1.岩手県、宮城県、福島県の基本的動向
3県の人口増減率では、2011年3月の東日本大震災により、3県ともに人口減少が顕著となったが、宮城県は2013年に対前年比1.1%増となるなど、被災地においても地域差があることがわかる。特に、福島県では2011年に対前年比で約20%の減少となり、その後も人口減少が続いている。
県民総生産額実質額においても、福島県では2011年位対前年比で約10%の減少となり、その後に回復傾向をみせているものの、2011年の被害が経済活動としても甚大なものであったことがわかる。
FITによる再生可能エネルギーの導入件数(新規認定分)では、被災地3県ともに太陽光発電を中心に導入が活発化していることがわかる。相対的にみれば、宮城県では10kW未満の小規模な太陽光発電の導入が全国47都道府県中13位と多くなっている。1MW以上の大規模な太陽光発電の導入においても、宮城県が110件、全国で14位と多いが、福島県がそれを上回る144件、全国で10位となっている。特に、福島県において、メガソーラーの立地が活発化しているということができる。
2.岩手県、宮城県、福島県の関連計画
3県の復興関連計画、エネルギー関連計画等をもとに、再生可能エネルギーに関する政策の位置づけを表5に整理した。特徴的な傾向として、4点を示す。
第1に、東日本大震災直後に作成された震災復興計画における再生可能エネルギーに係る施策の位置づけは、岩手県と宮城県の両県に対して、福島県は構造的な意味での「脱原発」を強調している点が異なる、岩手県東日本大震災津波復興計画(2011)では、防災まちづくりとして、再生可能エネルギーの最大限の活用と防災拠点や住宅・事業所等における非常時のエネルギー調達システムの導入、自立・分散型のエネルギー供給体制によるエコタウンと産業振興の形成が示されている。宮城県震災復興計画(2011)も同様で、非常時のエネルギー確保や産業振興の観点から再生可能エネルギーを扱っている。
これに対して、福島県復興ビジョン(2011)では、原子力災害の直接的な被害を受けた地として、「脱原発」を強く打ち出している。復興の基本理念では、原子力発電所という巨大システムの制御の困難性、事故時の被害の甚大さが明らかになったことを記し、原子力に依存しない社会として、再生可能エネルギーの飛躍的な推進を強力に推進することを示している。また、一極集中型の国土政策やエネルギー政策の問題点を指摘し、地域でエネルギー自立を図る多極分散型のモデルを目指すことを示している。
福島県においても、再生可能エネルギーによる産業振興を打ち出しているものの、原子力に依存する社会の構造的な問題点を指摘し、その解消を明確な理念としている点に、岩手県と宮城県の復興計画との大きな違いがある。
第2に、岩手県及び宮城県の復興計画等では、再生可能エネルギーによる非常時の電源確保という側面を強調しているが、福島県復興計画等では防災拠点となる施設に再生可能エネルギーを優先的に導入すると記している程度である。
これは、浦上(2013)が示しているように、「福島第一原発20km圏内の自治体等は早期に遠方に避難したため、住民らは停電等を伴う長期的避難生活が未経験なこと、後に計画的避難区域に指定された地域も震災被害は少なくLPガスはもちろん、電力復旧も早かったことなど、岩手や宮城の被災地と避難所生活期間におけるエネルギー事情の差があった」ことと関係していると考えられる。
つまり、第1の点とあわせると、エネルギーリスクに係る再生可能エネルギーの特長を、岩手県と宮城県は防災時の非常用電源という側面に求め、福島県では(一極集中型のエネルギー需給構造の中にある巨大システムである原発とは異なる)制御できる分散型の技術という側面を強調して、意義づけた。
第3に、福島県では、再生可能エネルギーの計画として、福島県再生可能エネルギービジョン(2012)、再生可能エネルギー先駆けの地アクションプラン(2013)、同第2期アクションプラン(2016)を作成している。最初のアクションプランに示されるように、福島県では、「2040年頃を目途に県内エネルギー需要の100%に相当する再生可能エネルギーを生み出す」とした目標を掲げ、①地域主導(多くの県民の参加を得ながら、地域主導で再生可能エネルギーの導入を推進)、②産業集積(再生可能エネルギー関連産業を集積し、雇用を創出)とともに、③復興を牽引(再生可能エネルギーで東日本大震災からの復興を牽引)を取組みの三本柱としている。
