新「廊下のむし探検」

大阪北部のマンションの廊下で見つけた虫の名前を調べています

虫を調べる セダカバエ科ヒロバセダカバエ属

2019-04-30 20:29:37 | 虫を調べる
4月4日にマンションの廊下でハエを見つけ、顕微鏡写真も撮ったのですが、そのままになっていました。



調べたのはこのハエです。一目見てオドリバエの仲間だなと思ったのですが、何となくいつもと違うような感じがしたので、採集しました。オドリバエについては、「双翅目(ハエ目)昆虫の検索システムに関する研究」という三枝豊平氏の科研費の報告書(この題目で検索するとpdfがダウンロードできます)に詳しい説明と検索表が載っています。それを使って調べてみました。



検索の結果、Syneches属になりました。実は初め、④のところで、「口吻は下方を向き、常に短い」という方を選び、Ocydromia属になったのですが、いつもお世話になっている「一寸のハエにも五分の大和魂・改」という掲示板を見て、口吻の向きを間違っていたことが分かりました(詳細はこちら)。いつも口吻の向きのところで間違ってしまいます。



次に種の検索表は「新訂原色昆虫大図鑑III」に載っていました。この検索表ではgrandis, shirozui, rufitibiaの3種を扱っているのですが、「日本昆虫目録第8巻」で調べると、本州産はgrandis, maculatus (≈mascarius), rufitibiaとなっていました。maculatusはヨーロッパからアジアにかけて分布するmascariusと同一だろうということでしたが、これが検索表には載っていませんでした。でも、先ほどの掲示板に写真が載っていたので比べると、明らかに異なるので、たぶん、この検索表で大丈夫だろうと思って試してみました。その結果、スネアカオオヒロバセダカバエ rufitibiaになりました。これら属と種の検索過程を写真で確かめていきたいと思います。



まずは全体像です。体長は8.7mmありました。①の項目は明らかでしょう。





②以降は翅脈に関するものなので、翅全体と基部辺りを拡大した写真を載せておきます。翅脈の名称は「大図鑑」風に書いています。これらの項目のいずれも写真を見るとすぐに分かります。この仲間の特徴は中室から出る脈が2本だけだというところです。



次は頭部を横から見たところです。この写真を見ると、口吻が前方に向いているか、下方に向いているかがよく分からなくなります。写真の左側に単眼がわずかに見えますが、その辺りが頭頂になります。つまりこれを上だとすると、口吻は下方に向いているのように見えるのですが・・・。でも、とにかく、口吻は長い方だとすれば④はOKだということになるのでしょう。



次は後脚腿節と脛節を写したものです。ついでに、前・中脚の腿節も写っています。⑧の後腿節の太さは測ってみました。ほぼ1/7になりました。他は各部の色についてですが、ほぼ書いてある通りです。

ということで、すべての項目を確かめることができたので、スネアカオオヒロバセダカバエ Syneches rufitibiaということになりました。Syneches属は最初オドリバエ科に入れられていたのですが、現在はセダカバエ科に入っています。とりあえず種までは到達したのですが、次の論文によると、日本産セダカバエ科の解明度はわずか20%だということなので、種レベルでは怪しいかもしれません。

中村剛之、「『日本昆虫目録 第8巻 双翅目』の出版と日本産双翅目相の解明度について」、昆蟲(ニューシリーズ) 19, 22 (2016).



スネアカオオヒロバセダカバエについては「大図鑑」に再記載されているので、その特徴と比較してみることにしました。上のリストがその特徴なのですが、写真と比較してみるとほぼ書いてある通りでした。ただ、若干違うところも見られました。

Ⓔ中室は長く、M1+2脈の約1.5倍、
Ⓖ後腿節腹面に腿節幅の1/4~1/3長の黒色棘を密生する

この2点については少し違いました。前者については実測すると1.2倍にしかなりません。また、後者については棘らしきものが見当たりません。「大図鑑」の記述が♂なのか♀なのかが分からなかったのですが、ひょっとしたら♂♀の違いなのかもしれません。また、別種なのかもしれません。とりあえず、第1候補がスネアカオオヒロバセダカバエ Syneches rufitibiaだということにしておきます。

検索に用いなかった写真がたくさんあるので、一応、出しておきます。



これは背面からの写真。



さらに、胸部背面の写真。



これは触角。





これは口吻の基部と先端。



胸部側面。





それに腹部末端の側面と背面からの写真です。ここでだいぶ悩んでしまいました。というのは、こんな形状の腹部末端を持つのはいかにも♀なのですが、頭部を見ると、両側の複眼が中央で接しています(合眼的)。通常、オドリバエでは♂は合眼的、♀は離眼的が多いので悩んでしまったのです。でも、次の論文はSyneches flavitibia♀の記載論文になっていたので読んでみると、♀でも合眼的だと書かれていたので、やはりよいのではと思いました。

