醸楽庵だより

芭蕉の紀行文・俳句、その他文学、社会問題についての評論

醸楽庵だより  644号 今井聖氏の名句検証について   白井一道

2018-02-07 13:12:45 | 日記

 今井聖氏の名句検証 「白牡丹といふといへども紅ほのか、ばばばかと書かれし壁の干菜かな」について


句郎 「白牡丹(はくぼたん)といふといへども紅(こう)ほのか」という有名な高濱虚子の句があるでしょ。この句より「ばばばかと書かれし壁の干菜(ほしな)かな」というそれ程人に知られていない虚子の句の方が、句として優れているのではないかということを今井聖氏がNHK俳句の時間、「名句検証」とコーナーで述べたという話を聞いた。華女さんはどのように思う?
華女 今井さんの勇気というのかしら、そんなものを感じるわ。
句郎 今井氏の意見に華女さんは賛成なの、それとも反対なのかな。
華女 今井さんが「白牡丹」の句より「ばばばかと」の句の方が優れているという理由は何だったのかしら。
句郎 「白牡丹」の句には子規の唱えた写生と虚子が唱えた花鳥諷詠がある。しかし俳句は一瞬を表現するもの。映画のワンカットのようなものだ。こういう点からいうなら「ばばばかと」の句の方が具象的に表現されているということなんじゃないのかな。
華女 今井さんと虚子の俳句観が違っているということなのね。
句郎 俳句観が違うということなんだ。華女さんはどちらの俳句観が俳句だと思っているの。
華女 私は保守的だからね。今井さんの意見には賛成できないわ。「ばばばかと」の句より、「白牡丹」の句の方が美しいと感じるわ。そう思うでしょ。
句郎 そうなのかな。確かに「白牡丹」の句の方が「白牡丹」が表現されているように感じるな。白牡丹の高貴さのようなものなのかな。
華女 「紅ほのか」という下五が決まっているのよ。
句郎 もし。芭蕉が生きていたらどちらの句を取るかな。華女さんはどちらの句を取ると思う。
華女 分からないわ。でももしかしたら「ばばばかと」の句の方を取るのかなと思ったりもするけど、「白牡丹」の句を取ると思うけど。
句郎 華女さんがちょっと迷った理由は何だったのかな。
華女 「氷苦く偃鼠が喉をうるほせり」という芭蕉の句を突然思い出したのよ。「ばばばかと」の句に一脈通じるものがあるように感じたからなのよ。
句郎 私も芭蕉は「ばばばかと」の句の方を取るのではないかと思っていたんだ。俳句は笑いが始まりだからね。「白牡丹」の句には笑いがないからね。強いて言うなら「白牡丹」の句には和歌的な美しさがあるのではないかと考えているんだ。俳諧の世界の美しさではないように考えているんだ。
華女 「ばばばかと」の句には、笑いがあると言うことなのね。
句郎 そういうことなのかな。庶民の日常生活にある笑いというか、無邪気な子供の姿が表現されているということなんじゃないのかな。
華女 「白牡丹」の句は、確かに和歌的な世界なのかもしれないわ。芭蕉には牡丹を詠んだ句があるのかしら。蕪村にはあるみたいだけど。
句郎 「牡丹蘂(しべ)ふかく分出る蜂の名残哉」という句があるが、牡丹そのものを詠んだくではないみたいだ。
華女 牡丹の花は俳句の花ではないのかもね。
句郎 そうなんだよ。