三郎と由美が帰った後、息子の代行と偽られ、父善三との再会した孝夫が坂口と帰って来る。
孝夫「ただいま」
範子「・・会えた」
孝夫「ええ」
範子「ごめんね、怒ってる」
孝夫「とんでもない。すごく感謝しています。どうも有難うございました」
範子「話はできた」
孝夫「いや、これといって・・・男同士って変なもんですね。病んでいる父の顔を見ていたら、胸の中でしこっていたものが溶けていったみたいで、言葉にならないんです。父もそうだったみたいで・・二人で頷き合っていました」
範子「親子ってそんなものよ」
この言葉は恭子の胸にも響いた。
坂口も今回の結果に感動を覚えていた。
坂口「こういう事になって自分もうれしいです。ありがとうございました」
途切れてしましまった親子の絆が再生していく様子を目の当たりにした恭子の胸に、何が去来したのであろうか。
孝夫「今晩は、父の傍に居ようと思います。それを直接ご報告したくて坂口さんにお願いしてきました」
範子「わざわざ有難う」
孝夫「こちらこそお気遣い頂いてありがとうございました」
恭子「孝夫さん、よかったわね」
孝夫「恭子ちゃん、有難う」
わだかまりが消えた孝夫の清々しい表情は範子親子に何かを残していった。
範子「あんたもう帰るんだろう。あたしゃもう寝るよ。今日は色々あったから疲れちゃった」
恭子の胸の中には、今の親子の関係を作り上げた自分を否定したい気持ちが湧きあがっていた。
恭子「ねえ・・」
範子「なあに」
恭子「ねえ、社長・・・お母さん」
久しぶりの「お母さん」の呼びかけに戸惑う範子。
範子「・・・なによ」
恭子「お母さん・・・今夜・・・泊まって行っていい」
範子の戸惑いは大きな喜びになって胸の中に溢れた。
しかし、その思いは素直な形には生まれなかった。
「聞きたいの。お父さんの事、もっともっと聞きたいの。ねえ、泊まっていい」
範子「バカだね、この子は!」
範子の語気に否定を感じた恭子は深い後悔を感じる。
しかし・・・
範子「良いも悪いも、あんたの家じゃないか」
範子の飾りのない言葉に、恭子の凝り固まり感情の発露を止めていた自分の枷が砕け散って行く。
二人を隔てる垣根の存在は取り払われた。
範子「はいはい、話は布団の中でね」
久しく絶えていた親子の会話であった。
範子「事務所の消して」
恭子「ハーイ」
電気の消えた暗闇に親子二人の笑い声が響く。
翌日。
何時もの様なスマイルマミーの事務所に朝が訪れる。
いつもの様な朝礼が一味違った活気に満ちたものになっているのに、説明の必要はない。
完。
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