先ず初めに、既に前回のサツキマス釣行で追憶の日々は終わったのですが、このタイトルが気に入ってしまいましてね(笑)
これからもサツキマスを狙った釣行記にはこのタイトルを冠すこととします。
「VOL: 」というように章立てもしてきましたが、幸い第五章で追憶の日々は終わりましたので、今後は章立ては行ないません。
サツキマスに関しては僕なんかまだまだ筋金入りのへっぽこですが、読んで頂ける方々の楽しみや暇潰しになればいいなと思います。
では本編。
前日と前々日と、二日間連続で益田川で憂き目に遭った。
もう一日釣りが出来るのだが、なんだか益田川で竿を出しても今は釣果に恵まれないような気がした。
どうせ釣れないのならと開き直り、平日にサツキマスを狙える機会というのは今後は殆ど訪れないだろうと思い、夜のうちに益田川を後にして長良川に向かった。
今シーズン頻繁に入川した関市内のポイントに入るか、前回釣果に恵まれた美並の相戸の堰堤に入るか迷ったが、もし自分の狙い通りのにポイントに入れなかったとき、美並の方が他に竿を出したいポイントが近場に沢山あるなと思い、その日も美並に向かうこととした。
現地到着は午前0時くらいだった。
泊まり込み組が居るだろうと思ったが自分の他には居なかった。
さすがにやはり平日なのだ。
明日の早朝には何組かやってくるだろうが、取り敢えず一番乗りなので車中で寝過ごさない限り狙ったところに入れそうだなと思いながら仮眠した。
午前3時半に目覚め準備を済ませると既に僅かではあるが夜明けの気配が東の空に現れていた。
暗い中を足元に気をつけながら川原に降りて行き、釣り座に腰を下ろして夜明けを待った。
少しずつ空が白み始め薄らと周囲が確認できるようになると、先ほど対岸に降りてきたクルマの持ち主なのだろうが、既に2名が川に入って竿を振っていた。
気持ちが逸るのは分かる。
もしかしたら釣りの後に出勤するのならば当然タイムリミットはある。
でも、今この状態で仕掛けを流しても目印が見えないではないか。
底を取って流そうとすると、目印が見えない状態では根掛かりするのがオチだろう。
以前は僕も暗いうちに流し始めたが、釣れた例はないしやはり根掛かりした。
暗い中で仕掛けを作り直すのもまた厄介だ。
だから僕は焦らずにそのまま待っていた。
案の定対岸の2名の釣り師の内1名が仕掛けにトラブルがあった模様で暗い中で復旧に当たっていた。
目印が確認出来るくらいの明るさになった頃、僕も流し始めた。
以前のように鬼気迫るような気持ちはもうない。
正直なところ一本獲ってかなり満足していたので、今シーズンはもういいかとも思っていたくらいだった。
暫くして年輩の餌釣り師が一名入川してきた。
「下の方へ入っていいですか」と声を掛けられたので「どうぞどうぞ」とお返しした。
その方も僕に気を使いながら竿を出されていたのが分かったので何も言わなかったが、ちょーっと距離が近かった。
サツキマスを狙って餌釣りしている人の殆どは餌を先行で流していると思う。
自分の前を仕掛けが流れて行き、そのままドラグを掛けて底を取りながら流し切る。
そういう流し方の釣り師が多いと思うのだが、このときは僕が流し終わる地点がちょうど下流に入った餌釣り師の真正面辺りという距離だった。
しかもその位置で朝の早い時間帯から、まだ手前を充分探っていないのではないかと思えるような頃合いから既に立ち込んでの釣りを始められた。
さすがにこれには参った。
しかし、ちゃんと声掛けもして頂いたのだからと我慢していたのだが、そもそも短いその距離が更に少しずつ短くなってきた。
譲り合いの精神というのも勿論必要だろうから、僕の方でも少し上手に釣り座を移動すれば良いのだが、移動するとちょうど振りこんで流し始める辺りで根掛かりしやすい。
人気ポイントはこういうことが煩わしいよなと思いながら場所を変えようかと考えているときに、オマツリの発生という事態になった。
仕方ない。ここはひとこと言った方が良いだろう。
我儘とかおまえの思い上がりだと言われかねないが、今朝のここの釣り座に関しては僕が先行者だし、しかも対岸の釣り師も含め、誰よりも先んじて入川しているのだ。
「いやあ・・・下の方へどうぞとは言いましたが、ちょっと距離が近すぎませんかねえ。僕が流し切る正面辺りに入られてますよね。」
しっかりとした分別のある方だとお見受けしたので、それ以上言う必要はないと考えそこまでとした。
絡んだ仕掛けに関しても気を遣って「自分の仕掛けを切ります」と言い始めたくらいだった。
実際のところは切らずに、しかも糸にもストレスなくほどけたのでたいしたオマツリではなかったが。
一方的に「おまえがもっと下流に行け」ということになりかねない言い方だったので、このオマツリを機に僕も釣り座をかなり上流に動いた。
こんなんでは今日も釣れんだろうからそろそろ帰ってもいいだろうかと思っていた時に、ふと下流に目を遣るといつの間にか先ほどの年輩の餌釣り師の方は居なくなっていた。
申し訳なかったかなと思いながらも、もし逆の立場なら僕はあの距離では入らないし、今日のところは仕方ない、運が無かったと諦めてもらうより他はないと思うことにした。
そのようなわけで周囲には他の釣り師は居なくなった。
下流の餌釣り師の方に気を遣って思い切って立ち込むことはしなかったが、そろそろいいかなと思い、釣り座を朝一番で立っていた位置より少し下流に位置して立ち込んだ。
