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孝雄を送り出し坂口からの連絡を待つため一人事務所に残った恭子の前に意外な人物が現れます。
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妙子 「今晩は」
恭子 「あら、あなたあの時の。確か荒木さんですよね」
妙子 「ええ、荒木妙子です。その節は大変にお世話になりました」
恭子 「いいえとんでもない」
妙子 「お礼に伺わなくちゃと思いながら仕事にかまけて今日になってしまいました」
恭子 「お礼なんて、あれは仕事ですから」
妙子 「いえ、あんな夜遅くまでワタシのドジの尻ぬぐいをして頂いて、本当に感謝してるんです。有難うございました」
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恭子 「あの指輪は?」
妙子 「(左手をを見せる)ええ、ここに」
恭子 「大事にして下さいね」
妙子 「ハイ、もうなくしません。・・あの社長さんは」
恭子 「いつもならこの時間も営業中なんですけど、今日は仕事が暇な日なので臨時休業してスタッフの慰安会をする為にたった今出かけた所なんですよ」
妙子 「そうですか。・・・でしたら社長さんにはまた改めてお礼に伺いますが、これ彼が作ったお菓子です、どうぞお納めください」
恭子 「あら、ご丁寧にどうも。確か北海道白糠で和菓子のお店やっている方でしたよね、彼って」
妙子 「そうです。・・・わあ、うれしいな憶えていてくれたんですね」
恭子 「ええ。それじゃ、遠慮なくいただきます。」
妙子 「それでは社長さんによろしくお伝え下さい」
恭子 「あの、お茶でも如何ですか」
妙子 「ありがとうございます、でも彼からの定時の連絡がありますから・・」
恭子 「そうですか、それじゃ」
妙子 「失礼します」
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妙子 「・・ああ、そうだ。この前は何だか慌てちゃって気付かなかったんですけど、ここは元畳屋さんでしたよね」
恭子 「ええ、そうです。畳の立花です」
妙子 「御主人は立花徳三さんでしたよね」
恭子 「そうです」
妙子 「もしかして貴女が娘さんの恭子さんですか」
恭子 「そうです。あら、わたし名乗りました?」
妙子 「そうですか、あなたが・・・」
恭子 「なんでしょう」
妙子 「思い出したんですけど、ワタシ、畳屋だった頃のこちらに来たことあったんですよ、往診で」
恭子 「往診って父のですか」
妙子 「ええ、確か六年前だったと思いますけど、お父様が体調崩された時。院長先生普段往診なんかしないんですよ。でも院長先生がお父様と懇意にしてたみたいで特別にと、それで覚えていたんです」
恭子 「そうだったんですか」
妙子 「わたし七年前に愛三病院に移って来たんです。その時初めて担当した患者さんがお父様の徳三さんだったんですよ」
恭子 「・・・そうだったんですか。・・エッ、そんな前に病院に。血圧ですか」
妙子 「ええ、本態性高血圧症でした」
恭子 「ホンタイセイ高血圧症?」
妙子 「ええ、遺伝性の高血圧症の事です。それと生活習慣が絡み合って発症する高血圧症なんですが、随分進行してましたね、薬物治療してましたから」
恭子 「そうなんですか、知らなかった」
妙子 「たかが血圧だって軽く見ていたんでしょうね。結構多いんですよ、身内に知らせない人は」
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恭子 「あのう、病院での父はどんな・・」
妙子 「気さくな方でしたね。慣れない私に気を使って下さって、話好きのとっても面白いお父様でした。あなたの事も随分話してくれました」
恭子 「わたしの事?・・・悪口ですか」
妙子 「いいえ。・・・どうして」
恭子 「そうかなって思って・・」
妙子 「とんでもない、あなたの事は大好きでしたよ」
恭子 「まさか」
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妙子 「本当ですよ。お父さん健康には自信があったらしくって、病気の事軽く考えていたんですよ。だから降圧剤を飲んだり飲まなかったり。それでわたしがきつく注意するとニコニコしてまるで娘に叱られている様だって。だから怖い娘さんなんですかって聞いたら、とても気立てのいい子で俺とそっくりなんだ、勿論顔は母親似だがねって。お会いする度にあなたの事を話してました」
恭子 「父がそんな事を」
妙子 「・・・・六年前にお父様が亡くなった時はわたしもショックでした」
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妙子 「あら、余計なおしゃべりしてしまいましたね。すいません」
恭子 「いえ、こちらこそありがとうございます。今度お時間がありましたら父の事聞かせてください」
妙子 「ええ、それは喜んで。じゃ、失礼します」
妙子行く。恭子見送って。
恭子 「わざわざ有難うございました」
人というものの真実の顔は、一面からはなかなか見えないものですな。
次に続く。
撮影鏡田伸幸
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