本州のとあるフィールドにダム差しのヤマメを狙いにきた。
他人の実績は多数ある。
僕の実績は無い。
夏に一度、フィールドの確認のために来た。
このときはイワナが遊んでくれた。
数日前にもきたが、降雨による増水に茶色の濁りも入り始め、小一時間竿を出したのみだった。
勿論何も釣れなかった。
今回の釣行は数日前の時よりも更に激しい増水。
濁りこそ薄いものの竿を出せる箇所が極めて限られる。
堰堤下を観察していても魚は全く跳ねない。
流下した水がぐるぐる巻いているので定位しにくいのだろうか。
この状況なら、魚たちはひとまず遡上は止めて緩流帯で休むか、或いは緩流帯を伝うように遡上するかのどちらかだろう。
そう踏んだ僕は、渓流感覚で魚が着いていそうな弛みや緩い流れにピンポイントで餌を打っていた。
しかし午前中は全く反応がなかった。
昼を過ぎた頃、明らかに朝よりも水位が下がり、濁りも弱くなった。
よい釣りをすることなど殆ど諦めてはいたものの、せっかく来たのだからやってみるかという思いで、空いている釣り座を探した。
午前中は音信不通だったポイントが空いている。
しかも少し水位が下がったためか、結構いい流れになっているように映った。
つまり、魚が着きそうな流れになっていると感じたのだ。
岸よりの緩流帯、濁りで底は見えないが水深は深くても40から50cmというところだろう。
僕はその一帯を流し始めた。
最初に掌サイズのヤマメを釣った。
次に20cmくらいのアマゴ。
ここはアマゴとヤマメが混棲しているようだ。
その後も何匹かアマゴとヤマメを釣ったが、ほぼ半々の割合だった。
小型のアマゴとヤマメを何匹か釣ったあと、尺はあろうというパーマークのはっきり残った綺麗なアマゴを釣った。
こんな小場所ではこの魚が最後かなとも思った。
しかし、今場所を替えたとしても竿を出せる箇所が他に保証されているわけではない。
増水で釣り座が限られている上に、入川者が多い。
それにダムから遡上してきた個体は、居着きの個体のように餌に反応するのか疑問もあった。
海からの遡上魚のように、そこに居るけど餌には見向きもしない、所謂「口を使わない」という状態もままあるのではないか。
特に今時期の繁殖活動を目前に控えた彼等は、正直なところ食い気なんて無いのではないか。
何かの加減でスイッチが入って食い付く(口を使う)だけではないか。
だから餌釣りよりもルアーの方が実績があるのではないか。
そんなことを考えながら、僕は長良川でサツキマスを狙っている時のように、少しずつ筋や流し方を変えながら、何度も何度も流していた。
「ググンッ」と穂先がはっきり曲がって手元にまで伝わるアタリがあった。
突然で短いが確実に鈎に乗せられることが判るアタリだった。
現在右肘を痛めている僕は、短く鋭いアワセを入れられない。
上流方向に向かって竿を煽るような格好でアワセを入れると確実に鈎に乗った感触が伝わってきた。
掛かった直後、相手は緩流帯を上流に向かった。
糸フケを作りたくない僕はひとまず竿を絞った。
それなりに重量感はあるが、魚のパワーはあまり伝わってこない。
「ガボッ」という音とともに相手が水面に顔を出して首を振った。
その黒い顔と曲がった鼻は、まるでブナの出たシロザケを思わせた。
その時に初めて、僕は掛かっている相手がかなりの大きさだと知った。
再び水中に姿を沈め、そのまま緩流帯を潜行するかと思いきや、相手は流れに乗って降り始めた。
結構な速さだ。
僕は岸を駆け足で降った。
それ以上降られると瀬落ちに差し掛かるところまで来たとき僕は竿を絞った。
相手は素直に向きを変える。
そしてそのまま寄ってくる。
僕は玉網を抜いて左手に持った。
右腕で更に魚を寄せようとするが、痛めた肘のためにうまく力が入らない。
いや、むしろ痛みが走る。
耐えながら何とか寄せるが、力が足りずに魚に抵抗される。
そしてあろうことか、岸よりの水草に糸が絡まった。
まずいと思ったが相手も動けずにおとなしくしている。
この隙に掬ってしまおうと近付くと、幸か不幸か絡んだ糸が外れた。
相手はまた降ろうとする。
今降られたら終わる。
右腕一本では止められない。
僕は慌ててもう一度玉網を腰に差した。
岩を越流して段差に落ちる手前、すんでのところで左腕を元竿に添えた。
もう一度相手を上流に向かわせて、取り込み箇所まで導かねばならない。
水勢は強いが、相手も段差の下に落ちるのは嫌うのか、自ら上流を目指してくれた。
結果的にこれがよかったのだろう。
