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(※映画「マトリックス」に関してネタばれ☆があります。一応念のためご注意くださいm(_ _)m)
「マトリックス・レザレクションズ」を結構前に見ました♪
いえ、超有名作で、1~3見てる方はかなりの高い確率でレザレクションも見てるだろう――という意味で、あらすじ書いたり、感想書いたりするのはあえて控えようと思うのですが、自分的にはとても面白かったです
ネオ役のキアヌ・リーブスも、トリニティ役のキャリー=アン・モスさんも、「脚本が素晴らしかったから」すぐに出演オーケーを出した的な話を、製作が決定した頃くらいに何かで聞いた記憶があったとはいえ……とりあえず、そんなに大きな期待を持たないで見ました。それで、3に足りなかった「ラブ・ストーリイ」的要素が補完されているという意味でも、見て良かったような気がしてます
まあ、たぶんわたしの頭が悪いせいでわからなかったと思うものの、3でトリニティがあそこで死ぬ意味や必要性がわたしにはさっぱりわかりませんでしたし、かといって3がなくてレザレクションがすぐ発表されてたら良かったのか……と言えば、そういうことでもない気がする――でも、最終的にネオとトリニティが幸せになってハッピーエンドみたいだから、自分的には十分満足だし、それ以上特に何も言うことないや……という、レザレクション見たわたしの感想はそんな感じでした(単純な奴よのう・笑)。
それで、ここからは前回の前文からの、どーでもいいような続きなのですが(ほんとにな・笑)、たぶん人がSFに求めるものって、マトリックスが最初に人に与えたような衝撃のような気がするんですよね。見たあとで、物に対する考え方や意識が180度とまでは言わなくても、変わるようなショックを受けるとか、見たことのない斬新な世界観を求めてるところがあるのかな~なんて。。。
あれからほとんどSF小説読んでないわたしが言うのもなんですが(汗)、SF小説の面白いものには本当にそれがあると思うんですよね。「あ、そういう発想は自分にまったくなかったわ」という世界観が描かれていたり、「その小説を読む前の自分とあとの自分にははっきり違いがある」というくらいのストーリーが展開されていたりします。
たぶん、こうした部分がSFに強烈に惹かれるファンの方の心理の根底にはあるのかなと思ったりするのですが、どうなのでしょう(^^;)
それはさておき、これも結構前に見つけた映像作品で、「オージーのおかしなワールド(モス・エフェクト)」というコメディ作品があります(ちなみにわたしは天ぷら☆で見ました・笑)。
これ、わたし的おススメ作品なのですが、確か5話くらいのところに、海で遭難して二百何十日目とかいう男の人が出てきていて……彼が漂流しながら次のようなことを考えます。「マトリックスの新作だって?そんなもの、一体誰が見にいくというんだ……俺はこの漂流生活から助かったとしても、絶対マトリックスの新作なんか見に行かんぞ」といったように。また、途中で「マトリックスの新作が見たくなって来た……ダメだ。しっかりしろ。もしかして俺は頭がおかしくなって来たのか?」といったように疑ってみたり
まあ、漂流して喉乾いてたり、仲間を殺してその肉を食べてたりする奴が、もっと他に考えることねえのかって話なのですが、コメディですからね(笑)。それで、このおっさん、最終的に他の船に見つけてもらえるわけですが、救助員に「マトリックスの新作に間に合うぞ」と言われ、「いやだぁっ!!そのくらいだったら俺はこのまま漂流したままでいるうっ!!」みたいに叫ぶという(以上、訳についてはすべてわたし個人の意訳となります^^;)。
いえ、レザレクション、出来としてそんなにひどくないって話です(賛否その他、意見や感想について分かれるのはよくわかるんですけど……でも、4はわたし的にはないよりはあったほうがいい感じでした)。他に、「モス・エフェクト」には映画ブレードランナーのいじりもあったりして、こちらも大笑いしたり。とにかく、見て損はない秀逸な作品と思います♪
それではまた~!!