つまり、福島県では、復興政策における再生可能エネルギーの取り組みの重視度や目標水準が異なる。「再生可能エネルギー関連産業や医療・福祉関連産業など、これからの時代を牽引する新たな産業の集積・研究開発により、経済的な活力と環境との共生が両立するモデルを世界に先駆けて提示していく」、「21 世紀が人類にとって環境問題を真剣に考えなければならない時代であるという原点に立ち返り、真に持続可能な社会モデルを国内はもとより世界に対して発信する先進地とならなければならない」、「再生可能エネルギーに係る最先端技術やスマートグリッドなど、再生可能エネルギーや関連部門の世界レベルの研究拠点の整備を図る」といった記述に示されるように、復興前の水準の回復ではなく、世界の最先端を目指すものである。
第4に、関連計画では、「主体の自立共生」に関する記述は3県ともに見られない。福島県であっても、原発事故という社会システムへの問題意識、震災復興における産業振興や復興の牽引という点が強調されている。
行政が強くリーダーシィップを発揮するという意志をもった行政計画が作成されているが、地域主導から住民主導へとさらに方針を展開していく余地がある。地域住民の期待や住民の関与の意向等を把握し、地域住民の主体性や関与による充足等を目標とした施策を検討することも必要ではないだろうか。
3.福島県における関連施策と市民活動
福島県では、最先端の水準をめざした国の研究機関や国家プロジェクトと連動した革新技術型と、地域主体の創意工夫による地域密着型の2つのタイプの事業が平行して動いている。後者の取り組みとしては、地域主導や県民総参加を重視している。地域主導のための中核的組織として「福島県再生可能エネルギー推進センター」を設置し、関連する県内企業や団体等とゆるやかな ネットワークをつくり、情報提供や相談対応を行っている。また、福島発電株式会社を設立して再生可能エネルギー事業の率先によるノウハウを形成し、地域エネルギー会社の事業運営や発電事業の保守管理を行ったり、「県民参加型ファンド」による再生可能エネルギー導入等を進めている。
このうち、2012年度に実施された「福島実証モデル事業」では、創意工夫による事業モデルを募集し、その有効性を検証し、自律的な太陽光発電の普及の仕組みづくりを目的として、実施された。これらのプロジェクトは、小規模な再生可能エネルギー事業を単発に終わらせずに、地域内で連鎖させていく仕組みとして、工夫されている。
市民共同発電事業の創意工夫は日本各地で展開されているが、これだけの工夫された事業が実践されている地域は類例がない。強い意志をもって再生可能エネルギー事業に取り組んでいる福島県ならではの成果である。
また、「福島実証モデル事業」となっていないが、福島県農民連、自然エネルギー市民の会等も、市民共同発電事業を実施している。
さらに、市民共同発電の全国調査を継続的に実施している豊田陽介氏の資料より、岩手県と福島県の市民共同発電の経年設置数の推移をみると、福島県において、市民共同発電の設置数が2015年に急増したことがわかる。これは、福島県全体として、市民共同発電所の設置を促す施策を展開し、その成果が顕在化したことにほかならない。なお、宮城県ではこの時点で市民共同発電が設置されていない。
参考文献
岩手県,2011,岩手県東日本大震災津波復興計画 復興基本計画
宮城県,2011,宮城県震災復興計画
福島県,2011,福島県復興ビジョン
浦上健司,2013,東日本大震災復興計画における再生可能エネルギー施策の実態と課題 : 津波被災地, および東京電力福島第一原発事故避難区域の市町村を対象として,農村計画学会誌 31(4), 581-588.
福島県,2012,福島県再生可能エネルギービジョン
福島県,2013,再生可能エネルギー先駆けの地アクションプラン
福島県,2016,第2期再生可能エネルギー先駆けの地アクションプラン
豊田陽介,2016,市民・地域主体による再生可能エネルギー普及の取り組み 「市民・地域共同発電所」の動向と展望,法政大学サステイナビリティ研究所「サステイナビリティ研究」,5,87-100.
注) 上記文章は、下記論文より、一部を抜粋したものである。
「被災地における再生可能エネルギーによる地域社会の構造的再生~行政施策と住民意識の状況を考える」白井信雄、サステイナビリティ研究Vol.7、2017年3月