相手の力は急激に弱まった。
今度は難なく寄ってくる。
岸よりの大きめの石と石の間に相手を横たえた。
長良川でサツキマスを獲ったときと同じ、2014年の高原川の最終釣行で38cmのヤマメを獲ったときと同じ、腹側から掬うフィニッシュだった。
ダムから差してきた雄のヤマメの体長は45cmだった。
今シーズンはいつになく仕事が立て込んでいて、例年よりも釣りが疎かになってしまった。
このブログに釣行記を書く時間的な余裕はなかった。
そして実際の釣果の方も芳しくなかった。
長良川のサツキマスは遡上数が少なく早々に諦めた。
益田川は大物が狙えるポイントに大型のニジマスが複数本入っていて幅を利かせていた。
また、もうひとつの実績ポイントは、河川改修によりつぶれた。
高原川は二年続けて不漁だった。
昨シーズンの不漁の原因は分かる。
しかし今シーズンの原因は分からない。
ポイントがつぶれた箇所もあるが、そうではなくて魚が極端に少ない。
例年ヤマメが食ってきた筋で何本もイワナを釣った。
シーズン中に一本は40cmオーバーのアマゴかヤマメを獲りたいなと思っているが、昨シーズンに続けて今シーズンも無理かなと半ば諦めていた。
そのような状況で獲ったこのヤマメ。
他の多くの釣り師が礼賛するほどには、僕は「鼻曲がり婚姻色の雄」を重要視しないのだがそれでもやはりこの凛々しく精悍な顔付きには迫力があるなと感じる。
やはりここまで遡上するのには結構体力を使ったのだろう。
45cmという大きさからするとパワーもスタミナも物足りない感じがした。
ここは緩流帯でゆっくり休ませないといけない。
夕刻、竿を畳んで釣り座を離れる直前まで彼は僕の側に居た。
別れの時、ストリンガーを外そうとリード線を引くとバシャバシャと激しく暴れた。
ここまで回復してくれたら心配することはない。
「ありがとう。強い子孫を残してくれよ。」
そう声をかけて、僕は彼を流れに返した。
当日のタックル
竿:シマノ スーパーゲーム ベイシスZB MH75-80
水中糸:フロロ1.0号
ハリス:フロロ0.8号
鈎:オーナー サクラマススペシャル 8号
餌:ミミズ
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他人の実績は多数ある。
僕の実績は無い。
夏に一度、フィールドの確認のために来た。
このときはイワナが遊んでくれた。
数日前にもきたが、降雨による増水に茶色の濁りも入り始め、小一時間竿を出したのみだった。
勿論何も釣れなかった。
今回の釣行は数日前の時よりも更に激しい増水。
濁りこそ薄いものの竿を出せる箇所が極めて限られる。
堰堤下を観察していても魚は全く跳ねない。
流下した水がぐるぐる巻いているので定位しにくいのだろうか。
この状況なら、魚たちはひとまず遡上は止めて緩流帯で休むか、或いは緩流帯を伝うように遡上するかのどちらかだろう。
そう踏んだ僕は、渓流感覚で魚が着いていそうな弛みや緩い流れにピンポイントで餌を打っていた。
しかし午前中は全く反応がなかった。
昼を過ぎた頃、明らかに朝よりも水位が下がり、濁りも弱くなった。
よい釣りをすることなど殆ど諦めてはいたものの、せっかく来たのだからやってみるかという思いで、空いている釣り座を探した。
午前中は音信不通だったポイントが空いている。
しかも少し水位が下がったためか、結構いい流れになっているように映った。
つまり、魚が着きそうな流れになっていると感じたのだ。
岸よりの緩流帯、濁りで底は見えないが水深は深くても40から50cmというところだろう。
僕はその一帯を流し始めた。
最初に掌サイズのヤマメを釣った。
次に20cmくらいのアマゴ。
ここはアマゴとヤマメが混棲しているようだ。
その後も何匹かアマゴとヤマメを釣ったが、ほぼ半々の割合だった。
小型のアマゴとヤマメを何匹か釣ったあと、尺はあろうというパーマークのはっきり残った綺麗なアマゴを釣った。
こんな小場所ではこの魚が最後かなとも思った。
しかし、今場所を替えたとしても竿を出せる箇所が他に保証されているわけではない。
増水で釣り座が限られている上に、入川者が多い。
それにダムから遡上してきた個体は、居着きの個体のように餌に反応するのか疑問もあった。
海からの遡上魚のように、そこに居るけど餌には見向きもしない、所謂「口を使わない」という状態もままあるのではないか。
特に今時期の繁殖活動を目前に控えた彼等は、正直なところ食い気なんて無いのではないか。