惑星シェイクスピア。-【13】-
『お見苦しいところを見せてしまい、失礼しました』
そう言って、ハムレットは神の人ギベルネに対し、敬礼してみせる。
『あなたがこの僧院へおいで下さった時、オレも僧たちの騒ぎを聞きつけ、大広間のほうへ一応向かいはしたのです。それで、あなたのお顔やお姿を見て……まるで雷にでも打たれたかのように驚愕しました。他の僧たち、あるいは長老たちからお聞き及びでしょうが、あなたが昨年亡くなった我が師ユリウスにあまりにもそっくりだったものですから』
ハムレットは落ち着いた物腰で、岩の壁を掘りアルコーブにした部分へギベルネスのことをそれとなく導いた。岩が自然の椅子ともなっており、ふたりか三人くらい、そこへは並んで腰かけられるスペースがある。
『それで、咄嗟に臆してしまったのです。三女神の残した託宣の内容についても恐れおののいていましたが、これはいよいよ本当に自分がこの国の王として立つということなのだろうかと、そう思って……先ほど、ハンモックから落ちるというみっともないところを見られてしまいましたが、タイスも申していたとおり、オレは今はただの、自分が何者かもよく知らぬ、田舎の僧侶にしか過ぎません。師であるユリウスはいつかこうなると考えていたのかどうか、オレが小さな頃から随分色々な教えを授けてはくれました。それから、ディオルグには剣術や武術を学びました。けれど、自分が実は暗殺された先王エリオディアスの息子だと聞いたのも、ほんのついこの間のことなのです。ですから……みなの前で神の人であるあなたと相対した時、どのように振るまえば良いのかがわかりませんでした』
そこまで話すが早いか、ハムレットはすぐに跪き、ギベルネスの茶色いローブの裾へ口接けた。
『このように、あなたさまの前にオレのほうで跪くというのは、あまりにも当然のこと。ですが、三女神がこれからこの国の王になると告げた者が、神の人とはいえ、そう簡単に額づいていいものなのかどうか……くだらぬことを気にする器の小さい者と笑ってくださって構いません。ただ、心正しき神の人よ、オレがこれからどうすべきなのか、そのことをあなたさまには何卒お教えいただきたく……』
(なるほど。確かにこれは王の器だ……)
ギベルネスは、ヴィンゲン寺院の僧侶たちが自分に感じているらしき畏敬の念を、今はっきり目の前にいるまだ若き青年に感じた。そして、みなが口を揃えて似ているというユリウスという男の気持ちが痛いほどわかった。その成長を最後まで見届けることの出来なかった彼の無念さも……。
ギベルネスはそうした一切を一瞬にして胸の奥に感じると、今度は彼自身こそが、ハムレット王子の足許へ跪き、忠誠のしるしでも示すようにそこへ口接けた。
『ハムレット王子よ、私はあなたの足の履物を脱がせる値打ちすらない者です。ですから、これからはこう致しましょう。私自身はあなたさまよりも遥かに身分の低い賤しき者。王子さまがなんの気遣いをする必要もありません』
『い、いや、そういうわけにはいきません。何より、ギベルネさまはそもそも若輩者のオレなどより、ずっと年上のお方でしょうし……』
『年齢など、まったく関係ありません』と、ギベルネスはもう一度ハムレット王子の隣に座り微笑んだ。本星エフェメラあたりの十六歳の子とは違い、なんという純粋さを持ちあわせていることだろう。『私と王子の関係は、対等ですらありません。本来であれば、このように隣あって話す資格すら、私にはないのです。ですが、もしハムレットさまがこの国の王位へ就くのに、このような私でも微力ながら力になれるというのであれば……最善を尽くしたく存じます』
ここで、ハムレットは大きな溜息を着いた。師であるユリウスに確かに顔は似ているのだが、こうして話してみると、神の人ギベルネとユリウスとではまったく別の人であることが、彼にははっきりわかった。もちろん、ハムレットはユリウスのことを自分の父のようにも兄のようにも慕っていたが(これは他のタイスや同年代の僧らも同じであろう)、だが、彼には自分に対してだけ固有の厳しさがあり、甘えを許さないようなところがあった。そして、それもまた今にしてみれば、ユリウスにとっては最上の愛情のしるしだったのだということが、ハムレットにも痛いほどわかる。しかし……。
(何故なのだろう。オレは彼には、自分の弱音を吐くことが出来る気がする……)
