政治経済のグローバル化だから、農業、医療、保険などもグローバル化すべきだ。―――この理屈が本当に正当なのでしょうか。食料自給率が100%国家と自給率が50%以下の国が対等に農業政策を共有できないことは誰が考えても当たり前のことです。一時期、自給率の低い国が国外に、主食などの生産地を国として確保することが報告されたことがあります。
国が主権を確保し、主体性を保つためには、食料、エネルギーなどの自給率を高めることは同義です。そんな簡単理屈を検討もせずに、多国籍企業、輸出大手企業、アメリカ政権の要求に屈して、売り渡す安倍、山口自公政権が国家を語る資格などあろうはずもありません。
また、農業の国際競争力を語る彼らの間違いは、すべての産業が輸出、成長力、収益性で測ることに正当性があるかどうかそのことも問われなければなりません。地方再生と農業破壊は正反対の政策です。本当に彼らの身勝手で、一次産業を馬鹿にし、愚弄した態度には辟易します。
<北海道新聞社説>2016年参議院選挙 TPPと農業 問題見極め議論尽くせ
環太平洋連携協定(TPP)は、関税撤廃や大幅引き下げによる農業への打撃をはじめ国民生活に広く影響を与える可能性が高い。
参院選は、昨年10月の大筋合意以降、初の全国規模の国政選挙である。
TPPは、米国でも反対論が強まるなど問題の多い協定だ。どんな長所、欠点があるのか。各党は選挙戦で深掘りし、有権者に選択肢を示してほしい。
大筋合意では、国会決議で関税維持を求めたコメや乳製品をはじめ、重要5農産物の品目の3割で関税撤廃が決まった。決議に反する疑いが強い。
自民、公明両党は参院選の公約で、経営支援などTPP対策を講じれば農業の発展を図れるとし、海外市場の取り込みによる経済成長という利点を強調している。しかし、そうなのか。協定には米国など農産物輸出国との再協議が定められ、さらなる関税撤廃を迫られる恐れがある。将来にわたって農業を守ることができるとは言い切れまい。
野党の民進党は、重要農産物の聖域が守られていないとして、今回の合意に反対している。ところが、TPP自体の評価を避けている。そこが不可解だ。
農業への影響にとどまらず、貿易や投資分野でグローバル企業に有利なルールがつくられ、食品の安全規制などがゆがめられる懸念も指摘される。民進党はTPPの是非を正面から論じるべきだ。
共産党、社民党などはTPP反対を鮮明にしている。とはいえ、日本経済が自由な貿易なしに成り立たない以上、どんなルールが望ましいのか、語るべきだ。
それにしても、先の通常国会での政府の対応には首をかしげざるを得なかった。
交渉経緯などの情報を伏せる一方、貿易や投資の拡大で実質国内総生産(GDP)を2.59%押し上げるとの試算を示した。だが、裏付けに乏しく、楽観的すぎる。
実際、米国際貿易委員会は2032年までの押し上げ効果を0・15%と慎重な見方を示している。
だから、米大統領選では雇用悪化への懸念などから民主党のクリントン氏、共和党のトランプ氏ともTPPに後ろ向きなのだ。
TPP承認案と関連法案は、秋の臨時国会に向けて継続審議となった。さまざまな不安や疑問点は解消されていない。
承認をめぐり、拙速な判断をしてはならないのは当然だ。