海外の報道機関が、4月1日消費税率引き上げ、日銀の金融緩和をどのように見ているかがよく分かる考察です。大手企業、富裕層などを利する一方で、低所得者、国民に負担と犠牲を強いるものであることを率直の語っています。
<WSJ>
東京に住む野田英夫さんは最近せっせと買い物をしている。息子のためのスマートフォン「ギャラクシー」やロボット掃除機「ルンバ」、衣料品、食料品などだ。野田さんは4月1日に消費税が5%から8%に引き上げられるのを前に買いだめをしているのだ。NPOのマネジャーを務める彼は、増税後は支出の引き締めを覚悟しており、今年の冬休みは恒例の家族旅行もあきらめなくてはならないと考えている。
彼と同じように多くの日本の世帯は、駆け込み買いのあとには支出を抑えると見られている。これは安倍晋三首相が1年4カ月前に打ち出した景気回復を目指した政策、アベノミクスにとって最大の試練になる。
この増税は、膨れ上がる社会保障費を補い、日本の経済規模の倍以上に膨張し、先進国の中で最大となっている公的債務を減らすことが目的だ。しかし、15年以上にわたるデフレのあと、日本の慎重な消費者が支出を続けると期待している政府にとっては時期が悪い。
過去の経験からしても安心はできない。1997年4月、政府が消費税を3%から5%に引き上げると、消費は急減し、また当時のアジア金融危機の影響も相まって、日本はリセッションに陥り、これは1年半以上続き、15年間のデフレへと突入した。
この1年間に行われた日銀の大胆な金融緩和策は財政出動と並んで、資産価値を押し上げ、センチメントを高め、最終的に消費を増やした。2013年上半期の日本の経済成長率は約4%と、先進国では最高を記録した。
黒田東彦日銀総裁の名前にちなんで命名された、2年間で2%の物価上昇を実現するために金融システムに大量の資金を注入する政策「黒田バズーカ」も結果として円を下落させ、日本の輸出業者の利益が改善、輸入価格の上昇でインフレにも寄与している。
消費者物価指数は多くのエコノミストの予想を上回るペースで上昇し、2月は3カ月連続で前年比1.3%の上昇を記録した。
しかし、アベノミクスのインパクトは弱まっている。金融緩和の影響力が弱まっていることから、円の対ドル為替レートは今年これまでに3%近く上昇している。輸入エネルギーコスト高による物価の上昇も弱まりつつあり、インフレ率の上昇は長くは続かないかもしれないとの懸念が強まっている。株式も今年に入って10%下落した。13年下半期の経済成長率は1%に満たなかった。
そして消費税の引き上げだ。多くのエコノミストは、今年第1四半期(1-3月)の成長率は駆け込み買いで4%以上になるだろうが、第2四半期はその反動で約4%縮小すると予想している。
当局者はこの縮小は一時的だろうと述べているが、共同通信の世論調査では、支出を減らすと答えたのは回答者の66%に上り、支出を変えない人は33%だった。また、80%近くの人は景気見通しに不安を抱いている。
政策立案者は、昨年アベノミクスの原動力となった輸出の増加が国内消費の減少の衝撃を緩和するのに役立つだろうと期待している。だが、これまでのところ輸出は期待外れだ。日本の企業が過去数年間に生産を中国などに移したことも一因となり、円安もその効果を発揮できないでいる。
増税の影響を和らげるために政府は5兆5000億円の補正予算を組んだが、公的債務問題があるため、一段の財政刺激策の余地は限られている。多くの投資家は、財政面での制約から判断して、日銀が金融を緩和するため、7月にも債券購入を増やすと予想している。
確かに、増税の負担を軽減する賃金引き上げなど明るい材料もある。春闘―そして安倍首相の再三の催促―を受けて、トヨタ自動車、パナソニックなど多くの大手企業はこの何年間かで初めてのベースアップを決めた。
2月の失業率は3.6%と、98年以来の低い水準で、消費支出が減少し、輸入価格が落ち着いてきても、賃金上昇が物価の上昇圧力を維持するとの期待を強めている。HSBCのエコノミスト、デバリエ・いづみ氏(香港)は「2月のインフレと労働市場統計は、(15年に)2%のインフレを実現できるとの日銀の確信を強めるだろう」としながらも、増税後はインフレ率が1%で横ばいになる公算が大きいことから、この目標達成には日銀の新たな緩和策が必要になるだろうと見ている。
景気を押し上げられなければ、アベノミクスへは強い反発を招く可能性がある。アベノミクスは既に、一般の日本人を犠牲にした緩和策でバブルを生み出しデフレ脱却を図ろうとする政策だ、との批判に直面しているのだ。