『ギベルネさまは、オレのような者が本当にこの国の王になれると、そのようにお信じですか?』
『もちろんですとも』と、この時もギベルネスは何かに舌でも操られているかのようにペラペラしゃべっていた。最初から、何かのシナリオのセリフがインプットでもされているかのように。『ハムレットさま以外、この国の王に相応しい者は他にございません。すべて、三女神の託宣通り、事は成就しましょう。現国王のクローディアス王は残虐で、情けを知らぬ方。失礼ながら、民たちも、彼以外の人間であれば誰でもいいから王になってもらいたい、クローディアス王には退いてもらいたいと内心では思っていることでしょう。恐怖によってでは人の真心は掴めませぬ。内苑州の諸侯は、クローディアス王に逆らうと残酷な処罰が待っていると知っているがゆえに……それに、危険が及ぶのは何も侯爵や伯爵本人のみではありませんからね。身内の全員が拷問部屋でどのようなひどい目にあわされるかと恐れ、諸州の貴族らと緊密に連絡を取りあい、自分たちが生贄の羊とならなくても良いよう、互いに互いを見張りあっているかのような関係性。一度信頼関係にひびが入ればドッと崩れるのはあっという間のことでございましょう。ハムレットさま、まずは外苑州の諸侯をお味方につけることが肝要です。さすれば、内苑州の貴族たちにも必ずやハムレットさまと通じ、現国王を裏切る者が出てきましょう』
内苑七州とは、王都のあるテセリオン州を含み、そこから順に近い場所に位置するアデライール州、モンテヴェール州、ラングロフト州、レティシア州、クロリエンス州、バリン州のことである。そして、外苑七州とは、バリン州から近い順に存在するロットバルト州、メレアガンス州、アヴァロン州、キャメロット州、ライオネス州のことであり、ローゼンクランツ州とギルデンスターン州もここに含まれる。
『本当に、オレにそんなことが出来るのだろうか?こんなどこの者とも知れぬ田舎者が、突然エリオディアス王の息子だと名乗って、信じてもらえるのだろうか?……』
『ハムレット王におかれましては、まずは三女神の託宣のことを今一度深く思いだされますように。女神たちの予言は今後、ひとつとして違わず成就することでございましょう。何ひとつとして心配は入りませぬ。今王子に必要なのは、三女神の言葉の通り、王として立とうとすることだけです。今後、実際に王都のほうまで攻め上ります前に、もしかしたら三女神の予言を疑いたくなるようなことがあるやもしれませぬ。ですが、そのような時にはこのギベルネめを信じなさいませ。必ずや最後には三女神の言った通りになるということを、ハムレットさまに証明して見せますゆえ……』
『ありがとう、ギベルネ……』
ハムレットは胸が詰まるあまり、さまというのが小声になっただけなのだが、ギベルネスは重ねてこう言った。
『その意気でございます、ハムレットさま。これからも私めのことは、そのように呼び捨てになさいますように。また、遠慮なくなんでもお命じください。おそらく出来ぬこともありましょうが、王子さまの御心に叶うよう、このギベルネ、粉骨砕身して働きますゆえ……』
――こうして、大体のところ話の方針は決まった。とはいえ、ギベルネス自身、自分でも(こんなことを言ってよいのだろうか)と内心迷っていたというのが事実であり、ただ、(もし私がギベルネという男の役目を本当に仰せつかったというのであれば)という仮定に立ち、(それであれば大体こんなことを口にするのがこの場に相応しいのではなかろうか)と、そのように考えていたというだけなのである。
このあと、ハムレットはギベルネスと他愛もない話を夜遅くまでして過ごした。彼がこれまでヴィンゲン寺院にて、どのように育ってきたかといった生い立ち話や、ギベルネスは自分の出生など詳しく話すことはなかったが、それでもこの惑星シェイクスピアのことについて、(ここまでであれば、話しても差し支えあるまい)という興味深い話をいくつもした。結局、途中からここへタイスも加わり、三人は最終的に今後の遠征計画について詳しく詰めるということになったわけである。
『ここから遥か南西の地には、その昔偉大なる大王がいたというアヴァロンなる地があるそうだ。タイス、おまえも聞いたことがあるだろう?ユリウスはそこの出身だそうだからな……歴代の王たちも、そこだけはその地の持つ神聖さを恐れるあまり、一度として攻め込んだことがなかったという。一体どんなところなのだろうか。一度でいいからこの目で見てみたいと思っていたが、よもや本当にそんな機会が訪れようとは思ってもみなかった』
