*****ご注意!!! 一部ネタバレを含む可能性があります*****
直木賞候補作家の須賀しのぶ
本作品では第18回大藪春彦賞受賞しています。
久しぶりのスパイ・ミステリー小説かな、と手に取りましたが、歴史小説の色合いの方が近い
ベルリンの壁が東西ドイツを分断していたころに、ピアノに集中したいと東ドイツに留学してきた日本人眞山柊史 が主人公
東ドイツ到着時に昭和天皇崩御を告げられる場面がある。
平成元年(1989年)はまだ東西分断時だったんだ、と思った。
東西ドイツがあったことも知っているし、ベルリンの壁は私の若い頃は悲劇の恋愛物語によく使われていたなぁと思い出した。
ベルリンの壁崩壊は平成になってからだったか・・・と自分の記憶のあいまいさに戸惑ってしまった。
ベルリンの壁が崩壊する直前の不穏な空気の中、留学生眞山が巻き込まれていってしまう。
ハンガリー、北朝鮮、ベトナムと当時東側陣営と言われた国の留学生と西側、それも日本から来た眞山の世間知らずとも言える認識の甘さの比較は今も国際情勢を対岸の火事のように見てしまう日本人を描いているようだ。
物語の流れを沈静化したり、動かしたりする場面に眞山が取り組むピアノ曲が効果的に使われている。
本作品では眞山が崇拝するバッハが多く使われていて、どの作品も聞いてみたいと思わせる描写で、ヨーロッパの教会の姿を想像するのも楽しかった。
作品最後に出てきたフィデリオ(ベートーヴェン)にも多いに興味をそそられた。
以前は多くのスパイ小説を未知な世界としてスリリングな気持ちで読んでいたが、今は年齢を重ねた分、別な角度・視点での未知な世界に改めて興味持ちながら読むことができた。
家族を捨てて亡命する際は覚悟や選択をする非情さなのか、心を殺すのか。
残された家族が冷遇され、特に子供は能力があっても叶わないと思わせる社会
反政府思想の行動をしていないか互いが見張る社会
圧倒的な物資の不足や劣化製品に囲まれた生活で西側に憧れる一方で、自国を信じたい思いとの葛藤
東陣営で生きていくという意味などなど。
集団を維持する、集団で生きる、ってなんなんだろうとコロナ禍にあってより強く考えてしまう。
他の須賀しのぶ作品も是非読んでみたい。