何かの加減でスイッチが入って食い付く(口を使う)だけではないか。
だから餌釣りよりもルアーの方が実績があるのではないか。
そんなことを考えながら、僕は長良川でサツキマスを狙っている時のように、少しずつ筋や流し方を変えながら、何度も何度も流していた。
「ググンッ」と穂先がはっきり曲がって手元にまで伝わるアタリがあった。
突然で短いが確実に鈎に乗せられることが判るアタリだった。
現在右肘を痛めている僕は、短く鋭いアワセを入れられない。
上流方向に向かって竿を煽るような格好でアワセを入れると確実に鈎に乗った感触が伝わってきた。
掛かった直後、相手は緩流帯を上流に向かった。
糸フケを作りたくない僕はひとまず竿を絞った。
それなりに重量感はあるが、魚のパワーはあまり伝わってこない。
「ガボッ」という音とともに相手が水面に顔を出して首を振った。
その黒い顔と曲がった鼻は、まるでブナの出たシロザケを思わせた。
その時に初めて、僕は掛かっている相手がかなりの大きさだと知った。
再び水中に姿を沈め、そのまま緩流帯を潜行するかと思いきや、相手は流れに乗って降り始めた。
結構な速さだ。
僕は岸を駆け足で降った。
それ以上降られると瀬落ちに差し掛かるところまで来たとき僕は竿を絞った。
相手は素直に向きを変える。
そしてそのまま寄ってくる。
僕は玉網を抜いて左手に持った。
右腕で更に魚を寄せようとするが、痛めた肘のためにうまく力が入らない。
いや、むしろ痛みが走る。
耐えながら何とか寄せるが、力が足りずに魚に抵抗される。
そしてあろうことか、岸よりの水草に糸が絡まった。
まずいと思ったが相手も動けずにおとなしくしている。
この隙に掬ってしまおうと近付くと、幸か不幸か絡んだ糸が外れた。
相手はまた降ろうとする。
今降られたら終わる。
右腕一本では止められない。
僕は慌ててもう一度玉網を腰に差した。
岩を越流して段差に落ちる手前、すんでのところで左腕を元竿に添えた。
もう一度相手を上流に向かわせて、取り込み箇所まで導かねばならない。
水勢は強いが、相手も段差の下に落ちるのは嫌うのか、自ら上流を目指してくれた。
結果的にこれがよかったのだろう。
相手の力は急激に弱まった。
今度は難なく寄ってくる。
岸よりの大きめの石と石の間に相手を横たえた。
長良川でサツキマスを獲ったときと同じ、2014年の高原川の最終釣行で38cmのヤマメを獲ったときと同じ、腹側から掬うフィニッシュだった。
ダムから差してきた雄のヤマメの体長は45cmだった。
今シーズンはいつになく仕事が立て込んでいて、例年よりも釣りが疎かになってしまった。
このブログに釣行記を書く時間的な余裕はなかった。
そして実際の釣果の方も芳しくなかった。
長良川のサツキマスは遡上数が少なく早々に諦めた。
益田川は大物が狙えるポイントに大型のニジマスが複数本入っていて幅を利かせていた。
また、もうひとつの実績ポイントは、河川改修によりつぶれた。
高原川は二年続けて不漁だった。
昨シーズンの不漁の原因は分かる。
しかし今シーズンの原因は分からない。
ポイントがつぶれた箇所もあるが、そうではなくて魚が極端に少ない。
例年ヤマメが食ってきた筋で何本もイワナを釣った。
シーズン中に一本は40cmオーバーのアマゴかヤマメを獲りたいなと思っているが、昨シーズンに続けて今シーズンも無理かなと半ば諦めていた。
そのような状況で獲ったこのヤマメ。
他の多くの釣り師が礼賛するほどには、僕は「鼻曲がり婚姻色の雄」を重要視しないのだがそれでもやはりこの凛々しく精悍な顔付きには迫力があるなと感じる。
やはりここまで遡上するのには結構体力を使ったのだろう。
45cmという大きさからするとパワーもスタミナも物足りない感じがした。
ここは緩流帯でゆっくり休ませないといけない。
夕刻、竿を畳んで釣り座を離れる直前まで彼は僕の側に居た。
別れの時、ストリンガーを外そうとリード線を引くとバシャバシャと激しく暴れた。
ここまで回復してくれたら心配することはない。
「ありがとう。強い子孫を残してくれよ。」
そう声をかけて、僕は彼を流れに返した。
当日のタックル
竿:シマノ スーパーゲーム ベイシスZB MH75-80
水中糸:フロロ1.0号
ハリス:フロロ0.8号
鈎:オーナー サクラマススペシャル 8号
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