G. Wang, N. Wang, and D. Yang, "Species of the genus Syneches Macquart from Tibet, China (Diptera: Empididae)", Trans. Am. Entomol. Soc. 140, 145 (2014). (ここからpdfが直接ダウンロードできます)

廊下のむし探検 蛾と甲虫

2019-04-30 08:07:43 | 廊下のむし探検
廊下のむし探検 第19弾


連休でマンションの管理組合の仕事もちょっと少なくなり、虫の名前調べがだいぶはかどりました。4月25日にマンションの廊下を歩いて見つけた虫たちです。最近は虫の数も多く、写真整理も大変なので、1週間に1回程度歩くことにしています。まずは蛾からです。



最初はリンゴドクガ。これまでの記録を見ると、4月初旬~9月初旬にかけて見ていました。



これはマエテンアツバ。この蛾は案外見た回数が少なくて、この6年半ほどで3回。7、8、10月に見ていました。





次はゴマフリドクガ。これはしょっちゅう見ています。数えてみると、この6年半で48回。



カバナミシャクですが、模様がはっきりしません。それで、最初からギブアップ。





次はマエキトビエダシャク。これもよく見ます。こちらは16回。よく似たオオマエキの方は2回でした。



これはシャチホコガ。これは19回。



それにヤマガタアツバ。これは11回。



蛾の最後はホシミスジエダシャクです。これは今回で6回目で、4-5月と8-9月に見ていました。どうやってこれまでの数を数えているかというと、ブログに出した写真はまとめてPCのフォルダーに入れています。写真を保存するとき、ファイル名を和名のローマ字表記(または学名)+日付+その日の通し番号としているので、FileSeekerみたいなファイル検索ソフトで検索すると簡単に探し出すことができます。例えば、この蛾だと、"hoshimisujiedashaku20190425-1.jpg"という風に保存しています。ブログを始めたときからこんな風にしているのですが、種名で検索したり、日付で検索したりするときに結構便利です。また、例えば、「edashaku」で検索するとエダシャクがすべてひっかかるし、「edashaku 2019」なんて検索すると2019年に記録したエダシャクを探し出すことができるので重宝しています。



次は甲虫です。これはこの間からウスチャコガネかなと思っている甲虫です。



次はハナムグリの仲間です。



この仲間はひっくり返すと中胸腹板突起が見えるので、種がだいたい分かります。この個体の場合は腹部が黒いので、たぶん、コアオハナムグリでしょう。コメツキの時は苦労します。ひっくり返すとすぐに元に戻るので・・・。





マツノシラホシゾウムシの仲間ですが、ニセマツノシラホシゾウムシとの区別が分からず、今は完全にギブアップしています。



これはたぶん、ユリクビナガハムシでしょうね。以前、公園のシンテッポウユリにいっぱいついていた幼虫をこのハムシの幼虫かなと思っていたのですが、やっと成虫がまともに撮れました。



最後はイタドリハムシでした。そのほかの虫は次回に回します。

家の近くのむし探検 モチツツジについた虫ほか

2019-04-29 11:33:11 | 家の近くのむし探検
家の近くのむし探検 第5弾


4月18日にマンションの廊下で虫探しをした後、近くの公園に行ってみました。サクラはほぼ終わり、植栽のツツジはまだまだ。山のミツバツツジが咲いているだけでちょっと殺風景な感じでした。



ツツジの芽を見てみると、ルリチュウレンジがじっとしています。どうやらモチツツジのねばねば成分にくっついたようです。





近くを見ると、クロバネキノコバエもたくさんくっついていました。この成分は以前にも調べた記憶があったのですが、ブログを探しても見つからないので、ちょっと書いておきます。

中村司朗ほか、「モチツツジの粘液に含まれる新トリテルペノイドアルコールの単離」、日本化学雑誌 86, 1308 (1965). (ここからダウンロードできます)

論文はいくつか見つかったのですが、この論文を読むと概要が分かります。このねばねばの中には、鳥もちの中にも含まれるモチオール、モチ酸のほかにもネオモチール、ゲルマニジオール、モチジオール、アジアネンジオールが含まれていると書かれていました。モチ酸を除けば、皆、「オール」という語尾がついているので、アルコールということですね。ついでに鳥もちの成分も探してみると、研究の歴史はもっと古くて19世紀まで遡るようです。Wikipediaによると、鳥もちはモチノキ、ガマズミなどの樹皮のほか、ナンキンハゼ、ヤドリギなどの果実、ゴムノキの乳液、ツチトリモチの根などから抽出されるようです。そういえば、昔、鳥もちがハマグリの貝殻に入って、駄菓子屋で売られていましたね。



