あ、そういえば前回書き忘れてたんですけど、前回の【9】と今回の【10】は元は一繋がりの文章だったり。。。例によって文章が全部入り切らなかったので、変なところで切るということになりましたm(_ _)m
言葉というものは
口にされると死んでしまう
と言う人がいる
私は言おう
言葉はまさにその日
生き始めるのだと
(『エミリ・ディキンスンの手紙』山川瑞明・武田雅子さん訳/弓プレスより)
わたしたちの生死は口に支配されるとも言いますが、前回の前文との関連でいいますと、普通の「日常会話」っていうのと「本当の会話」って、確かに微妙に違ったりしますよね(^^;)
わたしが大体死ぬことを考えてた17~22歳くらいまでの頃って、まわりの人としてた会話っていうのは、そのほとんどが「死んだ会話」、あるいは「死んだような会話」だったと思います。
何故かというと、死ぬことばかりを考えているというのが自分の本心でも、それとはまったく別の顔を家族や友人などには見せており、その部分はものすごく「使い分けて」いるわけです。
ものすごく愛想のいいショップの店員さんが、休憩室に回った途端、スパーッと煙草吸って「やってらんねえな☆」みたいになるのと同じくらいの落差があるというか(笑)
でもそういう家族向け・友人向けの明るい顔っていうのは演技であり、部屋に自分ひとりきりになった途端、もう指一本動かしたくないっていうくらい疲れ切ってるっていうのが「本当の自分」というか。。。
といっても、こういう自分の状態って、そんなに特別なものでもないとも思ってたり。多くの人が程度の差や悩みの大小に違いはあったにせよ、似たような経験というのは誰もがしていたり、人生で一度は通っていくというか、そういうことでもあると思うので(^^;)
ただ本当、その頃っていうのはまわりの人にはわからないながらも、自分の中では「相手の望むとおりの会話」に沿って話しているだけで、本心のようなものはまったく別のところにある……という、そんな感じでした。
大体わたし、19~22歳くらいまで、病院のカウンセリングに通ってまして、そこで精神科医の先生に話してたことっていうのが、たぶん唯一自分にとっての「本当の会話」に近いものだったような、そんな気がします。
だからその、なんていうか……その相手の先生との相性っていうのもあるので、一概に絶対そうとは言えませんけれども、「こんなこと、誰に話してもどうせ無駄☆」っていうことでも、「本当の会話」のできる人が誰かいるっていうことが一番大切なんだなって思います。
家族とも友人とも会社の同僚とも、そのうちの誰とも本音で話せてない……その上鬱病、あるいは鬱病に近い精神状態にあるといった場合、やっぱりそうした自分の状態を「誰かに話せる」って大切なんですよね。それで悩みが解決するとか、すぐそうなるということではなくても、いつも「嘘の会話」、「嘘の演技」の自分に取り囲まれてると思ったら、心療内科などで「本当の会話」をするってとても大切だと思います。
特に会社などだと、特に話したくない相手とも「便宜上しなくてはいけない会話」、「必要最低限しなくてはいけない会話」というのがあってストレスが溜まったりするものですが、そういうのに耐えられるのも、家に帰ったら家族とは「本当の会話が出来る」、友達とは「本当の会話が出来る」という部分があるからだと思うんですよね。
でもこの家族や友人とも相手に合わせていて、一番癒されるのは自分ひとりでいる時だけ……みたいになると、鬱病になってるか、鬱病へのカウントダウンがはじまってるのかな……という気がしたり(^^;)
それと、わたしの場合小説とか読むようになったのは、実は絶対的に「自分に悩みがあったから」、「死ぬことをよく考えていたから」というのがあります。やっぱり小説とか詩とか、映画の中での登場人物の言葉とか……あれは普段わたしたちがしている「日常会話」に属するものであるのと同時に、同じ言葉でもまったく言語体系が違うものだと自分的には思います。
わたしがエミリー・ディキンスンの詩に出会ったのもこの頃だと思いますが、エミリーの言葉はやっぱり「真実」とか「本当のこと」とか、そうしたところに属する「何か」というのを常に求めていて……彼女は三十歳以降、世間から姿を隠す隠遁生活を送るようになったわけですが(今でいう引きこもりにも近い状態☆)、<そちら>側への追求が激しい、また<そちら>側から求められる度合いが激しいと、エミリーの場合は普段の「日常会話」にも支障をきたすところがあったのではないかな……という気がします。
あ、そーいえばきのう、某本屋さんに行ったらエミリーの新刊が置いてあって……その本のオビのところに『静かなる情熱~エミリ・ディキンスン~』とあってびっくりしました
映画化されてたんですねえ。しかも劇場公開日が今年の7月29日って……知ってたら見に行ったのにな~と思って、とても残念でした。。。
評判のほうはどうだったのかちょっとわかりませんが、色々と賞も受賞しており、そういう意味では評判が高そうですが、予告篇などを見る限り――伝記に添いつつ、かなり脚色されてるのかな、といった印象でした(^^;)
エミリーの詩や手紙の内容から彼女の人柄的なものはわかるでしょうけれども、やっぱりある程度は映画向けに見せ場的なものも作らなくてはいけないでしょうし……なんにしても、レンタルが開始されたらいずれ必ず見たいと思っています♪(^^)
それではまた~!!
