アメリカの産業空洞化をなどがアメリカ大手企業の多国籍化を促進しました。アメリカ国内で製造販売することが困難となり、アメリカ大企業は国外に生産拠点、販売拠点を拡大しました。P&G,J&J,ファイザー、フォード(マツダの子会社化)などは代表的な企業です。それ以外でもアップル、グーグル、マウクロソフト、ファーストフードのマクドナルド、ケンタッキーフライドチキン、ウオールマートと西友の関係、大手金融機関などが続々と海外に進出しています。理由はいろいろありますが、アメリカの労働者の賃金水準が相対的に高くなり、製品に占める人件費比率が高くなったこと。製品の普及率が高くなり、製造販売数が限界に達したこと。それらに代わって、賃金が安い新興国、アジアなどで生産をすることで価格競争力を維持しようとしたこと。また、消費地で生産することで輸送コストなどが節約できること。普及率が低い地域で販売することで、大量生産、大量消費を促進できること。これらの現象は、アメリカのような進んだ工業国で最初に現れ、順次、その他の先進工業国といわれる国家、産業に波及してゆきました。イギリス、ドイツ、フランス、日本などがそのアメリカの産業を模倣したことで同じような道を進んでいます。
その中で、新自由主義経済の政治経済が、アメリカ、イギリス、ニュージーランドなどで実験、実践されました。政治指導者としてはレーガン、サッチャー時代です。アメリカは産業空洞化が進んだとき、イギリスは産業停滞、経済の低迷が極度に進化しました。その打開策として、新自由主義経済理論を使った政治経済運営が進行しました。労働組合、労働運動を敵視し、徹底した弾圧をその本質としています。また、利益を上げるためであればなんでもありとし、市場にすべてを任せるべきとの主張を行いました。その結果、規制緩和、国有企業の売却、民営化、労働法規の無力化などを特徴としました。また、製造業での復活が難しいことから金融機関の規制緩和を行い、資本による利益を最大化する戦略に切り替えました。イギリスの資本市場、アメリカの投資会社などが資金力を使って、あらゆる市場、商品を投機の対象にしました。
金融投資、多国籍企業の活動が国際化するにしたがって、国境、国による法律、制度の違いが彼らの障害と認識されるようになりました。そこで、まずは、アメリカ国内で多国籍企業、資金取引の利益最大化、自由化を実現し、その法律、制度を進出国に及ぼす作戦を彼らは取りました。その最終形態がTPP交渉です。多国籍企業は進出に当たって、利益を最大化させるために各国の企業の社会保障費の軽減化、法人税率の引き下げを政治に圧力をかけて、各国に競争させました。各国は社会保障費、法人税率の引き下げが多国籍企業の誘致競争課題となりました。そのために、各国は財政の赤字、減少に苦しみ、その穴埋めを消費税創設、率の引き上げで行うようになりました。同時に、多国籍企業の海外進出が雇用機会の減少を引き起こし、失業者を大量に生み出しました。その結果、国内労働者の賃金が頭打ち、低下する現象が拡大しました。これが貧富の格差拡大、中間所得層の没落現象を引き起こしました。
したがって、消費税率引き上げが社会保障の改革(向上)、財政の健全化に貢献するなどは幻想であり、彼らのうそでしかありません。
<社説:消費税率引き上げ>
いったい何のための増税なのか。疑問が募るばかりだ。
安倍晋三首相は、来年4月に消費税率を予定通り5%から8%に引き上げる方針を最終決定した。首相は会見で増税の理由について、成長率や求人倍率などの経済指標の好転を挙げ「国の信認を維持し、持続可能な社会保障制度を次の世代に引き渡す」と述べた。だが現実には、民主党政権時代に税と社会保障を一体で改革するとした3党合意は崩れ去り、改革の道筋は示せていない。国民への裏切りであり、首相の責任は大きい。
