こじらせ女子ですが、何か?

心臓外科医との婚約を解消して以後、恋愛に臆病になっていた理穂。そんな彼女の前に今度は耳鼻科医の先生が現れて!?

残酷な庭で遊ぶ子供たち。-【2】-

2021年06月29日 | 日記

(※萩尾望都先生の漫画『残酷な神が支配する』のネタばれ☆を含みますので、閲覧の際は一応ご注意くださいm(_ _)m)。

 

 さて、今回はあんまし書きたくもない、「変態グレッグの精神病理的なもの」について、だったりします(^^;)

 

 わたし、怪物グレッグについては、最初に読んだ時にも「グレッグ、マジきっしょ☆」と思いましたし、今回も「グレッグ相変わらずキショいな~☆」と思い、たぶん今後十年後に読み返しても、二十年後に読み返してみても――きっと同じように「グレッグ、きっしょ!」、「マジきっしょ!!」と思い続けているでしょう(笑)

 

 でも最初に読んだ時には、「破綻した異常人格者」としか見えなかったグレッグ氏ですが、今回読んで思ったのは……意外にも、「この人実は結構普通の人じゃね?」ということだったかもしれません。

 

 それが、前回書いた「そこで起きたことは絶対にバレないし、法的に訴えられることもなければ、社会的に恥を見ることもない……」という前提さえあれば、大抵の男性というのはグレッグと化すだろう――ということの意味だったりします。

 

 そうした意味では、グレッグは実はいつでも社会のどこかに存在する人であって、人格の破綻した気味の悪い異常人格者というより、こういったタイプの四十八歳くらいのおっさんなんて、ある意味どこにでもいると言えるのではないでしょうか。

 

『残酷な神が支配する』の物語のほうは、不幸な偶然からはじまります。対になったサクラの唾……じゃなくて、鍔の片方ずつを、グレッグとサンドラがそれぞれ所有していたことから、彼らはこれを「幸福な運命」として、短い交際ののち、結婚することを決意します。

 

 そのですね、わたしサンドラって最初に出てきた時からなんとなく苦手でした(^^;)もちろん、わたしが男性だったら、「なんて綺麗な人だろう!」という感じで、好意しか持たなかっただろうことは間違いないのですが、漫画としてというか、物語として読む分には、「うっわー。オレ、こーゆー女ぜってームリ……」というのが、第1巻の最初のほうを読んだわたしのサンドラに対する第一印象です。

 

 そして、サンドラと肉体関係を持ったのみならず、その息子のジェルミくんにも、まるで当たり前のように手を出すグレッグ氏。怪物グレッグは、「サンドラと君を愛してる!」と、頭のおかしいこと言ってますが、読者としてはどうにも「ジェルミのほうが本命」といったようにしか思えません。

 

 そして、「愛とは奪うことだ」という、変態グレッグのジェルミくんに対する狡猾にして残忍な性的搾取がはじまるわけですが、ここで先に、「愛と支配欲は表裏一体」ということについて、少し書いてみたいと思います。

 

 最初の奥さんだったリリヤさんに対してもそうですが、グレッグ氏の愛の示し方は常に支配的なものだったのではないでしょうか。なんでもこの支配欲といったものは、自分が「好ましい」とか「可愛い」、「綺麗だ」と感じる物、またそのように感じる対象(人物)に対して、誰もが無意識のうちにも持っているものだそうです。

 

 たとえば、わたしがペットショップへ行って子犬や子猫を見て「可愛い」と感じることの内には、必ず支配欲が愛情と表裏一体な形で存在しているものだと、昔何かの本で読みました

 

 普段、わたしたちは誰かに対して愛着を感じたとしても――また、相手のことを「愛している」と思ったとして、それと同時に「支配したい」とまでは、そんなに強く意識したりはしませんよね(^^;)

 

 でもグレッグ氏の場合は、この支配欲ということが、本人も自覚しているとおり愛よりも強く前面に出てくる。さながら、愛という表面の仮面を剥いでしまえば、その下には暴力的なまでの支配欲しか存在しないかのように……。

 

 グレッグのことを考える上で、この<支配欲>というのは、かなりのところ大きなキィワードのような気がします。そもそも、グレッグが男性との恋の遊びを覚えたのは、男子校でのことだそうですが、彼は本当にバイセクシャルだったのかどうか、というのが、今回読んでいて結構気になりました。

 

 つまり、グレッグもまた、息子のイアンと同じように、基本的には女性が好きで、時折男性ともそんな関係になる……くらいのスタンスであるように一見みえます。また、グレッグが怪物として醸成されてゆく過程として、お互い浮気していたという彼の両親のことや、大学時代につきあった女性に振られて落ち込んだことなどが、一応さり気なく語られているわけですが、わたし自身はグレッグはたぶんイアンとは違い、「本当は男性のほうが好み」なタイプのバイセクシャルな人なんじゃないかなと思ったというか。

 

 でも、自分の社会的立場としては、女性と結婚して子供を作る必要がある……ここで、本人がそう自覚しているかどうかは別として、相当性的に自分を抑圧し続けてきたんじゃないかなと思いました。

 