聖女マリー・ルイスの肖像-【10】-
「あんた、あとで学校に電話して、マクブライド先生にどういうことなのか聞いておいてくれ。で、向こうがロンは病気だと思いこんでいるようなら、風邪かなんかだったとでも言って、適当に話を合わせておくんだ。なんにしても、ロンの誕生日まで三週間くらいか。間に合うかどうか……」
イーサンが何かブツブツ言いながらリビングを出ていく背中を、マリーはただ頼もしいように思って見返すというそれだけだった。きっとロンの誕生日はこれでとても素敵なものになるだろう。もしかしたら誕生パーティの招待状を送ったクラスメイトのうち、何人かは来られないかもしれない。けれど、マリーは生徒の数は問題ではないように思っていた。つまり、招待状を受け取った子供のうち何人かは――間違いなくロン自身に関心を持っているはずだと信じていた。そしてその点が何よりも重要なのだ。
マリーは豪華なオーディオの揃った部屋までミミの様子を見にいくと、彼女と一緒に少しの間『うっかりペネロピ』を見て、その後キッチンで昼食の仕度をした。イーサンの話によると、大学での単位はすでにほとんど履修済みであるという。それなのに何故すでに出る必要のない講義を受けているのかといえば、そうした講義を受ける振りをして大学院進学のための試験勉強をしているとのことだった。
ゆえに、彼が引き続き屋敷の書斎あたりにいても、「大学のほうはいいんですか」とはマリーは聞かなかった。また、次男のロンも今ごろ内省しつつ勉強に励んでいることだろう。そのことを思うと、マリーは今日のお昼は特に美味しいものを作ることにしようと思い、まるでディナーのようなご馳走をダイニングテーブルに並べていたものである。
そして大体のところ準備が整うと、イーサンがいるであろう書斎のほうへ彼女は向かった。ドアをノックしようとした瞬間、「いや、他のイベントに出席する時の二倍は料金を弾むから、ダースベーダーにはうちに来てもらわなきゃ困る」と話しているのが聞こえる。「ああ、そうだな。C-3POやヨーダや……とにかく、スターウォーズに出てくる登場人物一式といったところだ」――そのあと、もう少し話が続いて、一度彼が電話を切ったようだと思い、マリーはドア越しに「お昼のほうはどうされますか?」と聞いた。
「ああ。今下に下りる。どうせあんたのこったから、ロンの好物の品なんかを作ったりしたんだろうな」
確かにそのとおりだった。けれどマリーはロンの好物の他にも、まぐろとアスパラのサラダやボンゴレスパゲティなども作っていたし、不公平にならないようにミミの大好きなチーズたっぷりのミルクスープも食卓にのせておいた。
イーサンが独り言のように呟いた言葉に対して返事はなく、マリーがただ声かけをしただけでいなくなったらしいと察すると、イーサンはあらためて溜息を着いた。正直なところをいって、イーサンは大学、あるいは大学院に進むことが出来たとしたら、大学院を卒業するまでは――すっかり寮の厄介になるつもりでいた。だが、本当に今更ながらのことだったが、こんなだだっ広い屋敷に女こどもしか住んでいないという環境に対し、彼は危機意識を持ったのである。
マグダが子供たちと住んでいた頃は、やはりイーサン自身、無意識のうちにも責任逃れをしたいところがあったのだろう。つまり、彼らが十分な国の教育を受けていながら、将来は社会的落伍者になったとしても……自分に責任はないのだということにしたかった。だから、女子供しか住んでいない屋敷かもしれないが、イーサンにはイーサンの生活があるため、そんなことについてまで誰からも責任を追及されたくなどなかったのだ。
(だが、今はもう……俺だって、大学を卒業しようと思えばこのまま院のほうへは進まないということだって出来る。というか、弁護士になるというところまではいかなくても、あいつらの資産管理をするためにもっと財政に関する勉強をするとか、そうした道に進んだほうがいいんだろうか。だがまあ、俺はそんなことの一切から逃げたいがために、時間稼ぎとしてあと二年、大学院へ進みたいと思っているわけだ)
実際、それがイーサンの、父親が死ぬ前までに考えていたすべてのことだった。ロイヤルウッド校を優秀な成績で卒業し、ユトレイシア大にイーサンが合格した時、彼の父ケネス・マクフィールドは「大学の進学祝いに」と、彼に十万ドルくれていた。そして言ったのだ。その金をどんなふうに使おうと構わんが、おまえが二十二になって自分の財産の分を受け取った時――どんなふうに金を使うべきかの練習をその十万ドルでまずはしてみるんだな、と。
