資料が遺されているのですが、
その中に『王澤抄私』(二冊、№42)
『枕月 三身義 新成顕本』(№41)という書物があります。

『王澤抄私』の表紙には、「蝙蝠沙門 随風之」や
「蝙蝠沙門 無心(花押)」などと記され、奥書には、
「随風(花押)」などの署名が見えます。

ここからは、随風が、蝙蝠沙門や無心などとも名乗っていた
ことが分かります。風に随(したが)うや、鳥でも
獣でもなく、闇を飛び交う蝙蝠のような僧侶、無心など、
もし自ら名乗ったのであれば、そこから当時の天海の
心の内がうかがえるかもしれませんね。

『枕月 三身義 新成顕本』の奥書には、
「常州江戸崎不動院当住随風(花押)」と署名があり、
これが随風を名乗った不動院住職時代のものであることが
わかります。

更にこの本には、「自定珍借用」とあることから、
稲敷市小野にある逢善寺十五世学頭の定珍より借用した
ものであることが分かります。

この定珍は、比叡山に学んだ極めて優秀な学僧であり、
天海とは、共に同じ師匠の実全に学んだ兄弟弟子の関係
にあったと考えられています。

このような書籍の奥書から、江戸崎不動院時代の天海
(随風)は、書籍を借用するなどして集め、熱心に写本
し、学問に励む日々を過ごしていたこと、その一方で
大きな志を抱きつつも、それが叶えられないもどかしさを
感じていたのかもしれませんね。







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