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農業と食の問題を通して世界の潮流を考える(5)超加工食品を『うっかり失念して』はならない

2025-02-24 11:21:46 | 環境問題
超加工食品に焦点を当てた議論を紹介する。超加工食品絡みの話題は多い。
先ずは次の情報を紹介する。

地球規模で食べ物のシステムを議論する際、超加工食品も中心に据える必要があり、地球規模の超加工食品の隆盛が生物多様性に及ぼす影響の視点からの行動が求められる
(原題:Ultra-processed foods should be central to global food system dialogue and action on biodiversity、BMJ Global Health, 2022年3月28日)

始めに、要点を纏めると、
1. 世界の食ベ物のシステムの中に「工業的生産化」を推進するという考えが急速に進展している、その結果として超加工食品が急速に隆盛している。
そして、食ベ物のシステムの工業化の推進により、生物多様性に多大な打撃が与えられている。
土地の利用実態や食ベ物の生産実態が生物多様性に及ぼす影響については、多大な注目が集まっているのに比べて、超加工食品の果たしている生物多様性への影響については、ほとんど関心が向けられていない。
2. 数えきれないほど多くのブランドの超加工食品が工業的規模で生産され流通されていることから、超加工食品は『地球規模にブランド化した食べ物』と称揚されている。
その結果、世界各地の伝統的な食べ物の栽培や生産や消費が、反対に犠牲にされつつある。これら世界各地に伝わる伝統的な食材・食べ物の多くは、新鮮であり、最小限に加工されている食べ物なのである。
3. 超加工食品は、特徴として数としては僅か数種類の高収量型作物(トウモロコシ、小麦、大豆や油糧種子;遺伝子組み換えGM作物に相当する)を材料とし、それらから単離して作られた「添加物」を使って生産される。
超加工食品に使われる動物由来の「添加物」の多くは、同じく高収量型作物由来の穀物を使った飼料(ここでもGM技術が登場する)が給餌され、閉鎖的環境の下で養育される家畜らから作られている。
従って超加工食品の隆盛には、高収量型作物の栽培がセットされており、よって化学肥料の多使用・除草剤/殺虫剤の多使用・灌漑という水の多使用に結び付く工業型農耕法の諸問題がついて廻るのである。
更に家畜飼育の為の飼料穀物栽培の為に、土地が過剰に開墾されるという問題をも付随することになり、また、化学肥料の多使用・除草剤/殺虫剤の多使用等の状況から水系の汚染や藻類の異常繁殖等の問題が発生し、土壌の劣化をも起こす条件を助長しているのである。
農業界と食品業界を覆う『工業化』一辺倒の思想を放任していて良いものかが、問われていると思う。
4. 農業の生物多様性(agrobiodiversity)の損失に及ぼす超加工食品の影響は大きいが、今までの所、世界の食料システムについてのサミットや生物多様性の総会や気候変動の総会の場で、この問題は看過されている。
かかる世界の会合において、超加工食品が抱える課題に関する議論の優先順位を高め、そしてこの課題解決の政策を合意し、その合意に沿った行動を緊急に始めることが求められる。

(序論)
地球規模化した超加工食品が、世界の国々に拡散したことで、新鮮であり、加工程度は最少の世界各地の伝統食材・食べ物が犠牲になってきている。

スーパーの棚には、僅かな種類の高収量型作物から作ったグルコースシロップやグルテンや大豆たんぱく等の「添加物」を使用し、工業生産された超加工食品のパック商品が、華々しく宣伝され陳列され販売されている。

アメリカや英国では、市民は日々摂取するカロリーの半分以上を超加工食品から摂取している状況が既に起こっている。オーストラリアやフランスでも1/3以上になっている。そしてアジア・アフリカやラテンアメリカの低所得諸国でも急速に消費が拡大している。

現在ある程度の人が、ベジタリアン志向を強め、ビーガンに向かっている。しかし全体としては、世界は動物起源の食べ物に向かっており、これら動物起源の食べ物は、少種類の穀物飼料で育った家畜を使用し、工業的手段を用い生産されているのである。

世界の食べ物事情における超加工食品への依存度の拡大は、農業の生物多様性に影響を与えている。よって世界の食料システムに関する議論や政策の決定や各国の行動計画の中に超加工食品の抱える問題点を指摘し、その課題解決を優先させていくことが求められる。