正直、イーサンは父ケネスが自分が後継者に相応しいかどうかの試験としてその十万ドルという大金をくれたのかと思ったほどだった。だが結局のところ、それを大学の授業料に使うという以外では、イーサンは確実な株の投資をして小金をもうけたり銀行から利子を受け取るといったような堅実な使い方しかしなかったものだ。もっとも、イーサンにはよくわかっていた。ケネスは息子にそんな金の使い方をしてもらいたくて十万ドルもぽんと渡してくれたのではないということは。むしろ、その金を元手に何か面白いことでもして自分を驚かせるか面白がらせるかして、父親の後継者に相応しいというところを見せてみろと、おそらく彼はそんなふうに思っていたのだろうということも……。
(まあ、なんだな。そう考えた場合、ロンは財産を受け取る二十一になる頃にでも、その時まだ漫画家になりたいと思っていたら――自分でそういう出版社をはじめることも出来るわけだよな。だが俺は、最初からそんなことを言って「だからおまえは学校へなど行かなくても、他のクラスメイトと違って将来は約束されているし、そういう意味ではすでに勝ち組なんだ」というようには、絶対言いたくなかったわけだ。それに……)
イーサンはトミー・アレルの本を自分に渡した時の、ロンの必死な顔つきを思いだして、あらためて嬉しくなっていた。ランディもロンも、年の離れた兄に対し心底恐れを抱いているらしいのだが、彼はそんな中でも一生懸命自分なりに考えた答えをその兄に提示しようとした。おそらく、それと同じ勇気を示しさえすれば、ロンには友達などいくらでも出来るだろうという気がイーサンはしたが、なんにしても今は弟の誕生パーティのことがイーサンにとっても一大事だったといえる。
(さて……どうしたもんかな。なんにしても俺は、寮を出てこっちに戻ってこなくてはなるまい。で、院の試験に落ちたとすればそのまま大学だけ卒業して――何をするのか、何をすべきかというのが問題になってくるわけだ)
正直、マグダがこの屋敷に住み込みで働いていた頃を通してずっと、この屋敷内でもしかしたら強盗殺人が起こるかもしれないなどとは、具体的にイーサンは想像したりはしないようにしていた気がする。けれど、今回の件で子供たちを庇ってマリーが怪我をするだの死ぬだのレイプされるだのいう可能性のあることを考えてみただけで……もはやこの屋敷に戻ってくるしかないと、イーサンはそのように決断したわけであった。
(そうだ。それに俺は他に、もうひとつのこともわかった気がする。会った瞬間から何やらあの女には不幸の匂いというか、幸薄いといった空気感があるような気がしていた。だから何かこう、余計に心配になるわけだ。本人にはまるでその気もないのに、それでいて自分から不幸に巻きこまれていきそうな、そういう運命をあの女が持っているのじゃないかと……)
イーサンはそこまで考えてから、自分の考えすぎを笑うように首を振った。そして次の瞬間には苦笑する。というのも、自分がこんな中途半端な時期に寮を出ていくと知ったら――あの悪友どもが何を言うかと思っただけで頭が痛い。
夏休みが終わり、イーサンが寮へ戻ってみると、ルーディはまるで待ちかねていたとでもいうように、マリー・ルイスの写真を所望した。そこで、彼にしても本意ではなかったが、ディズニーランドへ行った時に撮影した写真のうちの数枚を彼に見せざるをえなかったのである。
『えーっ、イーサンおまえ何言ってんだよっ。色気のない枯れ木みたいな女だなんて、よく言えたもんだな。こんな可愛い人を前にしてっ』
というのがルーディのマリーの写真を見た第一声だった。そして彼のその言葉を聞きつけて、他のラリーもマーティンもサイモンも、「どれどれ」と携帯の画面を覗きこんだのだった。途端、「あーっ!!」という驚きの声が彼らの喉を突いてでる。
『くっそ。ようするにおまえ、これはあれだな?父親の前で大股開きをしたようには見えないが、俺たちが写真を見ながら色々よからぬことを想像するとわかってたから、あえて色気のない枯れ木みたいな女だなんて言ったんだ。おまえ、絶対そうだろう!?』
イーサンは特に否定しなかった。実際のところ、半分は確かにそうだったからである。
『さて、どうだろうな。だが、俺があいつに対してそう思ってるってのは半分本当だ。残りの半分は、まあアレだな。ようするにあの女はお道徳の教科書みたいな女なんだよ。ルーディ、おまえ前に言ってただろ。この世の女は大抵本にたとえることが出来るみたいなこと。ファッション雑誌みたいに中身が薄い女がいるかと思えば、百科事典みたいにおカタイ女もいるとかなんとか……そういう意味じゃマリー・ルイスは確かに宗教か道徳の教科書みたいな女だ。それは確かに間違いない』
『おまえは結局、キャシーみたいなブロンドの美人タイプとしかつきあったことないからわかんないんだよっ』
ルーディは一体何にそんなに興奮したというのか、イーサンの部屋のベッドの上を身悶えるようにしてごろごろと何度も回転している。