早朝に対岸(中州)から竿を出していた餌釣り師からも届かずに、今しがたお帰りになった餌釣り師からも届かない範囲があった。
早朝から竿を出されて立ち込まれて、もしマスがこの周辺に居たならば、きっとその竿が届いていない辺りに避難するだろう。
そこを流したい、10mの竿で立ち込めば届くはずと思っていたのだが、漸く機会が訪れた。
一振り目。
思ったより深く立ち込み過ぎたようだった。
対岸(中州)の餌釣り師が流していたのとほぼ同じ筋まで届いてしまった。
二振り目。
もう少し手前を流したいと思ったが、水の中をザブザブ音を上げて後方に移動するのは避けたく、上流方向に投餌してそのまま先ほどより手前の筋を流すことを試みた。
自分より上流に仕掛けが流れているときも、竿の操作で餌が先行するようにコントロールしていたが、目印がまだ自分の真正面にも達していないときに違和感を感じた。
言葉では言い表しにくい。
「ブワ~ン」という感じで、仕掛けと竿全体に僅かな重みがかかるような違和感だった。
「ん?なんだこりゃ?」と訝りながら、もしかしたら仕掛けが岩などに擦れたり当たっているのかもしれないと考え、軽くクイッという感じで竿を煽った。
目印が明らかに流れを無視した方向に動き始め、手元に重みが伝わってきた。
これは魚だと思い瞬時に確実な合わせをいれ、更にもう一度追い合わせを入れた。
手元に重みも伝わってくるし、目印も不規則に動くし、何かが掛かっているのは間違いないのだが、一体それが何なのか、全く見当が付かなかった。
例えるなら、もしそういうことが実際に起こるとするなら、イワナがその魚体をくねらせながら小さな円を描くように泳ぎ回っているような動きで、首を振ったり走り出したりということがないし引きに力強さも無い。
ならばさほど抵抗しないのかと思い寄せようとしたが、これがなかなか動いてくれない。
でかい鯉でも掛かったのかなと竿を少し絞っていつ来るか分からない相手の走りに備えて今のうちに岸辺へ下がろうとすると、少しずつ引きに力強さが増して行き、泳ぎも速くなった。
「来るか?来るか?」と構えていると、突然凄い速さで下流に走り出した。
グッと竿を矯めるとその時点で走る方向を変え、上流方向へ、その後も下流へ上流へ、そして沖へと縦横無尽に走り回り、首を振った。
間違いなく鮭科魚類の引きだと思ったがまだ魚種は分からない。
走りが止まって少し寄ってきたかなと思うと、またいきなり目前を驚くような速さで上流から下流に一気に突っ走る。
そのような遣り取りの中で、一度水面を割ってジャンプした。
さほど大きくはなかったがアマゴか小型のサツキマスのように見えた。
しかしそのスピードとパワーから、僕が姿を見間違えただけでもしかしてニジマスかと思いもした。
弱る気配は全くなかったが、少しずつだが岸に寄ってきた。
それでも尚、目前を凄い速さで駆け抜けてローリングする。
何度かそのような遣り取りを重ねた時、突然動きが止まった。
魚体を横に向けて浮かび上がってきた。
そして流され始めた。
どうやら糸が魚体に巻き付いて身動きできなくなったようだ。
せっかく楽しませてくれていたのに残念だなと思ったが、そのまま流れに乗せて岸まで寄せてから玉網で掬った。
32cmの戻りアマゴだった。
体長こそたいしたことはないが、「筋肉質な魚体」というのはこういうことを言うのだなと納得するような凄く逞しくて体高のある魚体だった。
こんな立派な魚体には1シーズンのうち数えるほどしか出会えないだろうなと惚れ惚れするような素晴らしい魚体だった。
サツキマスではなかったけれど、こんなに楽しい遣り取りは久しぶりだったし、引きの力強さは2012年に高原川で獲った39cmのヤマメも凌いでいるような感覚があった。
写真撮影の後は暫く休んで体力を回復してもらった後、リリースするときに少し迷った。
堰の上か、或いはそのまま堰の下にリリースするか、どちらが良いのだろうと考えた。
堰の上にリリースなどという余計なことしなくても、アマゴの方で越えたくなったときに好きなように越えて行ってもらえば良いのだろうか。
仮に堰の上にリリースしたとして、そこは流れの緩いプールのようになっているし、川底の変化も少ない。
緩い流れは休むのに好都合だろうが、うまく隠れ場所を見つけられずに鳥に狙われやしないか。
かなり迷ったが、今日の一戦でかなりお疲れになったことだろう。
しかし、下流の方から、もしかしたら海からここまで遡上してきたのだし、それほどの強者なら外敵からもうまく身を隠すだろう。
ならば、今日は充分楽しませてくれたのだから、遡上のお手伝いをしよう。
このまま遡上を続け秋まで生き延び、繁殖活動に参加してもらいたいのだ。
降海と遡上の遺伝子を後世に引き継いで欲しいのだと思いながら、僕は堰の上の長良川に返した。
写真撮影がもっとうまくできればよいのだが、幅のある体高を撮ろうとすると魚体が白く反射してしまうし、銀白の魚体を映し込みたいと思うと体高が分かりにくい。
乱反射を避けて水中に居る時の魚体を撮影するとパーマークと褐色の背が浮かび、居着きのアマゴのようになってしまう。
色んな角度から撮影したのですが、皆さんならどれがお好みですかね。
当日のタックル
竿:ダイワ 琥珀本流エアマスター100MV
水中糸:フロロ1.0号
ハリス:フロロ0.8号
鈎:オーナー 本流キング9号
餌:ミミズ