(農業の生物多様性が厳しい脅威に曝されている)
「農業の生物多様性(agrobiodiversity)」は、動物・植物および微生物の多様性及び変異性を指す言葉であり、食べ物と農業とに直接的・間接的に関係するものであり、そして私たちの食ベ物のシステムの持続可能性や強靭性に大きく関係しているのである。

「農業の生物多様性」には、収穫を目的としない種類の植物の多様性も含まれ、収穫を意図しない植物の多様性も、私たちが行う作物の耕作のうえで有用であり、農業生態系の維持・多様性の維持の点で役立つのである。
しかし、世界における農業の生物多様性は低下しており、殊に植物遺伝子の多様性が低下しているのである。

農耕が始まって以降、7000種以上の食用の植物が確認され利用されてきた。しかし2014年時点で、意味がある栽培が行われているのは200種にも満たず、しかも重量ベースでみると、全作物生産の66%以上が僅か9種類の作物で供給されている時代になっている。

人々の接食するエネルギーの90%が僅か15種類の作物からのものであり、40億人以上の人が、その15種の中の3つの作物(米・小麦・トウモロコシ)のみに依存している。
私たちの食料システムの多様性に起こっている変化が、私たちの食べ物の多様性の低下とともに、健康であり、強靭性と持続可能性も期待される昔から伝わる私たちの食ベ物のシステムを妨害し、更に、生物圏や生態環境の劣化をも引き起こしているのである。

(超加工食品の世界拡大が、農業の生物多様性に打撃を与えている)
多くが汎用品食品や化粧品にも使われる添加物(普通の家庭で通常手に入らない添加物を使って工業的に製造した食べ物が超加工食品ともされる)を用いて一連の工業的工程を経て作られる「加熱済み調合食品」や「簡単にすぐに食べられる食品」が超加工食品である。

これらには多くの種類があり、例として甘みを付けたスナック菓子や塩味のあるスナック菓子、ソフトドリンク、即席めん類、再構成され作られた畜肉食品、調理済みピザやパスタ類、包装入りパン、ビスケットや菓子類等がある。
これらの食べ物が「地球規模化した超加工食品」の主力製品であり、中流の上にある諸国から中流の下に位置する諸国にわたり、ほぼ全ての国で急速に普及している。
従って、地球規模で食事のパターンが、加工食品への依存を高め、そして食べ物の多様性は逆に減少の速度を早めているのである。

この変遷は、食料システムの工業化・食品製造技術の変化・市場の拡大を含むグローバル化・多国籍企業の政治力と生産のネットワーク化や資材調達のグローバル化等が推進されることで起こっている。

小売業部門の展開もまた、超加工食品の市場拡大と多様化に貢献しており、特にこのことは低収入諸国や中収入諸国で起こっている。

超加工食品が急拡大し、反対に新鮮で加工度の低い伝統食材が衰退していく方向性は、食べ物として利用できる食用の植物の種類の多様性が低下していくことを意味する。

超加工食品は、ごく少数の高収量型作物から作られる添加物を使って工業的に製造される。
ブラジルの主要スーパーで販売されている7020種の超加工食品に使用されている5種類の主要添加物を調査したところ、次の結果が得られている。サトウキビ由来が52.4%、牛乳由来が29.2%、小麦由来が27.7%、トウモロコシ由来が10.7%、そして大豆由来が8.3%

2019年度のオーストラリアにおける包装された食品と飲料(24229種の製品、大半が超加工食品)の調査によると、上位の添加物として、砂糖(40.7%)小麦粉(15.6%)植物油(12.8%)そして牛乳(11.0%)となっている。

従って、バランスのとれた健康的な食事に必要な多様な食べ物を、超加工食品で置き換えるということは、食べ物の多様性を損なってしまうことに繋がるのである。

農業耕作地に見られる景観の均一性・単調さという現象も、安上がりで標準化された添加物利用を推進する現在の動向を鏡映しにしている。豆類(pulses:大豆やひよこ豆等、搾油向け、飼料向けの豆類を除いた食用の豆を指す)や果物・野菜やその他の作物といった農業の生物多様性に寄与している多種類の栽培を特徴とした従来の農業生産システムが、脇に追いやられている結果が、農業耕作地に見られる景観の単調さなのである。

超加工食品の生産には、それに用いる作物穀物生産の為の大規模な耕作地の拡大が必要であり、耕作には大量の水資源やエネルギー資源・除草剤や化学肥料の大量使用が必要であり、結果として水系の富栄養化や温室効果ガスの排出量拡大や使用包装材のプラスック汚染問題も発生する。更に植物種の多様性の低下もあることから生態系の劣化や生物多様性への影響が発生することになる。