『そうか。だがまあ、俺の推理小説に必要なのは、もしかしたらこういう意外性だったのかもしれん。父の遺産目当てに後妻となった主人公と大して年の違わぬ美女……彼も最初は彼女のことを「そのような女」と思って軽蔑していた。ところが彼もまた彼女の魔性の魅力の虜となり……』
『俺はマリー・ルイスの虜になんかまるでなってない』
一応イーサンはそう述べておいたが、誰も聞く耳を持つ者などいなかった。
『というか、イーサン。俺、彼女みたいなタイプ、結構好みだ。もしおまえがキャシー一筋で本当にそんな気もないっていうんなら、紹介してくれないか?』
ラリーが何故か突然赤毛の髪を整えながらそう言うのを聞いて、イーサンは溜息を着いたものである。
『まあ、べつに構わんが……だが相手は、ここは最高に面白いところだという時にも、ガキめらの教育によくないと思ったらぴくりとも笑わんような女だぞ?おまえがつきあって面白いことが何かあるとも思えんが』
『いや、いいさ。むしろまるで気にしない。それで、もし仮に深いおつきあいということにでもなれば、果たして本当に遺産目当てでもなんでもないのか、そこのところをこの俺が聞きだしてやるよ』
――イーサンは昼食のスパゲティを食べながら悪友どものしていた会話のことを思いだし、ミミの隣で彼女のナイロンの前かけを拭いているマリーを見返した。彼女のことを道徳か宗教の教科書のような女だ、とイーサンが今も思うことに変わりはない。だが、彼女が本当は何をどう考えているのか……それは彼にもいまだによくわからなかった。
マクフィールド家の三男は、昼間からサーロインステーキなどという豪勢なものを食べ、ある種の良心の呵責からか、いつもはあまり食べない野菜の添え物類まですべて口にしていた。実際のところ、彼らの父ケネス・マクフィールドは飲食店のチェーン店をいくつか所有していたという関係もあって、今も食材については選び抜かれたオーガニックのものがこの屋敷にも定期的に届くということになっているのである。
「俺は近いうちにこの屋敷へ戻ってくるつもりでいるが……おまえらはそれで異存ないか?」
イーサンがアスパラとまぐろのサラダをつつきながらそう聞くと、マリーは驚いた顔をし、ロンは突然居住まいを正していた。
「べつに、俺も帰ってきたくてこの家に帰ってくるわけじゃないんだ。それでもな、一度こういうことがあってみると、女と子供しか住んでいないというんじゃ、色々物騒だと思ってな」
ロンはフォークとナイフを皿の上に置くと、「ごめんなさい」と、小さな声で俯きながら言った。
「ぼくが裏の窓のほうから泥棒みたいにこっそり入る真似をしたから……ぼくはイーサン兄ちゃんがこの家にいてくれるのは嬉しいけど、でもそれがもしお兄ちゃんの迷惑になることだったとしたら……」
「いや、俺がおまえに対して怒ったのはそういうことじゃない。おまえ、この家の外には監視カメラが設置されてるってこともよくわかってて、自分の姿がそこに映らないようにって計算したんだろ?俺はな、ロン、おまえのそういうずる賢さや嘘をついてもけろっとしてる態度だとか、そんなことに対して怒ったのさ。だが、逆に今回のことで警備に穴があったこともよくわかった。何分広い家だから窓のひとつくらい閉め忘れるってこともあるだろう。泥棒稼業をやってる連中ってのはな、何故か不思議と勘がいいらしい。家の中に侵入したあとは、大体金目のものってのがどのあたりに隠してあるか――ピンとくるっていうからな。だがこの家にあるのは大して値打ちのない水晶のイルカがあっちこっちにあるってだけで、実際は宝石類もなければ他に金に換金できそうなものも大してない。それと、この屋敷のとある場所に金庫があるが、暗証番号や開け方について知ってるのは俺とウェリントン弁護士だけだからな……それで、強盗の奴がマリーのことを締め上げて暗証番号を言え、ガキめらがどうなってもいいのかっ!?なんてことになったら困るだろう」
せっかくのステーキが残り三分の一も残っているのに、ロンはもうすっかり食欲も失せてしまったようだった。それで、食器を下げてから足早にダイニングを出ていく。ミミがヌメア先生のためにロンの残したステーキが欲しいと言ったため、マリーは細かく切り分けてからミミの前に置いてやった。そして『ステーキは、ステキに食べよう、わっはっはっ!!』とミミがヌメア先生に言わせたため、イーサンは笑った。
「なんだ?一体どこでそんな言葉を覚えた?」
「子供向け番組に、そういうのがあるんです」と、ステーキを食べるのに夢中になっているミミにかわって、マリーが答える。「『ダジャレ先生の言葉遊びコーナー』っていうんですけど、他に「抗議するコーギー犬」とか「このドーナツ、穴があいてるけど、ドーナってるの?」とか……何かそういうのなんですけど」
