序破急

片足棺桶に突っ込みながら劇団芝居屋を主宰している爺です。
主に芝居、時々暮らしの中の出来事を書きます。

プレーバック劇団芝居屋第40回公演「立飲み横丁物語」NO6

2022-11-27 19:36:34 | 演出家
さて第2場「三つの情景」から三つ目の話。「夜道」

的屋商売の再開を人知れず喜んでいる場違いな人間がいます。

表の商売は磐田金融という金融会社を経営する磐田総一。

この人の裏の顔はれっきとしたヤクザです。

それが何でと思うでしょうがそれは追々。

この総一、三年前にコロナに罹りまして生死の境を彷徨った経験がありましてね、以来健康の為に夜のランニングが日課になっております。

総一は横丁の様子を観させている手下の有村仁から祭り再開の報告を聞きます。

そうです、一場に出てきたサラリーマン風の男がその男です。



総一 「様子はどうだった」
仁 「ハイ、お元気です」
総一 「そうか、そんならいいや。ああ、客は?客は来てんのか」」
仁 「今日は、賑やかにしてましたね」
総一 「何かあったのか」
仁 「ええ、なんでも今日・・港北地区再生再興振興会議って奴が開かれたそうで・・」
総一 「ああ、ありゃ今日だったか」
仁 「ええ。そこで6月の海道神社の例祭の開催が決まったようで、瀬村組の連中や祝い客が来ましてね、ドンチャン騒ぎですよ」
総一 「・・・おいおい、大丈夫なのか」
仁 「まあ、ほとんどの人間はマスクしてましたから」
総一 「油断するととんでもねえ事になるからな、コロナに罹った俺が言ってるんだから間違えねえ」
仁 「そうですね。でも女将さんも四回目を打ってるらしいんで、その辺は抜かりはないでしょう」


総一 「そうか、そんならいいんだが・・そうか、ようやく解禁か」
仁 「ええ、皆嬉しそうでしたね」
総一 「そうだろうな、的屋にしてみれば地獄の三年間だったろうからな」
仁 「そうですよね、祭りあっての的屋商売ですからね」
総一 「このまま元に戻ってくれりゃあいいが、そうもいかねえんだろうな」


仁 「イエね、つまんねえ事なんですが、自分が社長に言われて立飲み横丁に通う様になってから、三年経ちます」
総一 「ああ、もうそんなに経つか。時の経つのは早いな」
仁 「今までは言われるまんまで訳も聞かず通ってたんですが、自分もガキの使いじゃないんで、もうそろそろそうなった顛末教えて貰いたいと思いましてね」
総一 「いやなのか」
仁 「いや違います。それどころかいい奴ばかりで、なんだか情が移りましてね。自分の素性を隠してるのが居心地が悪くて仕方ないんですよ。そんなもんですから・・」
総一 「訳を知りてえって訳だ」
仁 「ええ、素性を隠さなきゃならねえ訳が知りたいです」


仁 「もしかして社長と幾久松の女将さんとの間に何か因縁があるんですか」
総一 「・・・まあ、そういうことだ」
仁 「よかったらその因縁話を聞かしちゃもらえませんか」
総一 「・・・お前、幾久松の女将さんの素性をどこまで知ってる」
仁 「女将さんは、今、露天商組合長やってる三代目瀬村組の親分に当たる二代目の奥さんだったってくらいですかね」
総一 「あの人は初代の娘さんだ」


総一 「瀬村組ってのはな、初代瀬村宗助親分が戦後すぐに的屋稼業を真っ当な商売にしようと何かとつるんでいたヤクザと手を切って始めた、まあ、由緒ある組なんだ」
仁 「・・・それが社長と?」
総一 「仁、俺たちの稼業はなんだ」
仁 「金融会社です。磐田金融」
総一 「それは表向きよ、そうだろう」
仁 「ハイ。・・・ヤクザです」
総一 「実はよ、若いころ俺は的屋だったんだ」
仁 「エッ!」
総一 「それも初代瀬村組の飯を食ってたんだ」
仁 「・・・エッ、そうなんですか・・・」
総一 「もう、50年も前の話だ・・・」


総一 「まあ、兎に角そんな因縁があるんだ。分かったか」
仁 「わかりました」
総一 「わかったら、今まで通り行ってくれ」
仁 「ハイ」

霧笛。

総一 「(大きなくしゃみ)おお、すっかり冷えちまった。俺は行くぜ」
仁 「お送りします」
総一 「いいってことよ。いいかこれだけは忘れるな。あの横丁の連中とお前は住む世界が違うんだぜ」


さて、どんな因縁があって総一はヤクザになったんでしょうか・・・

第三場に続く。

撮影 鈴木淳


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