続編をお届けします(文末に前回記事へのリンクを貼っています)。日本語の乱れだ、誤用だなどとムキにならず、日本語を面白がろうという趣向で、ネタ元は前回と同じ「若干ちょっと気になるニホン語」(山口文憲 筑摩書房)です。前回に引き続き、お楽しみください。
★デーモン小暮閣下さん★
ロックバンド・聖飢魔IIのボーカルをつとめるミュージシャンに「デーモン小暮」さんがいます。ド派手なメーキャップのこの方です。

地獄からの使者なので、ファンには「デーモン小暮閣下」と呼ばせています。音楽活動もさりながら、評論家を名乗るほどの大相撲マニアとしても有名です。私もだいぶ前に、テレビ中継のゲストとして、あのメイクで出演しているのを見たことがあります。
著者もたまたま彼がテレビ中継に「出演」しているのを見たそうです。彼が画面に登場して、さてどういう名前で紹介されるのかと注目していると、テロップには「デーモン小暮閣下さん」と出たというのです。
NHKも随分迷ったんでしょうね。「デーモン小暮さん」だと、ファンから苦情が来そう。「閣下」って尊称ですから、「デーモン小暮閣下」で十分なようですが、呼び捨てのような響きもあります。え~い、面倒だ、閣下までをタレント名とみなして、それに「さん」を付ければ文句はないだろう、とNHKが考えたのかどうかは分かりませんが、笑えました。
同じような例をもうひとつ。頭にハコフグの帽子を乗せた「さかなクン」というタレントがいます。れっきとした魚類学者で、科学系のバラエティ番組で知識を披露します。こちらの方です。

自ら「「さかなクン」だよ~ん」などと軽いノリで名乗って登場したり、解説するのはいいのです。困るのは、司会が彼を紹介する時。「「さかなクン」さんで~す。」とならざるを得ないこと。司会者の戸惑いぶりを、私は面白がってました。
★海のミルク★
そういえば、昔、「海の牛乳」というキャッチフレーズがあったような気がします。「牡蠣(かき)」のことです。栄養価が高い食材ですが、かつてはあまり高級感はありませんでした。そこで、栄養面で申し分なく、当時としては比較的高級感のあった牛乳(ミルク)を引き合いに出して、販促を図ろうとしのでしょう。でも、今は立場が逆転しました。栄養的には変わらないのでしょうが、牡蠣はやや高級な食材、そしてミルクは身近な飲みものになりました。時代の移り変わりを感じます。
大豆を「畑の肉」という言い方もあります。どちらも高タンパク質の食材です。肉の高級感はだいぶ薄れたとはいえ、こちらは今でも十分通用する説得力があります。
★変換ミス★
パソコンで日本語入力した時の「変換ミス」もすっかり日本語として定着しました。著者によると、日本漢字能力検定協会がネット上で常時開催している「変「漢」ミスコンテスト」というのがあって、本書執筆の前年の対象候補を紹介しています。
「帰省中で渋滞だ」のはずが「寄生虫で重体だ」
「大阪の経済波及効果」となるべきが「大阪の経済は急降下」
「今日は見にきてくれてありがとう」が「今日はミニ着てくれてありがとう」
「言わなくったっていいじゃん」のつもりが「岩魚食ったっていいじゃん」など。
著者のお気に入りながら、大賞を逸したのは、
「うちの子は耳下腺炎でした」
ー>「うちの子は時価千円でした」
「地区陸上大会」ー>「チクリ苦情大会」
「作った」ぽいのもありますが、それもユーモア精神と割り切って、私なりに楽しみました。
★流れでお願い★
以前から、とかくの噂があった大相撲の八百長を巡って、2011年に当事者同士のメールが暴露されるという「事件」が起こりました。その文章がなかなか含蓄に富む、というので著者が取り上げています。こんなやり取りです。
「立ち会いは強く当たって流れでお願いします」(清瀬海から春日錦へ)
「了解致しました!では流れで少しは踏ん張るよ」(春日錦から清瀬海へ)
二人の間で交わされたメールは24、5通あるとのことで、「流れで」とあるのは、この2通だけだといいます。
立ち会いだけは、段取りして、あとの細かい段取りはなし。自然な「流れ」に見えるよう、適当に押したり、引いたりしながら、勝ち負けは、お約束どおりで、、、
そんな感じでしょうか。
「流れ」の一言にそこまでの思いを込めるユニークさに、八百長問題を忘れて感心してしまいました。
いかがでしたか?前回へのリンクは、<第563回>です。併せてお楽しみいただければ幸いです。それでは次回をお楽しみに。