高原川のうた
嶺へだて益田に峙する奥飛騨に 大河高原流れてながし
真夜中に高原川に向けて国道41号を北進している途中、激しい降雨に見舞われた。
予報ではこの雨雲が宮峠を越えて奥飛騨までやってくることはなかったし、実際に夜明け前に高原川に到着した時には雨は降っていなかった。
目当ての入川箇所には生憎先客が居た。
やむを得ず別のポイントに向かっていると、月並みな表現だが「バケツをひっくり返したような」雨が降り始めた。
多少の雨なら気にせず釣りをするが、これはとても車外に出られる降雨ではない。
しかも雷鳴も轟いて危険だ。
もう間もなく川には泥水が押し寄せるだろう。
200km近くを走破してきたが、今日の高原川での釣りは諦めるしかなかった。
一睡もせずに向かってきた僕には、雨粒がクルマのルーフを打つ音も次第に心地良く響くようになり、シートを倒したままそのまま眠った。
目覚めると予想通り濁流だった。
僕は今来た道を引き返し、益田川上流漁協管内に向かった。
渓とまではいかないけれども、出来るだけ上流域で、降雨の影響による茶色い濁りが収まりやすい流域を選んだ。
尺には届かないものの、流れの規模からすると充分な大きさの綺麗なアマゴを何匹か釣り上げその日は納竿とした。
翌朝は夜明けから高原川に入るつもりで、日没後暫くの後、入川箇所付近にクルマを停めた。
睡眠が足りていなかった僕は、シートを倒すとほどなく眠りに落ちた。
放水のサイレンの音で目が覚めた。
それは日付が変わる前だったか、それとも後だったか記憶にない。
前日の夜明け前に濁流が押し寄せた高原川はその後の降雨はなく順調に水位は減っていた。
恐らく川の水色も落ち着いてきたはずだ(暗闇なので未確認。ネット情報)。
それが夜半に降雨があったようで、またも放水が始まろうとしていた。
じたばたしても仕方ない。
翌朝目覚めた時に川を見て釣りの可否の判断をしようと考え、そのまま眠り続けた。
空が白んできた頃に川の様子をうかがった。
水位は高い。
水色は濁流ではないが茶色っぽい濁りが入っている。
仕方ない。
僕は高原川で竿を出したいのだ。
高原川のヤマメを釣りたいのだ。
水況がどうのこうのと言っている場合ではない。
河原に降りて竿を振り始めた。
最初の1時間近くは反応がなかった。
いつも魚が着いている流れは、どの筋を流しても魚信はない。
早朝でしかもこの高水だと、恐らく岸近くに漂っているだろうと考えたが、明るくなってくると、逆に流芯に近いところで小型のウグイを何匹か釣った。
あれだけ竿を絞ってくれたニジマスも居ない。
僕は基本的にリリースするので恐らくニジマスたちは他の釣り師に抜かれたのだろう。
リリースしたニジマスを同じポイントで3週続けて釣ったこともあるくらいだから、餌に対する反応の良いニジマスは、そこに居ればほぼ間違いなく何かしら応答はあるはずだ。
それが無いのだから居ないのだろう。
じゃあ、ヤマメはどうなんだ?
餌を奪い合うライバルは居ないのだよ。
奴らに餌を奪われて大きくなれなかったんだろう?
もう居ないんだ、食えよ!
そう思いながら竿を振り続け、仕掛けを馴染ませ、水面を滑る目印を追っていた。
これだけ降雨があるのだから、下流から差してきた大型のヤマメが居るはずだ。
ほらっ!食えよっ!
