働き方改革関連法ノート

労働政策審議会(厚生労働大臣諮問機関)や厚生労働省労働基準局などが開催する検討会の資料・議事録に関する雑記帳

裁量労働制対象業務拡大を経団連など使用者側委員が要求(2)

2022年12月07日 | 裁量労働制
厚生労働大臣諮問機関・労働政策審議会の労働条件分科会で経団連などの使用者側委員が裁量労働制対象業務拡大を強く要求しているが、連合などの労働者側委員が激しく反論している。この裁量労働制に関する議論は2022年7月27日に開催された第176回 労働条件分科会から始まり、現在(2022年12月7日)、昨日(12月6日)開催された第184回 労働条件分科会でも議論が継続している(裁量労働制が議論された労働条件分科会は第176回、第177回、第179回、第181回、第182回、第183回、第184回)。重要と思われるので連続して記事を投稿したいが、今回の記事は第177回 労働条件分科会での議論になる。

第177回 労働条件分科会 裁量労働制に関する委員意見
2022年8月30日に開催された第176回 労働政策審議会 労働条件分科会において(厚生労働省サイトに公開された議事録によると)鈴木重也委員(一般社団法人日本本経済団体連合会労働法制本部長)は「裁量労働制につきまして、制度趣旨に合致するような業務を追加していただき、もって働き手の能力発揮を促す、ということの必要性を改めて強調したいと思います」と発言。

また、鬼村洋平委員(トヨタ自動車株式会社人事部労政室長)は「裁量労働制の適切な運用をより拡大していくために、必要な健康・福祉確保措置等は図りつつも、同時並行で対象業務についても拡大していくような建設的な議論がなされることを強く期待しております」と意見を述べた。

これら経団連労働法制本部長ら使用者側委員の発言に対し、公益(有識者)委員の安藤至大委員(日本大学経済学部教授)は「裁量労働制というのは、まずは適用労働者にとって満足度が一定程度高い制度であるという認識に立って、対象業務の在り方を含めて議論することが重要であると考えています。他方で、以前、対象業務拡大について法案要綱が示されているわけですが、もう5年程度が経過しております。この間、働き方改革関連法の施行により、時間外・休日労働の上限規制等が施行されたほか、コロナ禍によって働き方の変化等も大きく生じています。よって、平成29年(2017年)当時の内容が現時点でも適当であるかということは、非常にしっかりと精査することが必要だと思っています。今回の検討会(これからの労働時間制度に関する検討会)の報告書にもあるとおり、きちんと検討、精査すれば、現行制度下でも可能なものもあるのではないかという観点から、使用者側委員から、現行のものではできない、一致していないという話もありましたが、要望の内容をさらに精査の上、裁量労働制の対象業務の拡大が必要なのはどういう場合なのか、現時点でどのようなニーズがあるのかということをより丁寧にみていく必要があるのではないかと感じました」と発言。

なお、安藤委員のプロフィールは(日本大学サイトによると)「2018年より日本大学経済学部教授。専門は、契約理論、労働経済学、法と経済学。社会的活動として、厚生労働省の労働政策審議会労働条件分科会で公益代表委員、また経済産業省の電力・ガス取引監視等委員会で専門委員などを務める。これまで参議院の厚生労働委員会調査室で客員調査員なども務めた」。

これら使用者側や公益(有識者)委員の発言に対して、労働者側の東矢孝朗委員(全日本自動車産業労働組合総連合会副事務局長)は「裁量労働制につきましては、真に裁量が認められる労働者に限ってその対象としなければ、結果として長時間労働、過重労働を生み出すことになってしまうと考えています。今申し上げた課題や労働時間規制の使命は労働者の健康確保であること、また、自立的な働き方は、フレックスタイム制などを活用すれば十分可能ではないかといったことを踏まえますと、裁量労働制によってみなしの労働時間となって、結果、長時間労働となるおそれが高まる労働者の範囲をあえて拡大していく必要があるのかについては、労働者としては大いに疑問であるということを改めて申し上げておきたいと思います」と反論した。

また、同じく労働者側の八野正一委員(UAゼンセン会長付)は「様々な現行の労働時間法制を活用しながら、各企業における人材育成、採用、または人事制度というものの中で動いていくことのほうが重要であり、そのような取り組みを進めることが第一義ではないかと考えております。そのような内容は、検討会(これからの労働時間制度に関する検討会)の報告の中にも、労使で取り組む労働時間制度だけでなく、経営の方針、目標の管理等を含む組織マネジメントの在り方を考慮することが、労使双方にとってメリットのある働き方の実現に資すると考えられるということが明記されています。そのようなことも踏まえて、今回、ここでは労働時間法制について、健康確保を前提としてどう考えるのかということが重要であると思いますので、付け加えて意見とさせていただきます」と述べた。

そして、連合の冨髙裕子委員(日本労働組合総連合会総合政策推進局総合政策推進局長)は「労働側としては、労働時間法制については労働者の健康確保という原初的な使命を念頭に置いていただきたいということでございます。先ほど使(使用者)側委員の皆様から様々に御意見が出てまいりましたけれども、裁量労働制を拡大しなければ実際に創造的な仕事ができないのかといったら、そうではなくて、既存の制度の中で、きちんと適切な労働時間の中で効率的な働き方は十分可能であると考えております。それはマネジメントの問題もあるのではないかと我々としては思っているところでございますので、その点についてきちんと考えていただきたいと思いますし、多様な働き方という名の下に都合よく解釈され、労働時間法制が緩和されることはあってはならないと考えております。裁量労働制につきましても、対象業務の拡大等は行うべきではないということを改めて申し上げておきたいと思います」と発言して、使用者側委員の裁量労働制対象業務拡大要求に厳しく反対した。

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