「南シナ海の問題では、国際協調で平和な海を実現する「行動規範」の早期策定が急務である。」「来月には米中軍事交流が予定される。「対抗」ではなく、話し合いで「行動規範」策定への流れを強める好機としてほしい。」
国と国の軍事衝突が何を両国にもたらすかは政治指導者でなくても理解できることです。まして、軍事大国、経済大国同士の衝突が世界の政治経済に与える衝撃は計りしれません。
問題を武力でなく、話し合いによって解決すべき。その原則はいかなる国であろうとも、順守しなければなりません。
<東京新聞社説>南シナ海と中国 緊張の回避へ自制を
南シナ海で中国が埋め立てた人工島の十二カイリ内に米軍が駆逐艦を派遣した。航行の自由を守る姿勢を鮮明にした米国に対し、中国は緊張を高めるような対抗措置を取らぬよう強く自制すべきである。
米国は「航行の自由作戦」とする艦船派遣について「(中国の)度を越した主張があれば、いつでもそれに挑む」と理由を示した。 中国は「強烈な不満と断固たる反対」を表明したが、今回の米国の駆逐艦派遣に反発する根拠は乏しいと言わざるをえない。
ベトナムやフィリピンなど多くの国の領有権が絡み合う南シナ海で、中国は満潮時に岩が海面に沈む暗礁を一方的に埋め立てて人工島とし、滑走路や灯台などを建設してきた。
だが、国連海洋法条約は埋め立てた人工島に十二カイリの領海や排他的経済水域(EEZ)を宣言することを認めていない。中国が国際ルールを無視して力による現状変更を強行し続けてきたことが、米艦船派遣という非常事態を招いたという自己反省が必要であろう。
九月下旬の米中首脳会談でオバマ米大統領が南シナ海問題で自制を求めたのに対し、習近平国家主席は「南シナ海の島は昔から中国の領土だ」と全く取り合おうとしなかった。
話し合いにより世界有数の重要な航路を平和の海にすべきだと訴えた米国の警告を、中国は軽く考えすぎていたのではないか。中国は南シナ海について「議論の余地のない主権」を主張するが、国際法上の根拠は希薄である。
何より懸念されるのが、南シナ海での一方的な主張や行動の背景に、習政権が訴える「中華民族復興の夢」の実現に向け、米国と中国で世界をリードしようという超大国意識が見え隠れすることだ。
米中首脳会談で習主席は「太平洋には両国を受け入れる十分な空間がある」と述べた。中国海軍司令官が訪中した米太平洋軍司令官に太平洋を二分割して管理しようと提案したこともある。
世界第二の経済大国となっても国際社会が中国を信頼できるリーダーとみなし得ないのは、国際法を重視しない自国優先の覇権的なふるまいが目立つからである。
南シナ海の問題では、国際協調で平和な海を実現する「行動規範」の早期策定が急務である。
来月には米中軍事交流が予定される。「対抗」ではなく、話し合いで「行動規範」策定への流れを強める好機としてほしい。