小さな虫が飛び回っているので何だろうと思って写してみたら、こんなユスリカでした。





これはネコハエトリ。この公園ではネコハエトリの姿をよく見かけます。







イダテンチャタテでもいないかなと思って、桜の木の幹を探していたら、ぴくっと動くものがいました。写してみたら、イダテンチャタテではなかったのですが、こんなチャタテがいました。翅に黒い点がいっぱいついているので、チャタテ科のTrichadenotecnum属の仲間です。これについては次の論文に詳しく出ています。

K. Yoshizawa, "Systematic revision of Japanese Trichadenotecnum Enderlein (Psocodea: 'Psocoptera': Psocidae: Ptyctini), with redefinition and subdivision of the genus", Invertebrate Taxonomy 15, 159 (2001). (ここからダウンロードできます)

以前も同じ公園で似たようなチャタテムシを見つけ、調べたことがありました。この論文ではこの複雑な斑紋を8つの部分に分けて、その特徴が書かれていました。前回もそれを見ながら調べていったので、今回もやってみました。



これが模様を部分に分けたものです。ついでに、翅脈の名称も次の論文を見ながらつけてみました。

K. Yoshizawa, "MORPHOLOGY OF PSOCOMORPHA (PSOCODEA: 'PSOCOPTERA')", Insecta Matsumurana 62, 1 (2005). (ここからダウンロードできます)

「日本昆虫目録第4巻」によると、日本産Trichadenotecnum属には24種記録されていますが、上の2001年の論文には22種の翅の写真が載っています。検索表は主に交尾器に関するものなので、翅の模様で比較してみると、可能性のありそうな種が7種見つかりました。そのうち、本州産はincognitumとyamatomajusの2種に絞られました。実は、以前も同じことをして同じ結論になりました。2001年の論文にはこの2種のうち、yamatomajusの翅の特徴が書かれていたのでその部分を訳してみました。



翅の模様の部位別に特徴が書かれています。これと比較すると、だいたいは合っているのですが、③と⑧あたりがどうかなと思いました。③では斑紋に淡色部分があると書かれているのですが、注意して見ると少しそんな感じもするのですが、はっきりとは分かりません。また、⑧ではhの斑紋がはっきりしていると書かれているのですが、この個体では淡い色です。以前はbの前方の斑紋が不明瞭なので、yamatomajusとしたのですが、この辺りはよく分かりません。



次は同じ木にいたハリブトシリアゲアリです。このアリについては以前調べたことがありました。





次はクロボシツツハムシのカップル。





この小さなバッタはヤブキリの幼虫かな。



それからヒメクロオトシブミ





ハエはよく分かりません。上はM1脈が曲がっていないので、たぶん、イエバエ科。下は何でしょう。



これはツツジトゲムネサルゾウムシ



それから、ケブカクチブトゾウムシ



最後はジョウカイボンの仲間ですね。頭部の形状からPodabrus属かなと思ったのですが、よくは分かりません。

廊下のむし探検 カゲロウ、ハエ、クモなど

2019-04-28 16:55:54 | 廊下のむし探検
廊下のむし探検 第18弾


4月18日にマンションの廊下で見つけた虫の続きです。



最初はこんなカゲロウです。こんなに翅を広げて止まるのはフタバコカゲロウあたりです。「原色川虫図鑑成虫編」で見てみると、やはりフタバコカゲロウ Baetiella japonicaの♀のようです。成虫は3月~10月に出現し、灯火によく飛来するとのことでした。



次はオドリバエです。これはたぶん、Rhamphomyia属だろうということくらいしか分かりません。





ユスリカも調べたいのですが、最近は時間的余裕がありません。これは前脛節の方が跗節第1節より長いのでエリユスリカ亜科かなぁ。



次はカバナミシャクです。白い点が目立ちます。そんなところから、「日本産蛾類標準図鑑」を見てみると、モンウスカバナミシャクとか、トシマカバナミシャクあたりが候補になります。ただ、前者は前翅が細長く翅縁が直線的ですが、それに対してこの写真の個体は翅がやや太く、翅縁も湾曲しているので、たぶん、トシマカバナミシャクの方かなと思いました。よく分かりませんが・・・。



ヒメカゲロウの仲間です。ちょっと高いところに止まっていたので、recurrent veinがうまく撮れず、よく分からないのですが、翅の模様からヤマトヒメカゲロウの方かなと思いました。