ミミが相も変わらず「うまいぞよ!!」と、声音を変えてヌメア先生に言わせたため、マリーもイーサンも笑った。
「やれやれ。うちの唯一の有望株はミミだけか。ランディのことはクラス替えがあるたびに「ファッティランディ(太っちょランディ)とでも呼ばれていじめられないかと心配だし、ロンはあのざまだし、ココは何分自分のことしか頭にないからな。まったく、先が思いやられるったらない」
イーサンが大体のところ食事を終えたため、マリーは彼に食後のコーヒーを出してから、少し真面目な顔をして言った。ミミはもともと食べるのが遅いのと、ヌメア先生との一人二役で忙しいため、他のみなが食事を終えたあともずっと食べているのがほとんどだった。
「あの、あなたにはあなたの生活というか、やりたいことが色々あると思うんです。ですから、このお屋敷に戻ってくるのがお嫌でしたら、そう無理をしないでください。今はまだマグダも通いで来てくれてますし、夜もわたしひとりでなんとかなってますから」
「いや、それはもう無理だな」
(もしやこの女、俺にこの家にいられると不都合なことでもあるのか?)という疑念を抱きつつ、イーサンは言った。
「一度ああしたことがあった以上……これからはもう俺のほうで落ち着かないだろう。第一、あんたが仮に身を挺して庇ってくれて子供たちの命が無事だったとかいうんじゃ、俺も寝覚めが悪い。まあ、確かに俺がここにいるってんじゃ、あんたも食事作りだのなんだの、一人分増えて面倒だろうし、精神的に気も遣うだろう。だが、俺のことはいないと思ってくれていい。メシだって食いたきゃ自分で何か適当に食べるし、あんたが俺のことまで何かと気を回す必要はない。俺は俺で大学に通う傍ら好きなようにするし、あんたもこれまで通り子供たちの面倒を見る傍ら、俺のことは気にせず好きなようにやってくれ」
「…………………」
もちろん、イーサンにしてもこう言ったところでマリーが結局気を遣うだろうとわかっていた。たとえば、恋人のキャサリンとデートをして朝帰りしても、夕食の品にラップをかけて置いておくとか、何かそうした類のことだ。そしてこうなって来てみると、イーサンにはマリーのことがますますわからなくなってくる。ランディのために『食べながら痩せるダイエット』だのいう本を読んでみたり、ロンの不登校のことで母親よろしく責任を感じたり、ココがデザインしたバッグや服をお針子のように夜遅くまでかかって作ってやったり……(それがこの女にとって、何がどうなることだっていうんだ?)との疑念をやはりイーサンは捨てきれないのである。
「じゃあまあ、俺はロンの誕生パーティのことで色々しなきゃならないことがあるんで、引き続き書斎に篭もる。なんか用があったら声をかけてくれ」
「……はい」
イーサンは最後、ミミの頭のてっぺんあたりにキスすると、コーヒーのマグを片手にエレベーターで三階まで上がっていった。ダイニングキッチンに残されたマリーは、食器類の後片付けをしたりしながら少し考える。
(あの人が邪魔とか、そういうことではないんだけれど……でもやっぱり、子供たちだけのほうがわたしも寛げるし、イーサンがそこにいるっていうだけで疲れるっていうのは少しあるのよね。もちろん、自分の都合のいい時だけ頼って子供たちのことを相談したりしてるんだから、そんなこと言ったりしちゃいけないんだけれど)
まあ、いずれそのことにも慣れるだろう――マリーはそう思うことにして、午後からはココのデザインしたポーチの続きを縫うことにした。彼女は将来デザイナーかそれが無理ならファッション編集者になりたいとのことで、今から服や靴やカバンなどをデザインしてはそのスケッチをスクラップしているのだった。
実際、ココがモニカやカレンたちと作った自由研究のファッションブックは大したものだった。そして「モニカのお母さんやカレンのお母さんが色々手伝ってくれて……」という言葉を聞いて胸が痛み、マリーはココのデザインした服などを時間を見つけてはちくちく縫ったりしているわけである。
(そうだ。イーサンがいるんなら、あとでミシンを買ってもいいかどうか、聞いてみよう)
手縫いで手作りするよりも、ミシンで縫ったほうが遥かに効率が上がると思い、マリーは一旦作業を中断すると、ランチ後、ヌメア先生とレゴブロックで遊ぶミミの元へいき、少しの間相手をした。そのあと、時計を見てそろそろココが帰ってくる頃合だと思い、おやつの準備をはじめる。ランディは六限目まで授業があるため、三時半以降にならないと帰っては来ない。