『それを言ったら俺は、その隣の州……といってもやはり砂漠に隔てられるため、実際にはとても遠いのだろうが、キャメロット州に行ってみたい。それは美しい湖と、緑したたる楽園のような都がその昔あった場所と聞く。無論、それは遥か昔の伝説の世界のことであって、今は廃墟の城跡があるのみと聞くが、そこでは各州の領主の後継者が赴けば、将来の国の行方について星神・星母に連なる神々のお告げを聞くことが出来るということだったからな』
まだ若いハムレットとタイスが語るのは、半ば夢見物語の旅行話であった。何分、血気盛んな時期にこのような僧院などという陰気な場所で世間に打って出る機会もなく、影の存在として埋もれているとも言えたのだ。これから遠く旅をして見聞を広めることが出来るのは、若い彼らにとって心楽しいことでもあったに違いない。
また、ギベルネスはふたりの話を聞きながら、宇宙船<カエサル>で衛星の映したいくつもの映像を思い描いた。そして、自分の知っていることで、(これは語っても問題あるまい)ということを、ポツリポツリ話したりしていたわけである。
この日、三人はハムレットの岩室にて、それぞれ寝具を適当に敷いて一緒に眠った。そして、ギベルネスが静かに寝息を立てはじめると、最初にハムレットがこう言った。『おい、タイス。まだ起きているか?』、『ああ、無論だ』、『オレはギベルネ先生のことがすっかり好きになった。三女神の託宣の通り、きっと彼が一緒であればこれから万一王になれずとも、なんの不安もないような気さえする』、『万一か。おまえも随分不信仰なことだな』……それからふたりは大声で笑いあい、それからぐっすり眠る神の人を起こさぬよう、すぐにまた静かになった。
『そろそろ本当に眠ろう。明日の祈りの朝課に遅れでもしたら、「もう王位にでも就いたつもりなのか」と長老たちにチクリと嫌味を言われるに違いないからな』
『ああ、それじゃおやすみ。ハムレット』
『おやすみ、タイス』
実際のところこの翌日、ふたりはとても眠い中、岩の通路の間に鳴り響く鐘の音に叩き起こされた。ところが、神の人ギベルネはアルコーブのところに身を横たえたまま静かに寝息を立てている。
『神の人はやはり、我々とは違い器が大きいな』
『そんな畏れ多いことを言うな、タイス。罰が当たるぞ。それに、祈りの朝課など、ギベルネ先生にはなんの関係もないのかもしれん。結局のところ、すべては人間が勝手に決めた決まりごとだという意味でな』
ハムレットとタイスは半分寝ぼけたまま、この日も朝の祈りを星神・星母に捧げるため、地下にある岩室まで下りていった。そこには地下水が流れており、水と食糧のある恵みについて、まずは星母ゴドゥノワに祈りを捧げてから――ふたりはまず大老ロンディーガより聖餅(ホスティア)と聖水をいただき、それぞれに割り当てられた朝の仕事に就いた。つまり、ハムレットは他の僧たち数人と桶に水を汲んで一階の食堂まで運び、料理の得意なタイスは、彼の料理の師であるドゥエイン長老とともに朝食の準備を開始した。
掃除当番に当たっている者は岩室の掃除を手分けしてやり、家畜の世話の当番者は羊や山羊、ルパルカの世話をし、野良仕事の当番に当たっている者は、畑の仕事に精を出した。それから朝食の準備が出来たという鐘の音が鳴ると、僧たちはみな一度切りの良いところで仕事をやめ、まずは食事をしに岩室まで戻ってくるのだった。
ちなみにこの間、ギベルネスがどうしていたかと言えば――彼は岩の通路に響き渡る鐘の音によっては目覚めなかったが、その後暫くして腰のあたりに軋みのようなものを覚え、目蓋を上げていた。彼もまた半ば寝ぼけていたせいだろうか。上体を起こすと(体のあちこちが痛むのは何故だろう……)などと考え、それから自分がきのうの夜、ハムレットの岩室で眠ったということを思い出していた。
(タイスとハムレットはどこへ行ったのだろうな?いや、なんにしても私はまず、最初に自分にあてがわれた岩室のほうへ戻らねば……)