 また、グレッグはリリヤさんと結婚するに際して、喧嘩ばかりだった醜い自分の両親を反面教師とした、完璧な家庭を築こうと決意していますが――そのですね、本当の性的嗜好がゲイの男性が女性と結婚した場合、結婚の途中で奥さんが浮気するっていうのは、よくあることだって言いますよね。セックスのほうが淡白で物足りないか、あるいは子供が出来たあとはまったくのセックスレスになったとか、そうした理由によって(^^;)

 

 グレッグはリリヤの浮気について、「幸福な結婚生活のために、自分は完璧になんでもしてやったろう?」的に彼女を責めていますが、わたし自身は何かこう……「俺はこんなにも幸福な結婚生活のために、自分の性的嗜好さえ抑圧し、色々なことを犠牲にして社会人としてガンバってるんだぞ!それなのにおまえは……」といったような、グレッグ氏の心の闇ってそこらへんにあるんじゃないかなって思ったりしたというか。

 

 性的嗜好云々といったことを抜きにしても、「幸せな家庭のために、こんなにガンバッテル自分」を、当の家族ですら何故正当に評価してくれないのか――みたいなことでは、グレッグ氏と同じくらいのおじさんなら、そう強く自覚してなくても、必ず思ってる部分がある……という意味で、そうした部分でもわたしにとってグレッグは怪物というより、どこにでもいるフツーのおじさんといった気がしました(^^;)

 

 ただ、他の方の場合は「もっと評価されていいはずの自分」には、もっといいことがあっていいはずだ……なんて思いつつ、「まあ、フツーのおっさんの人生なんてのはこんなものか」といった感じで、奥さんや娘さんに隠れてエッチな雑誌読んだりとか、その手のお店にこっそり行くとか――それがたぶん一般社会的には「普通のおじさんの人生」と呼ばれるものなのかもしれません。

 

 ところが、グレッグ氏は見つけてしまったわけです。<処罰の檻>の中へ閉じ込めて、週末ごとにこの上もなく可愛がり、心から愛することの出来る、自分の生贄を……また、グレッグはナターシャを十年にも渡ってぶって来たということでしたが、彼は本来ならリリヤの背中をぶって罰を与えたかったのかもしれませんが、死んだ元妻の背中にそうすることはもう出来ません。そこで、最初はリリヤの姉のナターシャ、彼女が耐えられなくなって逃げると町の売春婦たち……といったように、グレッグの止まらないサディズムは、<女性という性全般>に向けられているように感じられます。

 

 それはおそらく、自分の父以外にも愛人がいた浮気性の母親を罰するものであり、大学時代に自分に苦い思いを味わわせた遊び女であり、さらにはこの上もなく妻として良くしてやったはずの裏切り女であるリリヤを罰するものでもあった。「ブルータス、おまえもか……!」ではありませんが、この場合グレッグは「リリヤ、おまえもか……!」という、何かそんな感じだったのかもしれません。

 

 とはいえ、ジェルミは女性ではないのに、グレッグはどうして彼のことをもぶつのみならず、ありとあらゆる行為をエスカレートさせていったのでしょうか?それはおそらく、<囲い込みの心理>というものではなかったかと、個人的にはそんなふうに思いました。

 

 女は必ず裏切る。だが、ジェルミはグレッグの本来の性的嗜好を満足させてくれるのみならず、彼にしてみればサンドラという弱味を押さえているがゆえに、<処罰の檻>の中ではどんなことでも許される……しかも、読んでいてさらにキモいのが、サンドラに宝石や旅行をプレゼントすることによって、ジェルミに対してしていることはこれで許されるんだとばかり、グレッグの中ではそうした形で良心(そんなものがこの男にあるとして)のバランスを取ることが出来るらしい――とか、読んでてつくづく「おえっ☆」となるところがまた、演出として憎らしいと言いますか、なんと言いますか(いえ、ほんとジェルミが可哀想で、グレッグに対しては胸糞悪くなるばかりではあるのですが^^;)。

 

 こうして、完全にグレッグに囲い込まれた形のジェルミくんは、この<処罰の檻>から自分が出ていくためには、もうグレッグを殺すしかないと、グレッグ殺害計画をとうとう実行へ移します。もしこの時、細工した車に乗ったのがグレッグだけだったとしたら……イアンやマットたちは、屋敷の庭をスキップしたり、フレンチカンカンを踊ったりするジェルミを見て――「あいつ、親父が死んだっていうのに、なんなんだ」とか、「キスされたりして気持ち悪かったから、ジェルミは父さんが死んで嬉しいんだよ」みたいに言われていたかもしれません。

 

 けれど、サンドラのためにこそ、ずっと犠牲の生贄となり続けてきたジェルミだったのに――グレッグの運転していた車の助手席に自分の母親も乗っていたと知り、まるで焼かれた生贄のような焼死体であるサンドラの遺体を見て……ショックを受けるジェルミくん。「こんなはずじゃなかったのに」、「死ぬのはグレッグだけのはずだったのに」……自分の計算が狂ってしまったことで、絶望と罪悪感のどん底へと突き落とされるジェルミ。

 

 ではでは、次回は絶望と罪悪感のどん底にあるジェルミくんの魂に救いと心の快復はあるのかどうか……その道筋を、一読者としてわたしなりに辿ってみたいと思いますm(_ _)m

 

 それではまた~!!

 

 

 

 


この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 残酷な庭で遊ぶ子供たち。-... | トップ | 残酷な庭で遊ぶ子供たち。-... »
最新の画像もっと見る

日記」カテゴリの最新記事