その日、ココは上機嫌だった――というのも、屋敷の門からポーチのほうまで歩いてくる途中で、イーサンのバイクが止まっているのが目に入り、あとはもう駆け足で玄関へ飛び込んでいった。「ただいま」とも言わず、リビングやダイニングのあたりを覗き込み、兄の姿がないのを見ると、三階の書斎まで上がっていった。そしてふたりはお互いの肩や腰などを抱きつつ、下の階までまた下りてくる……ココはこの時とても興奮していた。というのも、イーサンがこれからはずっと屋敷にいる、ここから大学へ通うと話してくれたばかりだったからだ。
ココとイーサンは、リビングのソファに並んで腰掛け、仲睦まじくテレビを見始めた。マリーはそんなふたりの元にコーヒーとホットチョコレート、それにカップケーキやドーナツなどを運んだ。そしてまたマリーはダイニングのほうへ戻り、ミミの相手をしようと思った。
「あ、そうだ。おねえさん、あのポーチ出来てる?」
「えっと、あともうちょっとで出来るわ。ファスナーを取り付ければそれで完成するから」
「えーっ!!まだ出来あがらないの!?一日家にいて暇な主婦してるんだから、そのくらいのことやってくれなきゃ。出来ればね、あれ、他にもう七個か八個作って欲しいの。いつも仲良くしてるグループの子たちに配りたいのよ」
「七個か八個……」
マリーが戸惑っていると、イーサンが口を挟んだ。
「なんだ?ココ、おまえ、マリーになんか作らせてるのか?既製品でいいんなら、他の友達に配るのにいいのを俺が買ってやる。この人はおまえだけじゃなく、ランディやロンやミミのことでも一日くたびれきってるんだからな、余計な仕事を増やすんじゃない」
「だって、この人が自分で作りたいって言ったんだもの。それに、わたしもう言っちゃったんだ。うちの召使いのおねえさんが、これから頼めば服でもなんでも作ってくれるって」
「召使いっておまえ……」
流石のイーサンも言葉を失った。そこで、「そのポーチとやらを持ってこい」と彼はマリーに命じた。もちろんこの段になってようやくココにもわかった。最愛の兄が本気で怒っているのだということが。
「それで?これをもう七個か八個、この人に作れってのか?」
マリーから作りかけのポーチを受けとると、イーサンは溜息を着いた。表面が少しもこもこした素材で出来ていて、中にはきちんとサテンの裏地がついている。表にはフェルトで出来たうさぎの顔と、その下にはCoCoという文字が刺繍してあった。
「これをおまえがどうしても手作りして友達に渡したいっていうんなら、マリーに作り方を教われ。じゃなかったら、知り合いの洋品店へいってこれと同じものを八個作ってもらうかのどっちかだ」
「……わたしの名前の入ってるところ、友達の名前にしたり、モニカは猫が好きだから猫にしたりとか、そういうふうのがいいんだけど」
「わかった。じゃあ、明日にでも俺と出かけて頼みにいこう。それまでに刺繍を入れる名前全部と、どういう動物のフェルトを付けるのかとか、書きだしておけ。それと、もう二度とマリーのことを召使いなんて呼ぶんじゃない。わかったな!?」
「……はい」
イーサンは「よし」と言うと、ココの頭を撫でて、コーヒーとカップケーキをふたつ手にして再び書斎のほうへ戻った。それからココがモニカの家に出かけていなくなると――「あいつ、家でいつもあんな感じなのか?」とマリーに聞いた。
「召使いと言われたことは、今の今まで一度もありませんでしたけど……でも、もしミシンを買ってもらえたら、そんなに時間もかからないと思うんですけど」
「あんた、馬鹿か。俺はガキってのはつけあがらせるのが一番よくないという話を今してるんだ。俺は今日、アメフトの練習は休むことにしたが、近々試合があるもんでな、この屋敷に帰ってくることにはしたにせよ、帰ってきても疲れきってて口も聞きたくないくらいだろう。そんな時にあんたが小間物を作ってないとかであいつが我が儘を言ったりしていたら、俺にしてもどうなるかわからん。ずっと一緒に住むというか、俺がここへ帰ってくるっていうのはようするにそういうことなんだ。だから俺は出来ればここへは帰ってきたくなかった」
「あの、まだ寮のほうは引き払ってないのでしたら、アメフトのシーズンが終わるくらいまでは……」
「いや、そうしたいがな、何分そういうわけにもいかん。というのも、ロンの誕生日が近いから、俺もここへ帰ってきて色々しなきゃいけないことがあるもんでな。なんにしても、ココには出来ないことについては出来ないと言ってハッキリ断れ。あいつは性格が我が儘だからな、あんたがいいと言った分だけどんどんエスカレートするぞ。そう思って接したほうがいい」
「……わかりました」