岩屋の廊下では、掃除をする僧たちと何度かすれ違い、誰もが元気に「おはようございます!!」と挨拶してきたし、自分の岩室のほうは真っ先に掃除がなされたらしく、「ギベルネさま!お掃除しておきました」などと、純粋無垢な輝く笑顔を向けられると――ギベルネスとしてはなんとも心苦しいばかりだった。(私は彼らがそんなに尊敬しなきゃならないほどの大人物というわけではまったくないのにな……)と、彼としてはそうとしか思えないだけに。
「ああ、良かった。中はなんともないな」
通信機その他、麻のズダ袋の中に欠けているものはひとつもなかった。また、あのまだ若き僧たちの、光り輝くばかりの笑顔からしてみても――(ズダ袋の中を覗いてすらいまい)と、ギベルネスはその点については信用できる気がしたのである。
こののち、岩壁の陰に隠れるようにして、ギベルネスはまず、通信機による宇宙船<カエサル>との交信を試みた。だがやはり、通信機のスイッチは入らなかったし、岩屋の外へ出て試したくはあったが、そこでは人目が多すぎる……そしてふとギベルネスはこの時、昨夜タイスが言っていた言葉を思いだしていたのである。
『『三女神のひとりが、『あなたは今は、デンパショーガイによって帰れない』と、そう仰っていたのです。あなたが来たらそう言えと……ええとすみません。それで、『任務を果たしたとしたら、無事帰れるようになる』と、そのように……』
(確かに私はきのう、なんとなくそんな雰囲気であるような気がして、ハムレット王子に言わねばよいのに期待を持たせるようなことを言いはした。だが、通信機のスイッチが入らなかったところでそれがどうした。なんにせよ、ここから第四基地までは半日とかかるまい。それに、ギベルネという男と間違われ、何やらなし崩し的に断れずにその役を演じることになったとして……私に一体何が出来るというんだ?むしろ、神の人としての化けの皮が剥がれぬ内に、姿を消したほうが彼らにとってもよほどよいのではないだろうか)
このあともギベルネスは、ローブの内ポケットに通信機を隠しておいて、どこかで電波が通じはしまいかと、誰にも気づかれぬよう時々さり気なくポケットに手をやっては操作した。だが、家畜の世話の手伝いや、野良仕事の手伝いなどをする傍ら――僧たちはやたら恐縮していたが、『私もあなた方と何ひとつ変わらぬ人間です』と言うと、今度は神の人ギベルネの謙遜さに打たれていたようであった――時折ザザッと雑音が入る以外では、タッチパネルモニターが立ち上がる気配すらしなかったわけである。
無論、ギベルネスにしても、宇宙船<カエサル>と通信しているところを現地人である彼らに見られるわけにはいかないとわかっている。だが、僧たちがひとり残らず自分の一挙手一投足を見守る中では、彼としてもまったく身動きが取れなかった。ゆえにもう、半ば破れかぶれの心境により、とにかくギベルネスは<カエサル>と連絡さえ取れるのであれば、帰船後ノーマン・フェルクスらに激怒されつつ始末書を千枚書くことになろうとどうであろうと……現時点においては何より、どのような形であれAI<クレオパトラ>のどこか硬質な声を聴きたくて堪らなかったわけである。
(だが、確かにタイスの言っていたとおり、三女神とやらが<デンパショーガイ>などという言葉を口にしていたというだけでも、おかしな話ではある。障害はともかくとして、電波などという言葉自体、今はまだ惑星シェイクスピアのどこの国でも使われてなどいないだろう。事実、タイス自身、それが何を意味する言葉なのか、わかっていないような顔つきですらあった。しかも、私が任務をまっとうしなければ帰れないだって!?それはもしや、私が本当にハムレット王子に付き従って彼が王になるよう尽力しなければ帰れないということなのか?そんな馬鹿な……)
正午を知らせる鐘が鳴り、軽く食事をとると、僧たちはそれぞれの仕事に就くか、岩室に籠もって祈りに励むなどしていた。食糧の乏しい時期は、昼食自体ないことも多い。だが、『ギベルネさまがおられるのだから……』ということで、彼らが最良の食事を自分に与えようとするのを見て――ギベルネスはあえてそれを拒否することにしていた。無論、腹のほうであれば減っていたが、(そのほうが神の人らしかろう)と思い、彼自身もまた祈りの岩室にて、夕食前の地下礼拝堂における礼拝の時刻になるまで……そこに籠もり考えごとをすることにしたのである。