一方で、増税に伴う経済への悪影響を拭うため、5兆円規模の巨額の経済対策を打ち出した。目に余るのは企業優遇だ。国民の暮らしは物価高や賃金下落、年金保険料などの負担増に脅かされ、増税で生活基盤さえ破壊されかねない。首相が言う賃上げ策も、確たる保証はない。デフレ脱却も福祉の充実も果たせず、財政再建にもつながらない増税なら認められない。
■企業優遇の経済対策
経済対策の規模は、3%の消費税引き上げに伴う2014年度の増収分5兆1千億円に匹敵する。
これほど巨額の対策費が必要なら、増税自体に無理があったと言わざるを得ない。景気が回復軌道に乗るまで先送りすべきだった。
対策は企業への大盤振る舞いが目立つ。前倒し廃止を検討する特別復興法人税の減税分を含め、企業減税だけで約1兆8千億円に上る。防災・減災などを名目にした公共事業も1兆円超に達する。
さらに首相の強い意向で、法人税の実効税率の引き下げも速やかに検討を始めるという。
税率変更となれば恒久減税だ。増税と負担増に苦しむ国民の理解は得られまい。
首都圏など大都市と地方の格差拡大も心配だ。20年の東京五輪開催に向け、既に首都圏などの景気は回復基調が鮮明になっている。
法人税減税の恩恵を受けるのは、主に同税を納めている都市部の大企業であり、地方軽視ととられても仕方がないだろう。
景気動向が微妙なこの時期に増税を決断したのは、財政再建が事実上の国際公約となっているためだ。
日本は先進国最悪の1千兆円を超える借金を抱え、放置できる状況にないのは間違いない。
だが、巨額の経済対策で逆に財政悪化に拍車がかかりかねない。
13年度補正予算に計上する約5兆円の財源は、12年度の剰余金や復興予算の使い残しなどを充てるが、国債の追加発行に追い込まれる可能性もある。
無理な増税で財政再建が遠のけば、国際的な信用を失いかねないことを首相は肝に銘じるべきだ。
■負担増がめじろ押し
問題は、日本経済が消費増税に耐えられる状況にないことだ。
9月の日銀短観は、大企業製造業の業況判断が3期連続で改善した。だが、製造業の先行きの業況判断は悪化した。
国内総生産(GDP)の約6割を占める個人消費も先細りが必至だ。食料品などの物価高に加え、今月からは年金支給額がカットされ、厚生年金保険料も引き上げられた。
増税後には消費者物価の上昇率が4%程度に跳ね上がると予想され、家計にさらに重くのしかかる。
国民の不安が募る背景には、賃上げに期待を持てないことがある。
政府は、法人減税分が実際に賃上げに回ったかどうかを調査、公表するというが、個別企業名は明らかにせず、実効性に疑問符が付く。
日本の企業は、デフレ下でも賃下げ分などを原資として過去最高水準まで内部留保を積み上げたのに、なお経済界は賃上げに後ろ向きだ。
コスト削減が染みついた企業体質を抜本的に変え、内部留保を賃上げや雇用拡大に還元する施策が不可欠だ。首相の指導力が求められる。
■与野党協議の再開を
消費税増税法では、増税分をすべて社会保障に充てることになっている。だが、金に色は付いておらず、経済対策が膨らめば、社会保障などの既存予算を圧迫する。
懸念されるのは、同法の付則で財源に余裕ができれば、増税分を成長戦略や防災などを名目にした公共事業にも使途を広げられることだ。これを「抜け道」に、公共事業などにばらまくことは許されない。急がなければならないのは、社会保障改革を論議する与野党協議の枠組みを立て直すことだ。
政府の社会保障制度改革国民会議の最終報告は、国民に痛みを強いる内容が並び、持続可能な年金制度や医療保険制度一元化などの抜本改革を見送った。 民主党はこれを不服とし自民、公明との3党実務者協議から離脱した。放置していいはずがない。首相は率先して協議再開を呼びかけるべきだ。社会保障の将来像を国民に明示することが、政治の果たすべき最低限の約束事だ。