本連載では、長野県飯田市、滋賀県湖南市、長野県上田市、神奈川県小田原市、岡山県西粟倉村、岐阜県郡上市、秋田県にかほ市、福岡県みやま市といった8つの先進地、そして、韓国の済州島、福島県内の4地域の取組みを紹介してきた。今回と次回に分けて、各地の取組みから学ぶべき点をまとめる。
●再エネの中核的事業体の立ち上がりと地域内の連携
筆者は、再エネによる地域再生の目標として、(1)エネルギーの自治、(2)対話とネットワーク、(3)地域経済の自立、(4)公正と安全・環境共生、(5)地域主体の自立共生、といった5つの側面を設定している(5つの側面の理念や詳細は、拙著「再生可能エネルギーによる地域づくり~自立・共生社会への転換の道行き」を参照)。
この5つの側面について、8つの先進地で実施されていることを抽出し、集約して、15のアジェンダに表にまとめた。表には、最小公倍数として整理したアジェンダに対する各地域の実施有無を示した。8地域の傾向として3点をあげる。
第1に、各地域に共通していえることは、地域主導で再生可能エネルギー事業を担う中核的組織が立ち上がり、そこに地場企業、市民ネットワーク、地域組織、大学等が関与して、連携関係が築かれていることである。地域内の経済循環、地場企業の活性化等も図られている。
第2に、各地域では、すべてのアジェンダを実施しているわけではなく、各々の状況に応じた取組みを実施しており、またアジェンダに該当する取組みがあるとはいえ、限定的である場合も多い。つまり、設定したアジェンダに対して、各地域の今後の取組みに余地がある。例えば、市民共同発電事業が中心となってきた地域では、地域経済の活性化に寄与するような規模や範囲の拡大が今後の課題となる。
第3に、非常時の電源確保や気候変動防止といった側面を明確にしている地域もあるが、それらの目標を明示していない地域も多い。先進地域における取組みは、地域資源としての再エネの地域主導による利用と地域経済の活性化が主眼であり、公益的側面は副次的なものである。
●韓国済州島と福島県内の動き
表には韓国済州島におけるカーボンフリーアイランドに向けた取組みの状況を追記した。済州島では、利潤追求の目的で済州島の風力発電事業に進出する大企業に対して、住民の反対運動が活発化した。環境運動連合が「風資源の公共化(公風化)」という観点を環が提案し、済州政府は、「公風化」を実現するために、風力発電事業を担う済州エネルギー公社を設立した。2016年には、「済州特別自治道の風力資源の共有化基金条例」を制定し、風力発電の収益を地域に還元する仕組みを整備してきた。こうした取組みは、地方政府主導ではあるもののと、国内8地域同様に住民参加を高める方向に動き出している。
福島県内の南相馬市、いわき市、白河市、会津地域における地域主導の再エネ事業については、地域全体の動きを把握するものではなかったため、表には記載しない。しかし、これらの動きは、脱中央集権と脱原発という明確な意志を住民や地元企業が示したものであり、「エネルギーの自治」という意図をより強く持った取組みである。
●第5次環境基本計画の記述は限定的に過ぎる
さて、国の第5次環境基本計画では、6つの重点戦略の1つに「地域資源を活用した持続可能な地域づくり」を掲げ、その具体的戦略の最初に「地域のエネルギー・バイオマス資源の最大限の活用」を記している。そして、同計画では、再エネの活用の意義として、低炭素化という環境課題への貢献はもとより、①地域のエネルギー収支の改善と足腰の強い地域経済の構築、②再生可能エネルギーに関連する事業等を併せて行うことによる新たな雇用と地域の活力の維持・発展への貢献、③災害時のレジリエンスの向上と国土強靱化といった3点の効果を示している。
同計画は、再エネによる地域づくりを、地域経済とレジリエンスの側面で意義づけている。しかし、地域の動きは、そうした意義に収まるものではない。表の枠組みでいえば、(1)エネルギーの自治、(2)対話とネットワーク、(5)地域主体の自立共生、といった側面にこそ、地域主導の動きの本質があり、そこを軽視してはならない。再エネという地域資源を外部に収奪されることなく、地域の主体が活用する、それを通じて地域の主体間の関係性を強め、地域の主体の学習と成長を促す。先進的な地域の取組みは、そうした側面を重視して実践されている。
次回は、再エネによる地域づくりにおける課題と今後のあり方をまとめる。