一応そう返事をしたマリーではあったが、兄から叱られてショックを受けたココの顔を思いだすと、やはり胸が少し痛んだ。結局、大好きなホットチョコレートもドーナツも食べずに友達の家まで出かけていってしまった。「モニカのお母さんがね、わたしのこと、自分の家の子にしてもいいくらいだって言ったの!」――そう目を輝かせて嬉しそうに話すココの言葉を聞いても、自分に対する何かのあてつけだとはマリーは思ってなかった。同じ意味で、マリーのことを召使いと呼んだというのも、そう大して悪意があるとか、そういうことではないのだった。
ココは大抵の場合、友達を屋敷へはあまり連れてこない。夏休みには仲のいい友達を何人か呼んでパジャマパーティをしたりもしたが、それよりも圧倒的に多いのは自分のほうから友達の家へ出かけていくということだった。なんでも、自分には馬鹿な兄貴とダサい兄貴と頭のヨワい妹しかいないから、友達にあまり見せたくないのだという。
この翌日、マグダがやって来ると、マリーは彼女にミシンを貸してもらえないかと頼むことにした。彼女はすぐに事情を飲み込み、自分もそのポーチ作りを手伝うと言ってくれた。こうして、意外にもそんなに時間をかけずして八個分のポーチは出来上がった。一番時間のかかったのは最初の一個目の手縫いだけで、一度要領がわかってしまうと、残りの八個を作るのはそれほど大変ではなかったといえる。
イーサンが<明日>と言っていたにも関わらずその約束をすっぽかしたため、マリーは代わりに自分が作ると約束しておいた。実際、おそらくはそれで良かった。イーサンはアメフトの練習でよほどしごかれたのか、屋敷へ帰ってくるなり餓鬼のように食事したあとは、ただもうベッドの上に倒れこんでいたからである。
そんな兄の様子を見て、ココも特に文句を言うでもなく黙りこんでいた。また、イーサンは昼間は大学の講義中に大学院へ進むための勉強をし、午後からはアメフトの練習後に屋敷へ戻ってくるため、実質、彼が家族と過ごす時間というのはほとんどないに等しかった。にも関わらず、やはりイーサンはマクフィールド家の大黒柱だった。ランディは兄がただ家に毎日戻ってくるというそれだけで、夜中までゲームするのをやめたし、宿題もきちんとするようになった。ロンにしても事情は同じで、兄が試合でテレビに映っているのを見ると――自然と自分もがんばらなければと思ったし、ココやミミは話す時間があまり多くなくても、ただ彼が<そこにいる>というだけで、無条件に嬉しいのだった。
アメフトの試合のほうは、第一週目の試合も第二週目の試合もイーサンがクォーターバックを務めるユトレイシア大が無事勝ち進んでいった。試合があるたび、子供たちはテレビの前で気が狂わんばかりに兄と彼のチームとを応援し、マリーもびっくりするような言葉で相手チームをなじったり、細長い風船をふたつバンバン打ち合わせたり、点が入ったとなるや、ソファのまわりをまるでインディアンの如く狂喜してぴょんぴょん飛び跳ねるのだった。ミミに至ってはイーサンがテレビに映るたび、「兄たんがんばれ~!!」と、ヌメア先生を振り回し、床やテーブルに何度もしたたかぶつけていたほどである。
試合に勝利した夜というのは、試合の場所が遠くても比較的近くても、イーサンは戻っては来ない。仲間内で勝利の祝杯を上げたり、恋人のキャサリンとホテルで祝ったりというせいであるが――彼が屋敷に帰ってくるなり、当然子供たちは兄の元を離れなかった。「格好よかったよ、お兄ちゃん!」、「ハーフタイムのあとさあ……」、「あの時、どうやってカットバックしたの?」などなど、ルールについて中途半端にしかわかってないながらも尊敬する兄に色々と質問し、イーサンのほうではそういう時、終始上機嫌で可愛い弟妹たちの相手をするのだった。
マリーもマグダに手伝ってもらってご馳走を用意し、もちろん彼に祝福の言葉を述べた。そして子供たちがようやくのことで寝に行くと、イーサンは決まって自分の留守中のことを彼女に聞いた。そこでマリーは「みんないい子でしたよ」と、そんなふうに報告するのが常だったといえる。
「正直、わたしも……あなたがこの屋敷にただ帰ってくるというだけで、こんなに子供たちに変化があると思ってませんでした。ランディはわたしがいくら注意しても、夜中にゲームをするのをやめなかったのに……あなたがいるっていうだけでわたしがうるさく言わなくても宿題までやるようになって。ロンは何か、イーサンお兄ちゃんがテレビに出ていたので、そのことがきっかけでお友達と話したりしたそうですし。それに、ココとミミちゃんも……」
「ロンの奴、友達が出来たのか」
コーヒーを飲みながらイーサンは、驚いたように言った。
「わたしも、深くは聞かなかったんですけど、向こうから『ロンの兄ちゃん、きのうテレビに出てただろ』みたいに話しかけてくれたんですって」
「ふう~ん。そうか……」
