黒沢永紀オフィシャルブログ(旧・廃墟徒然草)

産業遺産と建築、廃墟、時空旅行、都市のほころびや不思議な景観、ノスタルジックな街角など、歴史的“感考”地を読み解く

足尾銅山 #10 選鉱場2

2012-11-13 08:34:56 | 産業遺産
8月の頭にブログでご案内した、
足尾銅山の写真家、橋本康夫氏の追悼写真展に、
会期の最後となる9月末に訪た時の足尾銅山のリポート。

前回に引き続き通洞選鉱場。

足尾銅山・選鉱場
足尾銅山・選鉱場

前回の最後に触れた重液選鉱によって選別された鉱石は、
ボールミル[磨鉱機]と呼ばれる、
鋳造された硬質な玉が1000個入っている装置に入れられ、
0.3m以下まで粉砕される。
すなわちここでほぼ粉状態になる。





足尾銅山・選鉱場
足尾銅山・選鉱場

上画像の反対側真横からの外観。
ボールミルもクラッシャー同様大きく、
立ち位置目線で機械の約半分の高さなので、
総高は約3mということになるだろうか。
重液で選別された鉱石は左から入り、
粉状となって右へ排出されるが、
左側の鉱石の注入口付近を見ると、





足尾銅山・選鉱場
足尾銅山・選鉱場

硫酸銅が大量に付着していた。
子供の頃、緑青は毒だと聞かされたが、
どうやら昭和の都市伝説だったらしい。
それにしても、銅が酸化した青緑色には、
不思議な魔力を感じる。





足尾銅山・選鉱場
足尾銅山・選鉱場

ボールミルの頭上高くには、
床面のそこかしこに穴が空いている、
取って付けた様な部屋があった。





足尾銅山・選鉱場
足尾銅山・選鉱場

中を見ると、壁一面にコントロールパネルがあるので、
どうやら集中管理室のようだ。
この部屋は選鉱場の立屋の中にあるのだが、
なぜか天井が抜け落ち、床一面に植物が繁茂している。
部屋の奥にはナショナルのNRシリーズの冷蔵庫。
思えばこれまで見て来た足尾は、
産業にまつわる遺構が織りなす異空間ばかりで、
時代を感じることは無かったが、
この冷蔵庫は足尾で初めて感じた時代感覚だった。





足尾銅山・選鉱場
足尾銅山・選鉱場

ボールミルで細かく砕かれた鉱石は、
浮遊選鉱と呼ばれる行程へと進む。
ボールミルがあるレベルから一段下を覗くと、
浮遊選鉱の装置の上部が見える。
冷蔵庫で時代を感じたのもつかの間、
再び産業遺産の異空間へと引き戻される。





足尾銅山・選鉱場
足尾銅山・選鉱場

足尾銅山の主要な鉱石は黄銅鉱だが、
こまかく砕かれた鉱石には石英が多く含まれているため、
それを分離する必要がある。
浮遊選鉱は、石英が水となじみやすく、
黄銅鉱が水と分離しやすい特質を利用し、
必要な鉱石だけを選別する装置。
粉状の鉱石を水の入った木箱に入れて撹拌すると、
黄銅鉱は泡とともに浮いてくる。
この泡を回収したものが精鉱と呼ばれる。





足尾銅山・選鉱場
足尾銅山・選鉱場

浮遊選鉱によって抽出された精鉱は、
その後ドルシックナーと呼ばれる沈殿槽で分離される。
実際に精鉱の沈殿に使われたシックナーは、
時間が無く見学出来なかったため、
選鉱場内にある別のシックナーをアップするが、
形状は殆ど同等のものだ。





池島炭鉱・オリバーべルトフィルター
池島炭鉱・オリバーべルトフィルター

シックナーで沈殿した精鉱は、その後フィルターで脱水される。
フィルター装置の見学もやはり時間がなく出来なかったため、
参考として池島炭鉱に残るフィルター装置をアップしておく。
形状は足尾銅山で使用されていたものと少し違うが、
大きなドラム状の回転機にキャンバス地の濾過布が付けられていて、
水分を濾過し、必要な精鉱成分だけを抽出する。