遠くの落ち込みに餌を打ち、流れに馴染ませて手前の岩盤のブッツケまで流してきたときに、目印がふと止まったように見えた。
竿尻を支える手許には何の感触も伝わってこなかったが、明らかにおかしな動きだったため、コツンと短く鋭くアワセを入れた。
直ちに穂先を叩くような激しい首振りが始まった。
鋭く俊敏で端正なそれはヤマメのものだ。
姿を見なくともわかる。
パワーにモノを言わせてガツン、ゴツンという重々しい衝撃を伴うものの、端正さが微塵もないニジマスの首振りとは違う。
大排気量のアメ車がドロドロと排気音を出しながら重々しくエンジンの回転数を上げるのではなく、小排気量の国産エンジンが、小気味よくリズミカルにビートを刻みながら一気にレヴリミット付近まで吹け上がるような、そんな首振りがヤマメの首振りなのだ。
そして首振りが終わると激しいローリング。
意外にも水面付近に居たようで、反転する際にギラッ、ギラッと魚体が光る。
まるで釣り雑誌に出てくるような理想的なファイトを見せてくれたヤマメは、観念すると直ちに玉網に収まった。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/48/6f/ea081c031f6612ff3ffaee553241f349.jpg)
増水により岸際まで波が押し寄せ、体長がうまく計れなかったが、恐らく33~34cmだろう。
しかしこの際1cmくらいはどうでもよいのだ。
貧果の続く高原川で、やっとよく肥えた尺上のヤマメを獲ることができたのだ。
過去にはもっと体高豊かなヤマメも居た。
しかしそんなヤマメは今は幻と言っていいくらい見かけない。
体高云々を抜きにして、尺以上のヤマメが2015年以降シーズンを追うごとに少なくなっていく。
釣れるヤマメも殆どが痩せて貧相だ。
入川時期や流域を変えれば状況はまた異なるのだろうとは思う。
毎年6月に試験釣行する際にはまともにヤマメは釣れるのだから。
しかしそれ以降、盛夏の頃、確かにヤマメは釣りにくくなるものの、それでも過去にはその時期に40cm近い個体を複数本釣ってきた。
それが尺に満たない個体すら僅かしか釣れないというのは、高原川が一体どうなっているのか不安に感じて当然だろう。
明確な理由は分からない。
10年前よりも釣れないということなら、恐らく高原川を取り巻く環境が良くなっているとは考えにくいのでやむを得まいという回答が出てくるだろう。
そうではなくて2015年以降急激に悪くなっているように感じるのだ。
最初は前年までヤマメが着いていた筋でイワナが掛かるようになった。
「ああ、今年はヤマメが少ないんだな」と思っていた。
それがイワナも掛からなくなった。
代わりにニジマスが跋扈している。
嫌というほど、飽きるほどにニジマスが食いついてくる。
奴らが幅を利かしているせいでヤマメが餌を捕れないのではないかと思う。
ニジマスが居なくなったポイントで、今回この画像のヤマメを釣った後、20cmを少し超えるくらいの痩せたヤマメを立て続けに何匹か釣った。
だから恐らくヤマメは居るんだよ。
ニジマスよりも気難しくて神経質だから釣り師は余計に「居ないんじゃないか」と感じるだろうがある程度は居るんだよ。
ただし、嘗てのように成長できないのだよ。
「より自然に近い形にしたい」というのが、近年の高原川漁協の考えとのことで、先ずは成魚放流を行わなくなった。
これに関しては僕は率直に賛成の立場だ。
稚魚放流は定着率が低いとのデータがあるようで、親魚放流や発眼卵放流に注力しているようだ。
それで川が豊かになるのならそんな良いことはないと思う。
でもそれらを推奨し始めてからの方が釣れないのが現実なのだ。
何故だろう。
僕が釣っていた綺麗な高原川の本流ヤマメたちが、成魚放流の残党とは思えない。
何故だ?
ヤマメが釣れなくなっていくのと反比例するように、ニジマスがよく釣れるようになったと感じる。
相対的な生息数によるものかもしれないが、釣り師の感覚としてはニジマスが勢力を拡大しているとしか思えない。
放流方式を変えたことの効果を検証する前に、僕はニジマスの放流量を抑制した方がよいと思う。
色々な柵や取り決めがあって放流しないわけにはいかないのだろうが、可能な限りニジマスは放流して欲しくない。
高原川を愛でる、一本流師の思いです。
魚種と当日の道具立て
魚種:ヤマメ
体長:33cm 或いは34cm(現地測定)
竿:シマノ スーパーゲームスペシャル ロング 95-100ZP
水中糸:フロロ 0.8号
ハリス:フロロ 0.6号
鈎:オーナー スーパー山女魚 8号
餌:ミミズ
エピローグ
前回記事にも書いた内容をもう一度記述してみた。
終日竿を出しているだけで尺ヤマメに出会えた頃が懐かしい。
もし今シーズン尺ヤマメを獲れなければ、来シーズンは年券購入を見合わせるつもりだった。
要するに「タカハラを諦めるつもりでいた」のです。
それくらい、高原川は崖っぷちだと思います。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/61/25/02403511297ed1a7672af60045723d29.jpg)
高原ヤマメサロンへようこそ
~過去に僕が釣った、高原川を彩るヤマメたちです(一部、過去のアマゴの放流履歴で交雑した名残と思われる朱点が認められる個体もあります)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/4c/e2/253064806a3ade63490bda1b4a0f3107.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/66/3e/702a469b078671e2786302ad6dcf83ae.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/3a/91/bbb3ddc9f01f430296bab020c113c97f.jpg)
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