実習生のK子です。
早いもので稲敷市の資料館での実習も終了してしまいました…。
これから後半で行った実習の内容を紹介させていただきます。
9月4日(火)
この日は仏像取扱実習を行いました。
まずは仏像を借用し、研修の会場まで運搬します。
今回、特別に実習のため借用させて頂くのは、遺存高が約140㎝ほどの
木造天王立像です。長さ180㎝ほどの桁に載せて運搬する計画です。
綿座布団やエアパッキンでクッションを作り、それらを桁に取り付け、
その上に仏像を仰向けに寝かせます。
足先や顔など養生が必要な部分や、ひもが当たる部分は中性紙や綿座布団などで手当します。
この天王立像は、内刳り(うちぐり)を施していない一木造りなので、とても重く、
また虫害や腐食が進んでいたため御像を傷めないよう細心の注意が求められました。
梱包が終了した仏像です。
この状態の仏像を、資料館の学芸担当の指導の下、
今回は仏像運搬が初めてという3人で運び出しました。
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その後、研修先の神宮寺にて、この日の講師を務めてくださった仏師の小松崎卓さんと合流し、
同寺の聖観音菩薩立像と、借用してきた天王立像とを見比べながら解説を頂き、拝観しました。
こちらは神宮寺の聖観音菩薩立像です。
平安時代末の作品で、茨城県の有形文化財に指定されています。
木造の寄木造で、虫害が多かったものを小松崎さんが修復し、今の状態となっています。
背中側から内側を刳り抜いてあり、背板と呼ばれる板を当てています。
横から見ると木材の丸みがあまり感じられず、平たい印象があります。
また、割首といって、一旦制作した御像を首から上下に分割し、
後で付け直しています。
こちらは私たちが運搬してきた天王立像です。
内刳りの無い一木造で制作されています。
両肩より先、そして両足首より先を欠失しており、自力で立つことができません。
表面にも虫害や腐食、摩耗、干割れが目立ちます。
特に側面から見ると一本の丸太材から彫り出したことが感じられる、
厚みのある丸い印象があります。
時代は平安時代のもの、との学芸担当者のお話でした。
1枚目が天王立像の頭上からの撮影、2枚目が足先側からです。
頭上から右の太もも付近に木の芯が通っており、一木造であることがうかがえる他、
表面には沢山の節が見られます。このことから、この材木はそれほど大きく無く、
用材としては造像にあまり適さないモノを敢えて選んでいることも分かります。
このような場合、仏像制作に用いられた材木が御神木等の特殊な材だったことなどが
考えられることもあるそうです。
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この日の午後は仏師の小松崎さんのアトリエにお邪魔し、お話を伺いました。
仏像を彫るのに使用される代表的な木材を、実際に手に取って見せていただきました。
楠、カヤ、檜、白檀、桜などです。
一つ一つ、色味や重さ、香りが違っており、とても興味深いです。
仏像に使用される木材は、これら代表的なもののほかに、
ご神木や雷に打たれた木など加工しにくくても
特別の意味を持って使われている木材というものがあるそうです。
ご神木で仏像を彫る…。
そこには神仏習合や「木」という素材にこだわってきた日本人の
感性がうかがえるようです。
このように仏像を見てみると単なる美術品としてではなく、
信仰の対象として造られていた様がよく表されていることに気付きます。
小松崎さんが仏像を彫るのに使用しているノミです。
反りや刃の向きなどがすべて違っており、彫りやすいよう使い分けたり作ったりされているそうです。
生漆を材料と混ぜているところです。
漆は、麦漆やコクソ漆、サビ漆など、混ぜ合わせる材料によって呼び名が変わり、
それぞれ接着剤やパテ、下地材の役割をします。
コクソ漆は木粉や上新粉などを混ぜて作ります。
これを虫害で空いた穴などに埋め込み仏像を修復します。
小松崎さん制作の仏像のミニチュア。隣に写っているのはカメラのレンズキャップで、直径6cmほどのものです。
手先の器用さがうかがえます。
仏像についていろいろなお話を伺うことができました。
仏像には制作者の魂がこもっており、それが各仏像の迫力に現れていると強く感じました。
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帰りには妙香寺に立ち寄り、県指定文化財の薬師如来立像を拝観しました。
高さ4.8mの寄木造の仏像です。
震災にも負けずに佇んでいる姿は圧巻です。
この日だけで様々な仏像と出会う事が出来ました。
普段1つ1つ拝観することの多い仏像ですが、製作技法などを間近で比較しながら
見てみるのも興味深いです。