2019年8月20日開催したシンポジウムの報告です(環境新聞より転載)
西日本豪雨から1年を経て
平成30年7月豪雨(西日本豪雨)は、九州から中国、四国、近畿、中部といった広範囲に、深刻な水土砂災害の被害をもたらした。気象庁は、梅雨前線の停滞による異常気象であるが、地球温暖化に伴う水蒸気量の増加が影響していると見解を示した。未だ復興が完了したとは言えず、被災された方々にお見舞いを申し上げたい。
1年がたった今、文部科学省「気候変動適応技術社会実装プログラム(SI-CAT)」の一環として、岡山市内でシンポジウムを開催した(2019年8月20日午後、岡山国際交流センター)。西日本豪雨のみならず、九州北部豪雨等の近年の豪雨災害が気候変動と関連すること、さらに今後に気候変動が進行するなかで、従来の防災対策に追加する気候変動への適応策が必要であることを、広く共有することが狙いであった。事前申込を断らざるを得ないほどの盛会となり、行政職員、研究者、NPO・市民等、100名を超える参加者を得た。
筆者の住民の意識と行動、前野詩朗教授(岡山大学)の岡山での被害の実態、中北英一教授(京都大学)の豪雨への気候変動の寄与度、小松利光名誉教授(九州大学)の九州北部豪雨の分析と理論枠組み、田中充教授(法政大学)の気候変動適応策の考え方と政策、中井佳絵(ボウジョレーヌプロジェクト)の広島での自主防災支援活動といった、たくさんの内容が報告された。
豪雨の原因と今後の対策
シンポジウムの要点を3点にまとめる。第1に、これまでにない豪雨を想定外で不可避であったとするのではなく、避難情報・防災情報等の発令にも関わらず逃げ遅れで多くの人命が失われたこと、浸水ハザードマップが示されていないダム直下流で大きな被害が発生したこと等を踏まえて、既存対策の点検と強化、再構築が必要となる。特に、中小河川では対策が不十分である。
第2に、気候変動のさらなる進展を踏まえて、河川の整備目標の引き上げによる防御ととともに、施設能力を超える洪水に対する減災(影響最小化)、さらには土地利用や立地誘導による被害の受けやすさの転換が必要となる。真備地区でいえば、事前のハード対策、合流点の付け替え、バックウォーターが及ぶ支川の堤防強化等とともに、施設能力を上回る超過洪水に対する対応、被災するまでのリードタイムの確保等が必要となる。
第3に、公助で行うべきインフラ対策を進める一方で、自助・共助による対策の強化が不可欠となる。夜間での避難所への緊急避難の困難を想定し、屋根上等の緊急の自主避難場所の確保、ライフジャケット等の用意等、各自できることがある。また、避難スイッチを押すための地域住民による自主防災組織の立ち上げが必要である。既に気候変動が進行するなかで豪雨災害がまた起こり得る。長期的な視点からの対策の追加とともに、緊急的な当面の対策の徹底が必要となる。
住民の意識と行動の変化
今回のシンポジウムにあわせて、筆者は、岡山県・広島県・愛媛県・山口県・福岡県住民(5県×年齢(20代~60代)×男女の50区分、合計2,600件)にWEBモニターアンケート調査を実施した(2019年6月)。結果を5点にまとめる(図参照)。
第1に、西日本豪雨の被害が大きかった岡山県と広島県では、「西日本豪雨は想定外であった」「西日本豪雨のような異常気象が今後も起こるだろう」について、「全くその通りだ」と「その通りだ」を合わせた回答率(以下、回答率)が7割を超え、他県よりも高い。
第2に、岡山県と広島県では西日本豪雨により、「警報や予報等の情報を常に得るようになった」(回答率5割前後)、「避難場所が避難経路を確認するようになった」(回答率3~4割)というような行動変化が進んだ。行動変化の定着と徹底が必要となる。
第3に、「西日本豪雨のような近年の豪雨と地球温暖化と関連する」の回答比率は、全調査県に共通して5割弱程度である。研究成果や行政見解がある程度は伝わっているともいえるが、さらに普及啓発が必要となる。
第4に、「気候変化による影響を防ぐための対策(適応策)の実施を心がけている」とする回答比率は3割程度である。問題認知に対して、行動の意図や実施の程度が低いため、具体的行動を促す支援が必要となる。
第5に、適応策に関する住民認知が低い。気候変動適応法(2018年12月制定)や行政の適応関連計画を知っているとする回答比率は1割を下回る。適応策は、既存の防災対策の強化だけでなく、長期的な視点からの対策の追加、影響を受けやすい社会経済構造の改善等を含める重要な概念である。地方自治体における適応策の検討が急務となっているが、行政内部の検討に留まらず、住民を巻き込んだ検討が必要となる。
災害があるが備えがある地域
岡山のよい所は「災害のないこと」、悪いところは「(災害がないために必要がなく)助け合いがないこと」だという。しかし、深刻な災害が起こった。これからは「岡山でも災害があるが、災害への備えがあるいい所である」と言えるようにしたい。岡山に限らず、地球規模の気候変動の進行は避けられない。気候変動リスク時代を生きる一人ひとりに、緩和策の最大限の実施とともに、適応への主体的な取り組みが求められる。