*「地方自治職員研修」2019年7月号の巻頭「自治、来るべきもの」に掲載された記事です。
●これまでになく、動いた2010年代
2011年の東日本大震災時の福島原子力発電所の事故以降、固定価格買取制度(FIT)の施行、小売りにより再生可能エネルギー(再エネ)発電の事業採算性が高まった。これにより、太陽光を中心とする大規模な発電所の立地、個人住宅への太陽光発電の設置が活発化するとともに、市民出資による小規模な発電所(市民共同発電)事業が活発化した。
滋賀県湖南市、愛知県新城市、長野県飯田市、兵庫県宝塚市、神奈川県小田原市等のように、地域資源としての再エネを地域主導で利用する理念や仕組みを条例で定める地域も現れてきた。
2016年4月からは、電力小売の完全自由化が導入され、群馬県中之条町、福岡県みやま市、滋賀県湖南市等は、地域新電力会社を設立し、再エネの地産地消の実現に向けて、動き出した。
●2010年代の動きが持つ意味
FITの買取価格の低下や立地に伴う地域でのコンフリクト、電力会社の系統接続回避等もあって、再エネの新規導入が減速する傾向にある。しかし、2010年代における地域主導の再エネに関する取組みは、今後の地方自治の新たな可能性を示してくれた。
1つめに、それまでは地方自治のテーマとなることがなかったエネルギーの選択(エネルギー自治)への踏み出しである。再エネは、分散型で地域に身近に存在し、比較的小規模で簡易な技術で利用できることから、地域の主体が自分たちで生成し、利用することに馴じみやすい特性を持ち、エネルギー自治の手段となりえる。
2つめに、地域における再エネ事業は行政、市民、企業等の連携で導入されることから、個別主体の協働の新しい形を切り開く可能性がある。再エネ事業は、公益性を持ち、市民も参加しやすく、地元企業も参画できる事業である。
3つめに、地域資源を活用して、地域内の経済自立を図る可能性である。再エネ事業は、地域内での連鎖的な生産と消費を活発化させ、エネルギーを地域外に売ることで地域外からお金が入る。また、エネルギーを地域で賄うことにすれば、地域外へのお金の流出を内部に止まらせる。
4つめに、地域課題の解決、防災(レジリエント)、気候変動(地球温暖化)防止といった「公正と安全、環境共生」に関する課題の同時解決の可能性である。例えば、再エネ事業の収益を用いた地域課題の解決に貢献する事業の創出、地域新電力における高齢者の安否確認等の付帯サービスの提供等が先進地域で実施されている。また、再エネは災害時の電源として利用することができ、自然災害等に対する地域の安全・安心の向上(リスクとの共生)に寄与する。加えて、枯渇性資源の消費や二酸化炭素の排出が少ない再エネを通じ、気候変動防止に貢献することができる。
5つめに、エネルギーを作ることや使うことに対する自由な関与、そして、エネルギーに関与することを通じた人や環境との共生による、真に解放された人間としての悦びを再生していく可能性をあげる。この共生は、押し付けられたものではなく、自らの節度によるため、他者との連帯感や合一感をもたらし、悦びを得ることができるものとなるだろう。
●これまでとは違う社会の選択
筆者は、再エネによる地域再生を進める全国各地の動きを調査する中で、ボトムアップによる社会転換が動きだしていると感じた。各地の動きの先には、これまでの社会とは異なる代替え社会への転換が拓けていく。
代替え社会を表わすキーワードは「自立・共生」である。これは、「工業化と都市化」のいう慣性を持ち、中央集権・行政主導・大企業優先で築かれてきた、一見強固なようでいて、実は均質的な価値規範と脆弱な構造を持つ社会(「依存・疎外」型の社会)を、地域から転換していくといくことで実現していく社会である。「自立・共生」型社会の具体像を示そう。
・この社会では、エネルギー・食料・福祉が地域の資源・人材・資金で賄われ、地域内の物質循環・経済循環が形成されている。
・地域住民は地域活動や行政施策に好んで参加し、住民主導で地域づくりが行われ、行政はそれに寄り添い、サポートを行う。
・かといって、閉鎖的ではなく、地域外からの情報ネットワークがあり、交流人口(関係人口)が多い。
・技術は、適正な規模な再エネによる発電や熱供給のように小規模分散型、地域で制御できるものが使われている。
・行政の制度も、民主的に決定され、住民の参加と自主的な取り組みを支援する仕組みが整備されている。
・住民は他者を思いやる社会意識を持ち、関心を広げ、深めるような学習機会がふんだんにある。地域に愛着と誇りを持ち、変化を恐れず、主体性の発揮と連帯の悦びに満ちている。
●ワークショップから始める
買取価格が下がり、採算の高い経済事業として再エネ発電が活発化する状況ではなくなっている。しかし、再エネは経済事業としてだけでなく、代替え社会の実現に向けた地域づくりの道具として、有効である。
今後、再エネによる地域づくりを進めるためには、再エネを何のために導入するか、再エネを通じて、どのような社会を目指すのか、そのために誰が何をするのかを明らかにするための、地域内の関係者によるワークショップが必要である。
筆者は、再エネによる地域づくりの目標の5つの側面とそれに対応する15のアジェンダ(5つの目標×3項目)を作成して、地域の主体が地域の現状と今後のあるべき取組みについて、自己点検を行い、結果を共有し、現状と今後についての話し合いを行うワークショップを実施した(長野県上田市と滋賀県湖南市、2017年秋)。
この結果、再生可能エネルギー事業を踏まえて、さらにより多くの参加と経済的広がりを持たせようという方向性が共通して示された。一方、2地域、各グループ、あるいは参加者個人によって、重視するアジェンダが異なることが確認できた。さらに、関係主体が継続して、目標とアジェンダを検討・共有していくことで、より共有すべき大きな目標像が描かれるだろう。
再エネによる地域づくりの先進的な取り組みが全国各地で展開されてきた今、その経験や成果を共有し、持続可能な社会の未来を地域から描き、実践していく流れを強めていくことが期待される。地域行政はその率先者、調整者、推進者として、役割を発揮していくことができるだろう。