ちなみに、ここヴィンゲン寺院では朝課、九時課、正午課、三時課、晩課、就寝課とあって、地下礼拝堂に僧らが集まって祈るのは朝課と晩課の二度である。それ以外の時刻に鐘が鳴れば、それは祈りの時刻を知らせるものであり、僧たちは仕事の途中でも跪いて祈るか、その時のみ近くの岩室に籠もるなどして祈ったりするわけであった。
たったの二日とはいえ、ギベルネスにしてもヴィンゲン寺院の僧たちと接していて、彼らの信じる神に対する純朴な信仰心に対し、心打たれるものがあったとはいえ――彼自身が信じているわけでもない<神>に使者として遣わされたことになっているらしきことには大きな矛盾を感じていた。何より、ギベルネスとしては今すぐにでもフォーリーヴォワール山にある第四基地へ向かいたくて堪らなかったということがあるだけに。
だが、結局のところ果たせなかった。夜の間も寺院の岩屋の入口には僧たちの見張りが立っていたからではない。もし本当に絶対どうしてもそうしたいということであれば――ギベルネスは彼らに電気ショックを与え、一時的に失神してもらうということも出来たのだから。にも関わらず、自分が信じてもいなければ、その姿を見てもいない三女神とやらの託宣通り、ギベルネスが行動することにしたのは……激しい葛藤ののち、そうすることを選んだのには理由があった。こちらから連絡することが出来ないらしいのを、衛星から自分の姿を<カエサル>の惑星調査員らが見ていたとすれば――(いや、見ていないはずがない)とギベルネスは思った――必ず、なんらかの方法を使い、自分とコンタクトを取ろうとしてくれるはずなのだ。
たとえば、衛星を通した地形といった映像のみならず、その他もう少し詳しい画像や音声を得るために、<昆虫>をそれぞれの基地から飛ばすことも可能だった。形は、ハエ、蚊、カブトムシなど様々だが、これらは現地人に発見されても、そこにカメラやマイクが埋め込まれていたとは誰も気づかぬほど精巧なものである。ゆえに、何かの拍子に捕まえられたり、あるいはピシャリと手のひらで潰されるなどしても――何やら不愉快な体液がつくだけのことで、誰も不審に思う人間などひとりもいないことだろう。
(だが、そんな<虫>によるコンタクトすら誰も取ってこないとは。明らかにこれはおかしい。まさか、宇宙船<カエサル>のほうで何かあったのか?それとも本当に一時的な電波障害によって、向こうでもこちらと連絡が取れなくなったということなのかどうか……)
タイスやディオルグと砂の城砦跡で出会って三日後、旅支度を整えてともにギルデンスターン州を目指すことにしたのは――ギベルネスとしてはその理由が一番大きい。ギベルネスは宇宙船<カエサル>の他の六名とは、「つかず離れずというくらいの心地好い関係」を築けているように思っていたため、『あの大嫌いな奴を遭難させてやってスッキリした』といったような、そうした個人的な理由は考えられなかった。むしろ、コンタクトを取れないだけで、自分が現地人たちと勝手な行動を取ろうとしている姿のみ、衛星によって見ていたとすれば……ノーマン・フェルクスなどは特に、気違いになりそうなほど激怒していたことだろう。
何故なら彼は第十三回惑星シェイクスピア調査団の代表でもあるわけであり、今後ともギベルネスが現地人の一団と行動を共にする時間が長ければ長いほど――ノーマン・フェルクスが本星エフェメラの惑星開発調査庁へ提出しなければならない始末書のほうも、ページ数と文字数が増えゆく一方だったはずだからである(また、リーダーであるノーマンのみならず、グループ全員の総合評価も下がり、彼らは次回再び惑星調査へ赴く際においては、シェイクスピアと似たり寄ったりの辺境惑星にしか派遣されなくなることだろう)。
(にも関わらず、向こうからなんの連絡もして来ないということは……いや、三女神がそのことを言い当てたと認めるのは私としても釈然としないが、とにかく私がハムレットたちと一緒に行動をともにしていたとすれば、宇宙船<カエサル>のほうでも絶対に異変を察知するはずだ。私のほうでも引き続き、通信機が通じないかどうか試し続けはするが……向こうからだって、必ず私とコンタクトを取ろうとしてくるはずなんだ。そのことだけは絶対間違いない)
ギベルネスはそう信じて、ハムレット、タイス、ディオルグ、それに従者であるホレイショとキャシアスと共にヴィンゲン寺院を旅立ち――最後、名残惜しそうにフォーリーヴォワール三連山を振り返った。(本当にこれで良いのだろうか……)という、深い疑念とともに。
>>続く。