次はクロバネキノコバエの仲間。2匹いました。うまく撮れたのですが、これを調べるのはなかなか大変です。今回はパスです。



このハチは一瞬目の前に止まり、さっと飛び去ったので、この写真が一枚だけ。腹部を見ると、コガネコバチあたりに似ていますが、頭部はアリガタバチ辺りにも似ている感じもします。とにかく翅脈が見えない!よく分かりません。





これはヤミイロカニグモ。この日は2匹いました。



次はキハダカニグモ。アブラムシの有翅型を捕獲しているようです。



むちゃくちゃ小さなクモ。思わず撮ってしまったのですが、なんでしょうね。



そして、これはコカニグモ



そして、これはマエシロモンキノカワガ



最後は天井に止まっていて望遠で撮ったオドリバエです。R4脈が直線的に分岐しているので、たぶん、Empis属。それ以上は分かりません。

これでマンションの廊下で撮った虫は終わりました。この後、公園にも行ったので、そちらの整理をこれからやってみます。

廊下のむし探検 甲虫、カメムシ

2019-04-27 09:54:53 | 廊下のむし探検
廊下のむし探検 第17弾


昨日の続きで4月18日にマンションの廊下で見た虫たちです。今日は甲虫の残りとカメムシを出します。



春になって虫たちも活発に動くようになってきました。それで、カメラを向けるとみなさっさと陰に隠れようとします。それで、こんな後ろ向きの写真の多いこと多いこと。これはたぶん、ケブカクチブトゾウムシでしょう。



この虫でむちゃくちゃ悩みました。初め、ハムシだと思って、「原色日本甲虫図鑑IV」のハムシのあたりを何度か見たのですが、体色と翅の色が同じで、脚がこんな色のものがいません。それで、次は「ハムシハンドブック」。これもいません。ひょっとしたら、何かの色彩変異。それも見つかりません。次はハムシダマシを疑いました。これも見つかりません。結局、「不明」ということで出すしかないかと思って、何の気なしに「新訂原色昆虫大図鑑II」の図版をパラパラめくっていました。そして、もしかしてと思って見つかったのが、カミキリムシ科のキバネニセハムシハナカミキリです。以前にも何度か見ていたのに、忘れてしまっていました。それにしても、これがカミキリムシとは。いったい、カミキリムシ科とハムシ科は何が違うのだろうと思って、「大図鑑」に載っている、上科と科の検索表を見てみました。



それがこれです。一応、ゴミムシダマシ科のハムシダマシ亜科も加えておきました。もし、①aを選ぶとハムシダマシ、①bを選ぶとカミキリムシ科かハムシ科。さらに、④aを選ぶとカミキリムシ科、④bを選ぶとハムシ科になります。①で出てきましたね。跗節の隠5節。以前、悩みに悩んだところです。以前は隠4節という表現だったのですが、その時はヒメテントウ属ホシヒメテントウ属を区別するときに出てきました。跗節だからいずれにしても採集しないと分かりませんが、たぶん、標本があったと思うので、今度調べてみようと思います。ところで、カミキリムシ科とハムシ科の違いを見ると意外に微妙です。「通常」とか、「多くは」、「しばしば」という表現は厳密に言うと確定できないということを意味します。そうなると、どの項目も確定することはできません。結局、すべての項目を調べて、カミキリムシ科らしいというところぐらいまでがせいぜいかなという感じです。この個体を採集していたかどうか分かりませんが、採集していたら一度調べてみます。





次は綺麗なコメツキで、ミドリヒメコメツキだろうと思います。これは採集したことは確かなのですが・・・。



これは名前の分からないマルガタゴミムシ。



これは最初、キイロクビナガハムシだろうと思ったのですが、よくよく見ると脚の色が違います。結局、ユリクビナガハムシではないかというところです。ユリだとすると、幼虫は何度か撮ったのですが、成虫は初めてです。もう少し上から撮れればよかったのですけどねぇ。



次はアカハムシダマシ。これは脚の色が決め手です(詳しくはこちら)。



これはモモブトカミキリモドキ。(追記2019/04/27:立西さんから、「カミキリモドキは前肢が黄色いのでキアシカミキリモドキだと思います。」というコメントをいただきました。キアシも♂はモモブトだったですね。うかつでした。ご指摘、どうも有難うございました



次からはカメムシです。これはマツヘリカメムシ。やはりカメラを向けたら隠れ始めました。



ムラサキナガカメムシはじっとしていました。



それにナガメ





これはノコギリヒラタカメムシ。何度も見たのですが、変わった形なので、一応、採集しました。



最後はセスジヒメナガカメムシ。残りはハエ目と蛾、カゲロウ、ヒメカゲロウ、コバチなどです。