「その、わたし……最初はこう思ってたんです。健全な母性のようものさえあれば、子供は自然と育っていくものだって。でも、違うんですね。あなたはあの子たちにとって兄でもあり父でもあって、そういう種類の父性というか、やっぱり両方なくちゃ駄目なんだなってあらためてそう思いました」
マリーが何故か少し寂しそうに微笑んだような気がして、イーサンはらしくもなく、彼女を慰める気持ちを起こしてしまう。
「そうでもないさ。実際、俺だってあんたがいてくれることで助かってる。というか、マグダには彼女が来られるだけずっと来てほしいとは思うが、マグダがいなくなっても、あんたがいればこの家は大丈夫だろうと俺はそう思ってるしな、特にあの……ココのポーチの件を聞いてから、そう確信した」
「……………」
八個分のポーチが一週間ほどで出来上がると、ココは狂喜乱舞していた。そしてその翌日にポーチをあげた友達の全員を家に招いたのだった。その時、マリーは九人分のおやつやジュースなどをワゴンに乗せて運んでいったのだが、部屋のドアが開いていたため、廊下を歩いている途中で、女の子たちの会話の一部が耳に入ってきてしまったのである。
『そうなの。わたしがきのう学校に着ていったあの服、あれもおねえさんが作ってくれたのよ。毎日美味しい食事やおやつも作ってくれて、わたしのためならなんでもしてくれるの。優しいし、口うるさいこととか、なんにも言わないしね。もう最高よ』
『へええ~。うちのママとあんたんちのおねえさん、交換してよ。うちのママったら、いつもガミガミうるさくってさあ』
『うちもよ。服を作ってくれたりとか、毎日おやつ作ってくれたりとか、絶対ありえない。服はファストファッション、おやつもなんかスーパーで買ったのをザラザラ皿にのせてあるって程度だもん。まあ、うちのママは働いてるから仕方ないんだけどね』
このあと、ココがマリーの作ったお菓子をこっそり学校へ持っていって友達と食べていることがわかり――なんだかマリーは、部屋へ入っていきずらくなった。そこで、ワゴンはそこに置いておいて、エレベーターでこっそり一階まで戻ると、マグダに運んでもらうということにしたのだった。
けれど、マリーは嬉しかった。時々、話していてココには嫌われているのだろうかと思うことがあっただけに……まさか自分のことを実はあんなに友達に自慢していたとは思ってもみなかった。そしてイーサンはそのことを指して、マグダがいなくても大丈夫だろうと言ったのである。
「でもほんとに……あなたにしてみたら大変なことだと思うんです。大学では勉強して、アメフトの練習や試合もこなして……家に帰ってきたら帰ってきたで、子供たちのことをわたしがああだったとかこうだったって言う感じだし……」
「まあな。なんにしても、とうとう来週はロンの誕生日だ。誕生日の二日前に試合があるが、俺は絶対次の日には帰ってくるから、準備の手筈なんかは当日、俺が全部取る。あんたはあんたで、十九世紀の手芸の会の準備でもしていたらいいさ。あとは来週中に一度、屋敷全体を掃除しにハウスクリーニングの連中がやって来るから、前にも言っておいたとおり、見られても恥かしくない程度に片付けておいてくれ。掃除はあいつらがしていくから、軽くでも前もって掃除なんてしておかなくていい。あんたの狙い通り、これでロンの奴に友達が出来ればいいがな。それじゃおやすみ」
(やれやれ。この女はまったく脈なしだな)
半ば呆れたようにそう思いながら、イーサンは一階にある自分の寝室のほうへ引き上げていった。もっとも、こう思ったからといって何も、イーサンはマリーに恋をされたいなどと、そんな面倒なことを思っているわけではない。だが、少しばかりある種の期待はしていた。というのも、カレッジフットボールで活躍する自分の勇姿を見て――帰ってきた途端、もしかしたらマリーの自分を見る目が少しは変わっているのではないかと思っていたのだ。
だが実際には、変化はまるでなかった。もちろん、勝利の祝いに結構な手のこんだ料理を用意してくれたり、「本当に、おめでとうございます」などと、おずおず言われたりはした。でもそれだけだった。そしてイーサンは彼女の瞳の中に、自分に対してあまり興味を抱かないガリ勉タイプの女子と似た色を見てとったかもしれない。彼女たちはアメフトなんてやってる男は、脳味噌も筋肉で出来ている馬鹿ばかりだと、何かそう決めつけているらしかった。
(まあ、マリーの場合はそういうのとも少し違うがな。とにかく、男としての俺ではなく、子供たちに父性をふりまいてくれる兄のほうがよっぽど大事ってわけだ……)
それからイーサンは、試合の勝利後にしたキャサリンとの激しいセックスのことを思いだし、(あんな女のことなど、俺もどうでもいい)と、この件について考えることはやめた。そしてロンの誕生パーティのことに思考を移していくうちに――ベッドの中ですっかり眠っていたというわけだった。
>>続く。