足尾銅山・選鉱場
足尾銅山・選鉱場

こうして抽出された精鉱は、
選鉱場の上部に運ばれ貯蔵される。
画像は貯蔵場を上から見た光景。





足尾銅山・選鉱場
足尾銅山・選鉱場

貯蔵場の側面。
操業時は手前に軌道があり、
貯蔵庫から貨車に積み込まれて運び出されていた。
そして精鉱は本山まで運ばれ、次の製錬の工程へと進む。



以前に空調関連の会社のサイトを制作したことがあるが、
オリバーフィルターなど、炭鉱・鉱山で知った単語の説明が必要だった。
化学系や産廃、そして都市鉱山のプラントなどでは、
いまでも鉱山が開発して来た技術が進化し応用されている。
現代の豊かな生活が、
20世紀の鉱山や炭鉱で培われた技術によって支えられていると思うと、
感慨深いものがある。





足尾銅山・橋本康夫写真展
足尾銅山・橋本康夫写真展

足尾歴史館で2っ月に渡って行なわれた、
橋本康夫氏の追悼写真展は無事終了した。
館の話だと、異例の来館者数だったという。

写真展に先立って、橋本氏の奥様の発案で、
追悼写真集も出版されていた。
そのタイトルは『ヤマと暮らしと人と』
今回、「ヤマ」の一端を見ることはできたが、
鉱住が殆ど残っていない足尾から、
「暮らし」をかいま見ることは殆どできなかった。
次回足尾を訪れる機会があったら、
是非「暮らし」そして「人」を知れたらいいと感じた。

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4 Comments

コメント日が  古い順  |   新しい順
お久しぶりです。 (冬野灰馬)
2012-11-13 11:29:01
足尾シリーズ、見応えありました。

鉱山のメカニズムに関する解説があった上で写真を見ると受け取り方が全然違いますね。

そして、橋本さん、亡くなったんですね…。
僕は一度渋谷のイベントとその二次会で少しお話させて
もらっただけなんですが、人柄の良さは記憶に残っています。

足尾は施設の解体前に一度訪れていて、休止した僕のブログにちょっとだけ写真が残ってました。
http://d.hatena.ne.jp/highma/20061209#1165642923
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▼冬野灰馬さんへ (KLO@廃墟徒然草)
2012-11-14 01:35:44
本当にお久しぶりです!ご無沙汰しております。
炭鉱とか鉱山とかを見ているうちに、だんだんと、これはあれだな、とか思って撮影する様になって、
そのせいで、よけいなものを撮影しなくなってしまいました。
以前のように、よけいなものも撮影すると、
以外と新しい発見とかあるんですけどね。

そうなんですよ、橋本さん、亡くなられたんですよ(; . ;)
まだ実感はわかないんですけど。。。
渋谷の上映会、懐かしいですね!

灰馬さんの足尾、拝見させて頂きました。
まだ製錬所の鉄骨の上屋やシックナーの建物が残っていた頃ですね。
こうして見ると、ここ6年の間にも、
多くの施設が無くなったのがわかります。
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Unknown (Unknown)
2013-04-21 13:56:42
普段廃墟探索しつつ分かってないので
選鉱工程を書いてくださり本当にありがとうございます。
2回読んだけど理解できませんでしたが。
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▼Unknownさんへ (KLO@廃墟徒然草)
2013-04-22 13:08:52
コメント、ありがとうございます。
橋本氏の写真展の記事にもコメントを頂いたUnknownさんでしょうか。
すみません、説明が下手で(汗)
図解などを入れたらもっと分かり易かったかもしれませんね。
要は、大きな鉱石を、上から下に行くに従って、だんだん細かくして行く作業、
ということです。
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