醸楽庵だより

芭蕉の紀行文・俳句、その他文学、社会問題についての評論

醸楽庵だより  726号  伝統文化を思う   白井一道

2018-05-10 13:29:04 | 日記


  伝統文化を思う 


 数年前の大晦日恒例の「朝まで生テレビ」という番組を見た。その番組に日本共産党国会対策委員長の穀田恵二さんが和服姿で現れた。似合っていると思ったが違和感があった。着物も高級なもののように見える。共産党のイメージじゃない。こう思った。二〇一二年十月二三日放送されたニコニコ動画に日本共産党を紹介する一時間の番組があった。この番組に穀田恵二さんがやはり和服を着て出てきた。
「穀田さん、和服ですね」と司会役の日本共産党政策委員長の小池晃さんが穀田さんに話しかけた。「そうですねん、小池さんが和服着て来いと言わはるから着てきたんです」と穀田さんは京都弁で答えた。この会話を聞き、日本共産党に伝えたい主張があるのだなと感じた。
 小池さんは穀田さんの羽織を摘み、「これは西陣織ですか」と聞いた。「そうです。西陣織は京都の伝統産業ですからな。私、今日足袋を履いて来ました。今や京都でも足袋を作る職人さんは一人きりになってしまいました」と穀田さんは地場産業としての伝統産業が衰退してきていることを嘆いた。
小池さんは日本各地で地域懇談会を開いている。この懇談会に出て来てくれる商工会議所の方たちや中小企業の方たちが驚かれるのは日本共産党に経済成長戦略があるということなんですと、穀田さんに話を向けると「私は京都の伝統産業を宣伝するために着物を着てテレビにでているんです」と穀田さんは発言した。着物を着てテレビ討論番組に穀田さんが出るのは西陣織のコマーシャルだったんだと、納得した。初めて穀田さんの和服姿を見たときには論客の中でただ一人の和服姿に気障だと思ったが理由があった。実はこの違和感に日本共産党の主張があったのだ。
 保守政党を自認する自民党総裁だった京都選出の谷垣禎一氏など和服を着てテレビに出演すれば違和感なく見えるように思うが谷垣氏の和服姿などテレビでは見たことがない。伝統保守の自民党のイメージと日本の着物文化とは相性がよさそうだ。自民党は伝統文化や伝統産業を守り、支え、発展の道を探る政党のようなイメージがある。
伝統産業は今や小規模企業、支えている人の高齢化が進んでいる。衰退産業である。私が住む埼玉県春日部市にも伝統産業がある。今から三十年ほど前までは桐箪笥製造の小規模工場がいくつもあったが、今やほとんどなくなった。数年前、桐箪笥製造の一番腕のよい職人さんが桐箪笥作りでは生活できないという話を聞いた。ワーキングプアの世界が我が住む街にあった。春日部には桐箪笥を売る大きな家具屋さんが何軒もあったが今や一軒の家具屋もない。桐箪笥を作る職人さんたちの仕事はなくなった。自家製造していた家具屋の主人たちの中には職人さんたちの生活を思い、財産を食いつぶし、限界まで職人を抱え、頑張った人がいる。
「オヤジは俺たちのことを思ってよ、毎月赤字でも頑張ってくれているんだ。気の毒でよ。そう言ってもよ、俺たちだって、生活あるべ、だから今までだったら引き受けなかったようなつまらない仕事でも請けるようにしているんだ。それでも限界があるべ、だから店を辞めることにしたんだ」。
 居酒屋で仲良くなった箪笥職人さんから酒を飲みながら聞いた話である。職人さんたちは主人を気の毒に思い自ら身を引いた。伝統産業には人情があった。主人は職人さんを思い、職人さんは主人を思う。互いに思いやりをもつ、人情の伝統があったが、伝統産業が衰退していくと街から人情もまたなくなっていった。
 保守政党には伝統文化や伝統産業を守り、支えていく政策があるのだろうか。地場産業を守る保守政党の選挙用政策はあるかもしれないが本気になって取り組む気持ちはあるのだろうか。衰退産業に金をかけるのは経済合理性に反する。もっともっと成長産業にお金はかけなければいけない。国際競争に勝てるよう企業は大規模化すべきだ。効率化しなければいけない。大企業を優遇してこそ日本の発展はあるのだ。大企業が発展すればそこから富の分け前がこぼれ落ちてくる。トリクルダウンなどという横文字を使い、権威をもった経済学者が保守政党の政策を新聞、テレビ、雑誌で宣伝する。
 広告・宣伝の巨大企業、電通には国民に消費を促す十か条がある。買わせろ、飽きさせろ、捨てさせろ、流行遅れにさせろ、これらが国民に消費を促す宣伝、広告の原則だ。自分で好きなものを買っているつもりにさせる。これが消費させる戦略だ。消費は美徳なりの生活を普及した。これが保守政党政治の成果だった。
 母が嫁入りしたときに持ってきた箪笥を娘は職人さんに作り直してもらう。母から娘へ、娘から孫娘へと引きつながれていく桐箪笥のようなものは消費を喚起しない。同じように娘が母の着物を壊し、仕立て直しをする。このような伝統文化は経済を成長させない。伝統的なものは流行おくれにする。新しい家具、洋服を次々買わせては捨てさせる。これが経済を成長させる。このような政策を推進してきたのが保守政党だった。これが国の政策である以上、地場産業としての伝統産業は衰退していく運命にあった。保守を自認する政党は本当に日本の伝統産業を保守してきたのだろうか。
 地場産業としての伝統産業を守り、新しく発展の道を探る政策は保守政党にはない。伝統文化や伝統産業を守り、発展の道を探る政策を追求する政党は保守政党ではなく、革新政党である日本共産党である。このような主張を象徴するものが穀田さんの西陣織の着物姿なのかもしれない。