また、ホットドッグやチキンナゲッツのような再構成型畜肉製品は別種の農業の生物多様性の損失を生む。
すなわち、動物由来の添加物の生産は、家畜を狭い場所に閉じ込め、超加工食品に使用されるのと同じ種類の高収量穀物からなる飼料を与え、飼育した家畜を使って行われている。

ブラジルの研究によると、牛肉の生産には、ブラキアリア(もっとも一般的な飼料植物)、トウモロコシ、大豆、綿、ソルガム、小麦といったわずか6種類の植物からの牧草地と肥育場の飼料が使用されている。
アメリカの肥育場では、5種類の作物(トウモロコシ・ソルガム・オオムギ・エン麦・小麦)が使われている。

大規模な放牧場の土地面積が求められ、飼料向けの工業型単一穀物栽培の需要も高いことから、動物由来の食べ物の生産は、他の作物類の栽培・生産に大きな影響を与える。
例えば、ブラジルでは、2008年と2019年とを比較した場合、米や豆類といった主食になる作物向けの耕作面積は、それぞれ約43%(米)、30%(豆類)減少している。

一方で、主に家畜の飼料になる、併せて超加工食品向け材料にもなる大豆の耕作面積は、同じく2008年から2019年の間に69.9%の増大が起こっている。

ブラジルの家計調査(2017~2018年)のデータを使用して、様々な食ベ物の調達パターンが、植物種の多様性にどのような影響を与えるかを調査した結果、家庭が購入する買い物かごに超加工食品が多く含まれると、農業の生物多様性が著しく低下することが判明した(植物種の多様性を反映するシャノンエントロピーが13.8%減少;未公表データ)。

(世界的な課題に再度焦点を当てる必要がある)
食品に関わる議論やその行動において、世界に拡大する工業型食品のシステムによって破壊されつつある農業の生物多様性に関する議論に注目を当てることが必要とされる。

気候変動の政府間パネル特別排出シナリオ報告書に基づく研究によると、生態学的価値が市民や政策立案者らに重視され、適切に運用されようとも、動物性食品を含む食品の生産と消費は増加し続けることが予測されている。

現在の超加工食品に向かって拡大を続ける工業型食品のシステムというものは、拡大するにつれて利用耕作地の拡大をも推進することになり、その圧力により新鮮であり、健康的であり、そして持続可能性が期待できる従来の作物向けの耕作地は減少させられていくのである。

生物多様性喪失が前例を見ないスピードで進んでいることから、植物由来の新鮮な、加工度の低い食品を豊富に含む食生活のパターンへの再帰も迅速に行われることが望まれる。

超加工食品の人の健康に及ぼす影響に関する研究報告はかなり行われている。

しかしながら、超加工食品が及ぶす人の健康への打撃、地球環境への打撃についての人々の認知度は、依然として低いままである。
故に国際社会はこれから進むべき進路の議論の中に、超加工食品の話題を結果として欠落させてしまっており、その状況が続いている。

国連の生物多様性総会2021向けの草案には、超加工食品のことは一つも言及されておらず、生物多様性に及ぼす世界で進行中の工業型食品のシステムの問題についても言及はない。

代わりに、野生種の保存と消費の増加に焦点が当てられており、生物多様性全体に損害を与える食品の生産と消費を減らすことには焦点が当てられていない。

同様に、国連食料システムサミット行動計画2(持続可能な消費への移行)と、それに続く解決策と協調化(例として、子供と全ての人々の為の持続可能な食料システムによる健康的な食事)において、動物由来の食べ物や油脂含量の高い食べ物・塩分の高い食べ物・糖分の高い食べ物を『懸念すべき食べ物と特定』はしているものの、『食品の加工方法に関わる問題点』にはほとんど触れておらず、ましてや『超加工食品の問題や超加工食品の環境への悪影響』については、全く触れていないのである。

農業の生物多様性に及ぼす超加工食品の悪影響、および持続可能な生態系環境に及ぼす超加工食品の悪影響に関する研究はこれからも継続していくべき分野であり、政策の決定に活かしていく必要がある。

『うっかり、議論し忘れた』と葬り去ってはならない大切な議論すべき対象なのである。

「護憲+BBS」「新聞記事などの紹介」より
yo-chan

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